第6話 絶望の始まりと覚悟
騎士が来てから3日が経った。
ユウがいつものように村の外れで農作業をしていると、村のちょうど反対側、村の入口がある方が騒がしいことに気付く。
「ん?また騎士団の人たちが来たのか?」
そう呟き様子を見に行くと、武装したガラの悪い集団が村に侵入し蹂躙をしていた。
「な・・・なんだよあれ・・・」
咄嗟に近くの家屋の影に隠れたが、入口付近にある家の人達を助けなければと考えた。
薬屋のアン婆ちゃん、農夫のブロアおじさん、医者のリルさん。他にもたくさんの人たちの安否を確かめないといけない。
一団は村の中心の方に向かっているようだ。目立たぬように迂回しながら、一団が通り過ぎた家をまわる。
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どうしてこの人生でもこうなるのか。
どうしてあんなことを少しでも考えてしまったのか。
今朝元気だった大切な人達は部屋の中にいた。いつものおだやかな顔は血で染まり、見たことのない凄惨な姿で横たわっていた。
絶望に支配され吐き気を催し、身体は震えて思考はストップする。
茫然自失のユウは、背後から男が近づいてくることにも気づかなかった。
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「なにをやっとるんじゃユウ坊!!」
ユウは背後から怒鳴られ我に返る。
振り返ると血に塗れたバランがいた。盗賊と懸命に戦っていたのだろう。
そんなバランの姿を見て、数秒へたり込んでいた自分を後悔した。
まだ生きている人も沢山いる。
若く動ける自分が村の人を守らないと。と立ち上がり、ユウはもう一度怒鳴られた。
「なにをやっとる!早く逃げろ!」
「バランさん今すぐに・・・え?」
あのバランのことだ、てっきりユウはちゃんと戦えと怒られるのだと思っていた。
なんのためにお前に稽古をつけたのだと。
しかしバランは今、戦えでなく逃げろと言った。
「お前の足の速さなら奴らも撒けるじゃろう。今すぐ村から逃げろ。」
「で…でも、まだ生きている人達がい」「これはみんなで決めていたことだ!」
みんなを助ける意志を伝えようとしたが、言葉を遮られる。
バランがユウの顔に向かって手を伸ばす。
殴られるのかと思い目を瞑ると、そっと頬を撫でられるだけだった。
目を開けると今まで見たことの無い穏やかな顔でバランは微笑んでいた。
「お前がこの村の皆を大切に思っとるように、この村の皆が1番大切にしているのはお前じゃ、ユウ坊や。お前がこの村に来て半年、皆は巣立っていった孫達が帰ってきたかのような温かい気持ちじゃった。」
「財産よりも自分の命よりも、何よりもお前が大事なんじゃ。じゃから逃げてくれ。儂らの大切なものを守らせてくれ。」
そうしてふとバランの姿を見ると、血濡れの姿は決して返り血だけではないことが分かった。
バラン自身も沢山斬られ刺され、それでも老体を引き摺って、自分を探しに来てくれたのだろう。
だからこそ、ユウは自分だけ逃げるという返事がすぐに出来なかった。
だが無情にも、決断の時は終わってしまった。
「おいおい思った通りだぜ。全員が村の中央の方に逃げて行くから変だと思ったら、逃げるための囮だったんだな。」
「っ!!ユウ坊、儂の後ろから出るな!」
声の方向を見ると、顔に傷がある男を中心に3人の盗賊がいた。
ユウたちがいる場所を取り囲むように、2人の盗賊がうごく。
感じるプレッシャーや他の2人の雰囲気からして、キズの男がリーダー格であることが伺える。
「よお爺さん。あんた結構抵抗してくれたみてえだな。ここまでチョロチョロと・・・あ?もしかしてジジイババア全員でそのガキを逃がそうとしていたのか?」
「・・・さぁどうかの。命の保証があるなら教えるが。」
「あーそりゃないな。俺は奪うのと同じくらい殺すのが好きなんだ。ジジババの骨ばった悪い感触でウンザリしてたから、そこのガキを締めにしようとたった今決めたところだ。」
そうして傷の盗賊は抜身の大剣をこちらに向けてくる。それを皮切りに左右の盗賊も臨戦態勢に入った。
(ユウ、儂が左の奴を何とかするから、そのすきに逃げろ)
そうバランが耳打ちをしてきたが、ユウすでに取る行動を決めていた。
バランの腰にあった剣のうち、1本を借りて抜いた。
「なっ、何をやっとる!儂に任せて逃げんか!」
「・・・バロンさんも皆もごめん。でも、逃げるなんて絶対に出来ない。」
そういってユウはバロンの横に立ち並び、傷の男に向かって剣を構えた。
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