第8話 シンの昔話
「はぁあ・・・事後処理ってあそこまで面倒なんですね・・・てっきり報告書だけでいいものかと・・・」
結局あの後、首領が負けたという事を知った仲間達の動きはガタガタになりすぐに捕縛され、事件はあっという間に終結したのだった。
軍警の方々は泣いて喜び、感謝された。その時にはシンは帰っていたのでよろしく伝えてくれの嵐に巻き込まれたという訳だが。
そして道路関係は交通庁と呼ばれる公僕の組織の出番。鮮血や臓物で染まった道路の掃除の為に呼ばれ、泣いて悲しんだ。面倒だ、帰りたい、今週もうどれだけ働いたと思ってるんだ。怨嗟の声が辺りに響いたが、怒龍の爪にくっついたシンの肉片を見た瞬間何も言わず黙々と掃除をしてくれた。ありがたい事である。
「報告書も大事だが、こういう引き渡しであるとか掃除、壊した建物の賠償なんてのもあるからな。ま、今回は戦闘箇所が大通りだったから建物被害は無かったけどな」
クロウが心得のような物を伝え、フィールと共に事務所へと帰る。
歩く足取りは疲労からか重く、体も鉛のようだ。
「・・・そういえば、シンの事について詳しく・・・」
「そうだな、きっちり教えねえとな」
クロウは、知る限りの知識をフィールに伝える。
――シンの生家、グレース家はごく普通の家庭だ。ただ一つ特異な事を挙げるとすれば、父親が共和国内有数の研究者であった事くらいだ。
シンが生まれた時、シンの父の仕事は途轍もない量になっていた。家に帰る暇さえ与えられない生活。手紙で送られる赤子のシンの写真くらいしかシンを知る術がなかった。
母親の愛を受け、シンは大きく育った。二ヶ月なのに、もう地を這える程度には。
そして、三ヶ月が経った。この時、シンは父親に連れ去られた。
「ふ、ふふふ・・・そうだ、抵抗しない赤子を実験台にすればよかったんだ・・・」
不気味な笑みを浮かべた奴は、もはや父親などでは無かった。好奇心と欲、疲労にとりつかれたバケモノだった。
奴は、シンの体に様々な事を行った。
滅びた何かの遺伝子を混ぜ込んだり、細胞を採取する為に腕の一部を切り落としたり。シンが泣けどもお構いなしで行い続けた。
そして、とうとう禁忌に触れようとしていた。
それは、強制的な隷霊師化。従えるに相応しく無いとされれば一瞬で死に至るそれを、実の子供に行った。
隷従させたのは、当時『最悪』とも称された凶悪概念、<
体に結晶が沈み、一分経っても何も起こらない。
「成功だ!!はは、はははは!!!!これで、これで私も」
次の言葉は、紡がれなかった。周囲の霊力を吸い、巨大化したシンの左手が、頭を握りつぶしていた。
その手は真っ赤に染まり、頬に何かが滴る。
シンの一番初めの記憶は、それだった。
「・・・あ、あいつ・・・」
フィールの表情は驚きと無念の表情を浮かべていた。
「過去を悔やんでも仕方ないさ・・・それに、あいつはあいつで割り切ってるみたいだしな」
「・・・だといいんですが」
シンの過去を知り、怒りすぎたのも良く無かったなと、少し反省するフィールだった。
「ぐ、げあらぁ・・・・」
とある街にて。一人の精霊師の生命が潰える。
「・・・お前には、そうだな・・・ヒヤシンスがお似合いだよ」
小さいガラス玉のような物を、亡骸に堕とす。
翌日、見つかった遺体にはクリスタルでできたヒヤシンスが咲き誇っていた。
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