第13話 即断と休息
「いや、その・・・すみませんでした」
ひとしきり泣き終わった後、ユウは恥ずかしそうにアルに謝っていた。
見た目は子供でも、前世では30歳手前まで生きた男だ。それなのに20代前後であろう女性に抱き着いてわんわんと泣いてしまった・・・
「ふふふっ、気にしないでくれ。キミは落ち着き過ぎていたから、年相応の部分が確認できてよかったよ。」
そういって頭を撫でられる。
姉がいたらこんな感じなのかなと思いながら流されるまま撫でられていると、アル以外の騎士のひとりがゴホンと咳払いをした。
それによってアルもユウ自身も、今が話の最中であったことを思い出す。
「あ・・・すみません。」
「いや、ユウくんは悪くない。私が仕事を忘れてしまっていただけさ。」
そう言って、アルは元々座っていたところに戻る。
「さて、盗賊については分かった。・・・ユウくん、ここ最近魔物が活発であることに気付いているかい?」
「そうですね。この村から人の気配が無くなったせいで、村にくる魔物も増えました。」
そう答えると、アルたちが少し気まずそうな顔をしている。
「その・・・実は我々がこの村に来る道中も魔物が活発化していて、多くの村に被害が出ていた。ずっと原因が分からなかったんだが、この村に来て原因が判明した。」
そう言ってアルは人差し指を立てる。
「ひとつめは、キミがいったように今まで人がいたところから人が居なくなったから。魔物たちがテリトリーを広げようとしているんだろう。」
そして次に、ゆっくりと中指を立てる。
「ふたつめの理由だがこれが問題でね・・・。魔物たちはおそらく、ここを住処にしようとしているんだと思う。」
バツが悪そうにアルはそう言った。
「ここを住処に・・・ひとつめの理由と何が違うんですか?というか皆さん、どうしてそんなに・・・」
ユウはどうして騎士たちがこんなにも言いづらそうにしている理由が分からず、率直に質問した。
「そうだな・・・魔物というものは群れごとに住処を持っている。通常は洞窟などだが、こうして荒らされた村なども住処にしようとするんだ。人間の家屋は快適だからね。」
アルは話を続ける。
「そして魔物のテリトリーというのは、住処の場所を中心に決まる。今まで被害が出ていなかった村にまで魔物の被害が出ていた理由は、おそらく魔物たちがここを仮の住処だと勝手に認定していたせいだろう。」
頭を強く殴られた気分だった。
ユウが守っていたこの村は魔物から勝手に住処認定されており、それによって今まで平和だった村にまで魔物の被害を広げていたのだ。
「そんな・・・どうにかならないんですか?」
「・・・方法はある。家屋や柵を解体して村でなくすれば、ここを住処にはしなくなって被害も収まるだろう。」
「じゃあ、すぐにやりましょう。」
「そうだろう。キミの大切な方々の思い出が詰まった大切な村だ。そう簡単には・・・え?」
ユウが村の解体に肯定的なことに、アルたちは驚いていた。
「ユウくん。村を解体して・・・本当に大丈夫なのかい?」
「村のせいで魔物の被害が広がっているなら仕方ないですよ。それに・・・」
窓の外に見える皆のお墓を見て、ユウは発言を続ける。
「皆だったらそうすると思うので。」
そう言って柔らかく笑った。
〜〜〜〜〜
話が終わってすぐに、騎士たち全員と家屋を解体していった。
すぐに取り掛かったからか、夕方には全ての家屋を畳むことが出来た。
さっぱりとした村の跡地をぼーっと見ているとアルに呼ばれる。
ついて行った先は皆のお墓だった。騎士たち皆で花を集めてきてくれたらしい。綺麗な花々で、みんなのお墓は彩られていた。
全員で手を合わせる。
・・・少しして騎士の何人かが、夕飯の支度を始めた。
実はユウは今とてもお腹がすいている。食事も睡眠も、あの日からとっていなかったからだ。
強化された身体は10日くらいなら不眠も断食もできてしまうようだ。野営の陣をとりながら食事をして、久々の食べ物がお腹を満たしていくのが分かる。
さて、残すは眠気だけだ。泣いて食べたらやはり眠くなる。ただ見張りをしないと、魔物が寄ってくるかもしれない。
そう言ってアルに見張りの順番について話をしに行くと、頭を撫でられながら「何も気にしなくていいから、ゆっくり寝なさい」と言われた。
最初は遠慮したが、アルの優しい目を見ると安心して眠くなってきた。・・・お言葉に甘えてゆっくり寝かせてもらおう。
そうしてユウは久しぶりに休息をとったのだった。
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