第12話 残った涙

・・・やはりこうなったか。


驚いた騎士たちの顔を見てユウは思った。


転生した自分の外見は、明らかに成人していない地味な少年だ。


そんな少年が盗賊を倒したと言っても信じてもらえない可能性が高いと考えていたが、その通りだった。




どうやって信じてもらおうかと考えていると、アルが驚いた顔を正し咳ばらいをし、ユウに向けて話しかけた。


「呆けてしまってすまないね。その・・・一応確認をしたいのだが、盗賊の風貌や人数は覚えているかい?あと、盗賊を倒したのは何日前か。」


「はい。人数は20人に満たないくらいで、全員がばらばらの恰好・・・言い方は悪いですが、小汚い恰好でした。リーダーの男は顔に傷があって、体格も他の奴より一回り大きかったです。大剣と格闘技を併用して戦うスタイルでした。倒してから・・・10日経っていないです。」




覚えていることをつらつらと話しているとアルと騎士の一人が頷きあい、その騎士が外に出ていった。




「えっと・・・」


何かあったのかと戸惑っていると、アルがそれに対して答える。


「あぁ、すまない。申し訳ないが最初は少し疑っていた。だが風貌だけでなく戦闘スタイルまで情報と合致していたからね・・・」




話を聞いているうちに、外に出た騎士が戻ってきた。


手には高級そうな羊皮紙を持っている。




「ユウくん、悪いのだがここに一滴血を垂らしてみてもらえるだろうか?」


机の上に羊皮紙を広げてアルは言った。




ユウは頷き、台所にあったナイフを持ってきて指の先を少し切り血を垂らす。


すると垂らした血がうねうねと動いて、最終的に文字となった。


それを見て騎士たちは「おぉ」という驚きを含んだ声を出す。




「あの、これは・・・?」


「おっと、重ね重ねすまない。これは討伐書という魔道具でね、血を垂らした人が定められた期間内に討伐した人や魔物を表してくれるんだ。」




みてごらん。といわれてユウも騎士側から紙を覗き込んだ。




――――――――――


ゴブリン(205)


ホブゴブリン(6)


シルバーウルフ(79)


オーク(37)


ハイオーク(7)


デルドラ


ケール


ガガーネル


・・・


・・





――――――――――




なるほど。確かに自分が倒した魔物が数と共に記載されている。途中少し強いやつがいたと思ったが、なるほど上位種だったようだ。




「このデルドラというのが指名手配されていた盗賊の頭だ。その下の奴らも罪歴が確認できる。盗賊の一味になっていたのか・・・」


「人数も報告と概ね合っているし間違いないだろう。しかし、10日足らずでこの数の魔物を単独で倒しているとは・・・」




騎士たちが討伐書を見ながら話している。どうやらこれをもって、自分が盗賊を討伐したことが証明されたようだ。




「ではユウくん。話しづらいとは思うが、盗賊が襲ってきたときのことを詳しく話してもらえるかい?」


一呼吸おいて、ユウはあの日の事を騎士たちに話し始めた。


なんの前触れもなく盗賊が現れたこと。皆が囮になって自分を逃がそうとしてくれたこと。バランが自分をかばおうとして殺されたこと。やっと発現したユニークスキルによって切り抜けたこと。そして、皆を守れなかったこと。




全てを話し終わったころ、不意に体に温かさ感じた。


いつの間にか下を向いて話していたようだ。顔をあげると、ユウはいつのまにか横にきていたアルに抱きしめられていた。




「・・・もう一度だけ謝らせてほしい。本当にすまなかった。」


余計な脂肪が無くなり、慢性的な肌寒さを感じていた身体が温かくなるのを感じる。


それを感じた時、ユウはぽろぽろと涙を流していることに気づいた。




(あぁ・・・そっか。)


バランとゼレを目の前で看取った時以来、ユウは涙を流していない。


でもそれで済むはずないのだ。一人でこの村を守ろうとして気を張っていたが、久しぶりの人の体温でそれが一気に決壊した。




しばらくの間、声をあげてユウは泣き続けた。

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