Crystalkiller

第9話 クリスタル・キラー

「いやー今日も街は平和だね!!暇すぎて寝ちゃう!!さぁ寝よう!!」

「もう少し働いたらどうなんだ・・・」

いつもと変わらぬ月曜日。休日明けのシンは依頼が無いのをいい事にまたしても居眠りを敢行しようとする。

いつもなら怒りに震える筈のフィールだが、を聞いてしまっては怒るに怒れない。

「・・・そういや、脚は大丈夫なのか」

「ん?ああ大丈夫。『雫』を飲んだからな」

『雫』とは『ユグドラシルの雫』という特殊な薬にあたる物で、スイサ共和国の中心に位置する霊木ユグドラシルの葉に乗った朝露の事だ。これを飲むと立ち所に体内の細胞分裂と霊力マナの巡りが活性化し、あらゆる外傷も三日あれば治るという薬品だ。もちろんその分希少かつ高価、そして同時に副作用が起こるとそれこそ隷霊師が必要になるレベルなのである。

「おいおい・・・また貯金残高の桁が一つ減っただろ・・・」

「こういう時の為に常備してるからな。それに、そんな事の為に働いてるしな」

意外とあっさりとそう答えるシン。こういう事にはサバサバしてるのがシンの長所の一つでもある。

「おいおいシン、それは俺みたいな薄給組員に対する当てつけか?」

「いやそんな事じゃねぇんだが・・・」

シンの二年先輩、ゴルイスが肩を叩きながらシンに話かける。

「まぁ俺も薄給って訳じゃあねぇがな!!はははは!!」

この豪快な笑い方がゴルイスのチャームポイントだった。苦しい状況に立たされても笑い飛ばせる胆力の強さは一緒に任務に行ったシンやフィールもよく理解していた。

「はいはい皆さん、お茶も入ったので一度休憩になさいませんか?」

そう声をかけたのは、クロウの秘書・・・とは言いつつも皆の世話を焼くのが大好きなペル。彼女の入れる紅茶は絶品なのだ。

「よぉし飲むぞぉ!!あれ飲めば眠気も吹っ飛ぶ!!」

「ですが、条件がございます」

シンの体が固まる。処理が追いつかない機関からくりのようにピクリともしない。

「これから会議がございますので、出席くださいね」

天使の笑顔で地獄に連れて行こうとするペル。当然シンは逃げようとするが、ペルもRe:Leが精鋭、逃がしはしない。

「嫌だ!!放せ!!俺は寝ているんだ!!」

「逃がしませんよ、ボスからのご指示ですので・・・まぁでも、もし逃げようと言うのなら・・・」

気配が冷たくなる。油を差していないブリキ人形のようにギギギと首を回したシンが見たのは、酷薄な笑みを浮かべたペル。

「もいでさしあげます♡」

「恐れ多くも出席させて頂きますいやぁ楽しみだなぁあああ!!」

結局、出席するしか無いのだ。




「全員揃ったな、じゃあ始めるぞ!!」

クロウが号令をかけると同時、会議の参加者が一斉に立ち上がり、一礼を行う。これが慣習なのだ。

そしてシンはこういう堅苦しい場が苦手で苦手でたまらないのだ。

(帰りたい、家に帰って、寝ていたい)

東の国、ヤマトの言葉遊び『センリュウ』を反射的に行ってしまう。

会議用の資料に落書きを開始する。元々絵を描くのが好きなシンは小さなスペースからはみ出る程のクオリティで絵を描く。描いていたのは海と空。青が好きなシンはこの二つをとにかく気に入っていて、よく絵に描くのだ。

「えー続いてだが・・・シン、聞いてるか」

「え!?あ、はい一応は!!!!!」

いきなりの問いかけに焦りながらの返事。苦笑しながらクロウは続ける。

「ここ数日起きている一連の事件についてだ」

クロウの声のトーンが落ちる。一同はそれを感じ取り、真剣な表情へと変わる。

「現在、双霊師、隷霊師、精霊師、全てを狙った事件が起きている。全て殺人事件、犯人象も浮かび上がっている・・・しかし、おかしいことがある」

そう言うと、クロウは全員に手元の資料を見るよう促す。

「犯人はモトナリ・ムラムネ。一連の事件の犯人として上がっている人物だ。しかし、次の資料を見ろ」

全員が次の資料に目を通す。そこに記してあったのは、犯行時の時刻等を記した物。

「それらは全て、辻褄が合っていない・・・

「は・・・!?」

誰かが声を上げる。それに呼応するかのようにクロウが答える。

「殺害された全員には魔水晶と呼ばれる鉱物で出来た花が咲いていた。こいつらは持ち主の魔力を吸って指定された形に変化するんだが・・・」

そこで全員、資料を見る。合点がいったかのようにシンが答える。

「魔水晶の変化時間と死亡推定時刻の辻褄が合いませんね」

「そうだ・・・とりあえず、一例を見て欲しい」

その中の一人の記録を見る。

魔水晶の変化にかかる時間は約五分、そして色を変化させるにはさらに十分はかかる。

しかし、死亡推定時刻は検死の結果、という事になったのだ。近隣の住人が悲鳴を聞いてすぐに軍警を呼び、一分後には軍警達が訪れ、その場で検死を行っている為間違いは無い筈だ。

なおこれは同様の事件がこれまでに三十件以上起きている為の対応で、本来であればこんな事はしない。

「そして、機関からくりの映像記録によれば、確かに十分前にモトナリはここを訪れ、殺害を実行している。・・・何かが合わない」

「何か時間操作系の術を行使しているのでは?」

フィールが口を挟む。

「いや、違う」

クロウが端的に答え、理由を述べる。

「本来、時間系統の術を使う際は大規模な陣と霊力を要し、その上霊力の残滓まで残る・・・それが、陣はおろか、残滓さえ残されていない」

やはり、辻褄が合わない。組員は頭を抱える。

「とにかく、奴は現在時点で50人を殺した。共和国法に基づけば死刑は免れない。見つけ次第即応戦、ただし生け捕りや殺害を目指しすぎて死ぬ事の無いように!!」

威厳のある声が響き、全員敬礼をする。

「では解散、各行動するように!!!!!」




会議も終わり、疲れ切ったシン。しかし、事務所の外へ出て街を散策する。

「・・・許せない、罪無き人を殺すなんて・・・」

激怒の念に駆られたシンは、動き出す。

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