第10話 手を伸ばしたかった

「・・・あったあった、これだ」

シンは一度家に帰る。別に寝る為という訳でもなく単純に家に準備にいったのだ。

以前、実家に帰った時倉庫の中に良い感じの剣を見つけて、持って帰ってきたのだ。

短剣と言うには大きく、剣と言うには小さいくらいの剣。おそらく無名武器ロストネームではなかろうかと、シンの直感がささやいたので頂いてきたのだ。

鞘に納め、ティルと同じように腰に剣帯と共に巻く。さらに脚に付けた小型のポーチに手のひらサイズの剣を幾つも収める。投擲用だ。

「うっし・・・行くか」

決意を胸に、家を出る。哨戒開始だ。




(確か、資料によれば・・・)

最新の犯行地点を訪れる事にする。本来入る事の出来ない現場だが、一応権限で見れるとは思える。

(・・・こんな事する柄じゃ無いけどな)

冷たくなった頭では何でこんな事をしているんだろうと少し思う。あれほど仕事嫌いの自分がなぜこんなにも働いているのかが分からない。

でも、これも仕事だと割り切れる。面倒ではあるが、やるしかない。

屋根の上を駆けながら、シンはそう思うのだった。


犯行地点は第4区2の街3条。裏路地のひっそりとした所で犯行は行われたらしい。

「あー、軍警の方ですかね?俺、Re:Leのシンという者ですが・・・」

「あ!!RLの方ですか!!どうぞこちらへ!!」

所属を名乗ると軍警の者は快い笑みを浮かべ、道を塞ぐテープを上に上げる。

テープをくぐり、現場に入るシン。

検死部隊、殺害された者のいた位置や証拠物品を探す部隊等、現場は人の往来が激しかった。

「どうも、ご苦労様です」

「ああいえ!!我々としてもありがたい限りです!!」

お互いに一礼を交わし、情報交換の時間に入る。

「これが今回の現場です。何も動かさず撮影したので正真正銘これが本物です」

手渡された資料は写真。発見当時のものだ。

まず目を引かれるのは、遺体の上に咲き誇る水晶の花だ。傷口に沿ってヒヤシンスが一面に乱れ咲いている。

そして、傷口は肩から腰にかけて斜めに深く斬られている。

半ばから分断されたはらわたが傷口からでろりと出て、苦手な人なら失神するような写真になっている。

辺り一面に散った血が深紅の花のようで美しささえ覚えさせる。

「・・・惨いな、殺害された人物の特定は?」

「済んでおります!」

資料をさらに手渡される。遺体は軍警所属の腕の立つ精霊師。誰にでも優しく、困っている人を放っておけない正確だったそうだ。

「・・・なるほど、死亡推定時刻と水晶の成長時間は?」

「発見時、死亡推定時刻は五分前、そして水晶の成長時間は十七分です。辻褄は合いません」

やはりそうか、シンは内心で呟く。

魔水晶は生命活動が終わった生物の体内霊力を吸って成長する。しかし、死亡推定時刻と魔水晶の成長速度にはラグがあり、必ずその差は12分。どうにも怪しい。

「すまん、俺は次の場所へ行く。気をつけて調査を」

「いえ、わざわざお時間いただきすみません!!では、お願いいたします!!」




「次の場所は第六区二の街・・・」

「ぐあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

次の現場に向かおうとする途中、野太い悲鳴がシンの耳に飛込む。その声は、どこか聞き覚えのある声で。

「ッ・・・!!!」

まさか、そう思いつつシンは懐中時計で時間を計りながら燕進を使う。焦燥で脚が速まる。全力で走り、悲鳴の方向へと突き進む。


第十一区、二の街三条。廃工場の裏手で、鮮血をまき散らしながらゴルイスが横たわっていた。

悲鳴から約一分。シンがたどり着いた時にはゴルイスの体にはヒナゲシが咲き誇っていた。

急いで軍警とRe:Leに連絡を入れ、自分で現場を見る。

魔水晶のヒナゲシは美麗に狂い咲き、自慢だった岩の如き堅さの胸筋さえバッサリと繊維が斬られ、今も血があふれ出ている。

ぬくもりを失いつつある彼の姿を、シンは信じられなかった。


「・・・そうか、ゴルイスがか」

クロウが彼の死を悼み、検死部隊の結果などを聞いている。

そんな中シンは、一人近くの塀に腰掛け、うつむいていた。

案の定成長時間は16分。死亡推定時刻は4分。自分が話を聞いている間に彼は死んでしまった。後悔と自責の念が心を押しつぶす。

手を伸ばせば届く距離だった。でも、気づかずに過ごしてしまった。

深く、暗い青色が彼の心中の色だった。

(・・・でも、下ばかり向いていられない)

こんな仕事に就く以上、死は常に隣り合わせ。当然彼も承知しているだろう。ならば、その死を無駄にするな。そう思い、今一度思考を巡らせる。

(解を求めろ・・・死亡推定時刻と成長時間の辻褄を合わせるには・・・精霊か?精霊にそのような事が可能か・・・?・・・いや、ならばこれか?)

様々な思考を巡らせ、重ね、計算に告ぐ計算を行い、たどり着いた一つの

「・・・ボス、少しいいですか」

シンは、小さな声でクロウにこう伝える。

「・・・敵の能力が、分かったかもしれません」


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