第2話 働く少年、双霊師。
「・・・ソファに行くと思ったら、寝るためか・・・?」
クロウがソファーに移動したシンを軽く問立てる。
「いやだって・・・・眠いし・・・ぐぅ」
「寝るなッ!!」
長の叱責が建物を揺らす。
この共和国の首都には、大きく分けて12の街がある。その内の一つ、ヴァイオリィの裏路路にあるこぢんまりしたレンガで作られた事務所がRe:Leの事務所だ。
「働け!!!!!依頼もきてるんだ、さぁ起きろッ!!」
「依頼~・・・?面倒なのでパスで」
クロウの怒りの沸点を迎え、激怒が襲う直前。
「ボス、依頼にアレを付ければよろしいのでは?」
秘書のペル・ソニアが声をかける。理性を取り戻したクロウは、シンに向けてささやく。
「おいシン、今行くと言えばあの武器を使っても」
「よし行きましょう」
恐ろしい程の速さの手のひら返し。クロウでさえもたじろぐスピード。目をキラキラさせながらじっとクロウを見つめるシン。
呆れたように、クロウが口を開いた。
「あの
「ペアですか!いいです・・・よ・・・え?ペア?」
「そうだ、今回は――」
「っつー訳で、お前と一緒か、フィール」
「みたいだね、てかなんで僕とお前がペアなんだ」
「・・・一人称としゃべり方のギャップが」
シンの三人の同期の一人、フィール・メンデルス。元々高位の精霊師だが、大切な人を護る為に隷霊師となった人物。
「まぁ、俺もお前も
フィールの精霊は「業火」。「火」の精霊の上位も上位、最上位と言っても過言では無いレベルの能力。そして隷霊は「結壊」。結界を結んだり、堅牢な守りを壊す能力の使い手だ。前衛で攻撃するシンとは相性がいいのだが、無鉄砲かつ飽き性でぐうたらなシンに苦労性なフィールは毎度毎度振り回されるのだ。
「とにかく、今回は勝手に行動するなよ!!」
「わーったってー!!」
今回の依頼。それは没落したマフィアの掃除だ。過去の因縁からか、マフィアの一グループが没落したのを知り、苦汁をなめさせられた因縁を晴らそうという依頼が来たのだ。
「さける人員がいないんだ。汚れ仕事で悪いとは思うが、行ってきてくれ」
クロウに言われたら仕方ない。長の言葉は絶対なのだろう。
「てか何なんだよその気味の悪い武器」
「ん?あぁこれね」
シンが腰に付けた短剣。少し恐ろしげな雰囲気を解き放つその剣は、シンを魅了してやまないのだ。
「・・・頑張ろうな、ティルヴィング」
シンは名前を思い出せていた。魔剣ティルヴィング。灰色と藍色が混じったような色合いの刀身に、鋭い片刃の刃。
刃渡り25センチはあろうその剣を片手で軽々己の手のように扱うシンはある種の恐怖を抱かせる。
「とまぁ・・・着いた訳だが」
豪奢な鉄門扉は今や錆び付き、閂は中程からたたき折られている。
「中の奴ら、合計何名の殺害だ?」
「・・・ここのマフィアは合計約3200名。どの道、死刑になるんだ」
内心で成仏してくれ、祟ってくれるなと願いながらドアを開ける。
中にいたのは数名の男。サングラスに目元に大きな傷のある男がおそらくトップなのだろう。
「だ、誰だ!?」
男の一人が尋ねる。間髪入れずにシンが答えた。
「Le:Reの者だ。依頼でお前らの始末をさせてもらう」
組織の名を聞いた途端、中の男達は顔を青ざめさせ逃げ出す。
「おっと、逃がさねえよ・・・〔隷属の義務を果たせ〕、<緊縛結界><防制結界>」
フィールの隷霊が結界を結ぶ。この場から出られなくなる結界と、負傷から体を護る結界。守りたかったフィールの力は守りに向く。
「んじゃまぁ、死んでくれや」
そう言うとシンは駆け出し、腕を左右に振り抜いて男達の首を切り落とす。
辺りは建物が崩落したのか壁や柱の一部が瓦礫として周囲に転がっており、それを蹴って宙に舞い、一定の角度と力を加えて首を切る。
(・・・まぁ、おかしくなってんだろうな)
頸動脈や筋繊維、果ては首の骨まで。「人を殺す」という行為に対して違和感や不快感が無い。否、抱かないのだ。
むしろ、その行為に愉悦や快楽を抱いてしまいそうになってしまうが、精神力を以てそれを封じ込める。
(これじゃ、殺人鬼と同じか・・・いや、これは正義の為だ)
己の衝動を必死に食い止め、トップの元へと疾駆する。
逆手に持ったティルヴィングの先端を喉元へ突き刺そうとする。
瞬間、トップは幅広のナイフの腹でそれを受ける。火花が散り、反射的にシンは跳び退る。
「へぇ、そう来るか」
「まだ死ぬ訳にはいかなッ゛!?」
男の体を焰が焼く。口許から腹部にかけて大きく焼け焦げた体。隙だらけになった男の肩口から斬り付ける。
左の肺を肋骨と共に砕き、鳩尾で方向変換。右の肺へ向けて斜め上へと斬る。
Vの字に斬られた男は、体が前後にずれ、血反吐を吐きながら絶命した。
「・・・依頼完了、帰るか」
「そうだね。あ、結界は解除してっと・・・」
「そうか、すまなかったな。そんな依頼を任せてしまって」
「別にいいですよ・・・慣れっこなので」
少し憂いを帯びた表情で二人はクロウに報告する。すると今度はクロウの方から話し始めた。
「ご苦労だったな、今日は帰っていいぞ」
「いいんですか!?」
「いいともさ。だって・・・」
クロウがニヤリと笑って、シンに告げた。
「お前ら同期四人組は、明日から同じ任務に行くからな」
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