第4話 同期四人と女王蜂
冷や汗が頬を伝い、腹の奥底が冷え、震え上がるような感覚が体を支配する。ゾクゾクと身震いするシンの顔は、笑っていた。
本能的か、強者を前にして笑わずにいられないシンは、いつ己が死ぬのか分からないという恐怖さえ、笑えるようになっていた。
歪んだ感情だと認識していても、止められない。
「・・・大体ここから500メートル北西に進めば巣の中心、市役所前って訳だが・・・どうする?シン」
「決まってるだろ、突撃だ・・・お前ら『
シンの問いかけに三人は頷いて答える。
シンが応じるように頷いた瞬間、4人が走り出した。
「Re:Le」に入ると一番初めに教わるのが基礎移動法。疾走、跳躍、隠密移動に次いで習うのはそこから派生された応用移動法。
その内の一つが『燕進』だ。燕の如きスピードで疾駆する者は、時速60キロを超すスピードで走る事が出来る。当然、習いたての頃は時速35キロ程度しか出ないが、シン達は現在最高で50キロまで出せるようになっていた。
蜂さえも気づけない速度で走り抜け、巣の中心近くまでたどり着く。
市役所には時計台のような物が併設されており、その時計塔の上に巣の入り口と思しき空洞がぽっかりと口を開けていた。
蜂軍団が出入りしている為、迂闊に突っ込めない。
「・・・燃やそう。焼却処分に処そう」
「落ち着けフィール、燃やせば俺達の元に蜂が殺到するのは目に見える」
シンがフィールを諫め、ラルラの方へ向き直る。
「ラルラ、隷霊を使ってくれないか?お前の力が必要だ」
「ん・・・わかったの・・・」
ラルラは眠たげな眼をこすり、水色のボブヘアを揺らしながら呟いた。
「〔隷属の義務、果たしてね〕・・・<
『虚偽の事実を真の事実として誤認させる』という能力を持った隷霊の主、ラルラ。
本気を出したら強いのだが、いかんせん眠いからという理由でサボりがちなのだ。
「今回すり込んだ誤情報は?」
「怪しぃ人間は巣の中に入ってなぃ・・・これだけ」
母音や特定の行の言葉が少し小さく聞こえるのは、ラルラの癖だ。聞き取りづらいという気持ちを閉じ込めながら、シンが続ける。
「よし、それじゃあ一気に突撃。中の蜂を掃討しながら巣の中心へ向かうぞ」
話し終えると、シンが高く跳びあがった。
応用移動法『
巣の中は暗い茶色と薄茶色、ベージュ色が幾重にも折り重なったマーブル模様。歩く度に床がパキパキと割れるような音がし、少し不安感を抱かせる。
「うえっ、気色悪っ!!」
ユンナが声を上げる。その目線の先にあるのは、巨大蜂の幼虫。白くてブニブニとしている上、小さい頭部と蠢く肉に不快感を隠せない。
「大きな声を出すと誤認が解ける、少し声を小さくしろ」
「お、おぉ・・・シンが冷静だ」
フィールが驚く程に、シンは冷静だった。普段のシンならば馬鹿騒ぎし、かったりーだのめんどくさいだの言ってる所を、今やこの同期組を仕切るリーダーのように振る舞っている。
フィールが一人感動していると、シンが右手を挙げた。
「一回り大きな蜂がいる。おそらく女王だ、全員武器もしくは
シンが
ふと、シンの眼が濃い蒼に輝いたように見えた。
「・・・突撃ッ」
シンのユンナが前線へと
「ラ――ァッ!!」
「死ねェ!!」
シンが逆手で持った短剣を女王蜂の胸部を狙い、ユンナの持つ
られなかった。
この食物連鎖の頂点に立つ者としての威圧感を放ち、その透き通った羽根を細かく揺らして、ボバリングする。
その羽音が他の蜂を呼び、シン達はたちまち包囲されてしまう。
「やっべ、フィール結界頼む」
「いやこんなの張らなくてどうしろと!?〔隷属の義務を果たせ〕、<対外結界>!!」
外敵から身を守るため、閉めだしの結界を張るフィール。しかし、このママ籠城戦を続けるのは得策とは言えない。
シンは考えた。何か良い作戦は無いか、己の知識を総動員させた。
「・・・!!おいユンナ、俺達を『一つの刃物』って認識しろ!!」
「は、はぁ!?」
「そうすれば、お前の隷霊が使える!!」
そう、ユンナの隷霊は『刃物が無いと使えない』のだ。故に、普段はその能力が日の目を浴びる事は無いのだが、今回ばかりは状況が状況。ユンナも出来ないものかと試みる。
「・・・あ~・・・ダメだ~・・・」
「ユンナ、私達は刃。ぁなたが扱ぅ錐と一緒なの・・・」
ラルラがユンナに誤認をかける。一瞬ユンナが放心したかと思うと、急に生き生きと話し始めた。
「よぉっしいくよ皆!!しっかり捕まってね!!捕まる所ないけど!!」
そう言うが早いか、四人の周りを横向きの円錐が包み込む。
高音を立て、周囲の空気を逆巻かせながら、円錐の向きを反転させる。
方向は、北北西。先ほどまで居た荒野の方向へ。
「〔隷属の義務を果たせッ!!〕<
『武器を貫き通す』という思いを隷属させたユンナ。貫き通せるのは武器のみ、という厄介な力ではあるが、それでも十分。
蜂の巣をぶち抜き、北北西へと飛んでいく膨大な霊力の塊を追って蜂も空を駆ける。
「うっし、荒野まで戻って来れたな!!」
シンがまたニヤリと笑みを浮かべ、三人の方へ向き直る。
「お前らは向こうに行っておけ、フィールは結界を頼む」
「あ、あぁ・・・お前は?」
「必要無いさ」
そうしてシンは、大胆不敵にこう言い放った。
「あいつらに本物の恐怖ってのを味会わせてやる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます