Re:Le

白楼 遵

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第1話 社長出勤ぐうたら少年

スイサ共和国、この国には「精霊師」という者がいる。

精霊と契約し、大気中や体内にある霊力マナを使い、組み替えたりして戦う者達だ。

正義の為に行使する者も居れば、悪用する輩もいる。

そして、物事には表と裏があるように、精霊師にも裏があって――




『早く起きろ!!出勤時刻を一時間も過ぎている!!お前は社長か!?』

「社長出勤の一つや二つで怒らんでくださいよ、ボス・・・むにゃ」

『起ッ!!きッ!!ろッ!!』

電話口からの声に耳鳴りがする。そう思いながら寝ぼけ眼を擦りながらベッドから出てくる少年。

シン・グレース。16歳の彼はとある組織に勤めるぐうたらの少年。黒髪碧眼の女の子っぽい子だ。

彼は精霊師だ。

「あー眠ぃ・・あ、ほんとだもう十時じゃん」

急いで着替え、短剣を納めた剣帯を腰に巻く。

「さぁ、地獄の一日の始まりだ・・・」

重い体を起こしながら、走り出すシン。

ぐうたら少年の一日の始まりは、勤務先への寝坊で始まるのだ。



「あー・・・これほどまでに走るのが面倒だとは・・・」

家を出て3分で走るのをやめたシン。勤務先へは20分はかかるのに悲しいかなぐうたらは走るのさえも嫌うのだ。

大通りは人の往来も多く、元々家にいたい彼にすれば嫌悪感マシマシな場所でしかない。

幅約50メートルの大通りは、馬車が行き交ってそこそこに狭かった。

面倒くさいし暑いし最悪だな、そう思っているシンの耳に飛込んで来たのは。

「だ、誰かぁ!!鞄、鞄を取り返してぇえええ!!」

きっと出かける途中であろうマダムの金切り声。

大きい手鞄を取られてヒステリックに叫ぶ。そして取ったと思しき大男は野太い声で人を退けながら逃亡する。

「あーあー・・・あの文様、精霊師か・・・」

男の手の甲にチラリと見えた、真円に光が散ったような文様。精霊師であることを照明するマークだ。

少し余った服の袖を揺らしながら、疾走を始めるシン。

一瞬で人の隙間を縫って駆け、男の元に着く。

「おじさーん、その鞄こっちに頂戴よ、仕事なんだ」

「あぁ!?黙れ、誰が渡すか!!」

途端、男の振り上げた右腕が猛烈に膨らむ。降ろされ、地に叩き付けられれば石のタイルを容易く砕き割る威力となった。

「やっぱ精霊師か・・・じゃあ俺も使わないとかな」

短剣を抜き、右の袖を捲り上げる。

指ぬき手袋の手の甲側に空いた穴には同じ精霊師の文様があった。

(おそらくこの感じ、変質者アルトレーターだな)

変質者アルトレーターは、霊力マナを自分の体の一部に変化させる能力を持つ精霊と契約した者。

対するシンは変換者コンバーター。物質や物体に霊力を変換させる精霊と契約したのだ。属性は刃。剣の刃を強化したり、あらたに生み出す事ができる。

「ふっ――」

「ハッハァ!!」

短剣と豪腕が交錯する。

押し負けこそしないものの、体格、筋力は圧倒的にシンが不利。そのうえ、腕に刃が通らない。

「だぁクッソ!!」

腕を弾き上げ、後退するシン。

左の袖もまくし上げ、手袋を外す。

そして、その甲に現われた文様を見て、観衆が騒然とした。

(・・・だから、嫌なんだよな)

細い羽根の間に細い菱形の文様。

精霊師の裏返しの存在を表すその文様は、見た人を戦かせる。

「れ、隷霊師れいれいし!!」

隷霊師。邪悪な精霊や概念を隷属させ、体に窶した者。国民に忌み嫌われ、差別される者。

しかし、彼らがこの国の荒事解決に携わっているのを、国民は知らない。

「・・・〔正しき世界に捻れた道を。隷属の義務を果たせ〕――<災禍災厄ディザスター>」

式句を唱えると、左腕に黒い鱗のような物が生える。<災禍災厄ディザスター>、恐怖や天災、人災の記憶、概念を隷属させた力。

相手にとって恐怖となりうる攻撃を生み出す、唯一無二の力。

短剣に黒いのを纏わせ、少し下がった声音で言う。

「俺の仕事はあんたを軍警に引き渡すまでの拘束とかなんだが・・・」

一息ついて、言い放つ。

「あんた、この後良くて気絶、悪くて死亡な」

刹那、空気が弾けた。気づけばシンは大男の後ろに立っていて。

一瞬遅れて血煙が舞う。

男の筋繊維が断ち切れ、骨も真っ二つ。あり得ない程の精度で斬られた男はパニックと失血で倒れる。

「・・・だから嫌なんだよ」

軍警も待たず、シンはそそくさと立ち去った。



「遅いッ!!遅い遅い遅いッ!!!」

「まぁまぁ、一時間半遅れたくらいどうってこと」

「あるわボケッ!!依頼があるんだぞ!!」

ボスのクロウ・リッピーに盛大なお叱りをくらいながらシンは居眠りをしかけていた。

荒事解決の依頼解決といえば、プロの隷霊師集団に。

その一つ、大手とされる『Re:Le』にシンは所属している。

精霊師と隷霊師、両方を持つ「双霊師」。それらが半数以上を占めるこの集団において、シンは若きエースなのだ。






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