第5話 後悔先に立たず

ボロボロにされ、さらにダメ出しをされながら村に戻ると、見慣れない毛並みの良い馬が共用の馬小屋にいた。




「バランさんあの馬って、あれ?バランさん!?」




バランは馬を見ると足早に村の中心部に向かっていった。


足の速さ自体はユウの方が速かったのですぐに追いつくと、身なりの良い騎士がゼレを含めた村の数人と話しているのが見えた。




「おお、ちょうど帰ってきたようじゃ。おーいバランさん、騎士さんがお見えじゃぞ。」




こちらを確認したゼレがそう言うと、騎士である美麗な女性はこちらを向き敬礼を取った。


それに対しバランも敬礼を取りながら近づき、話に加わった。




「王国騎士団のアルと申します。カムス村の警備を担当するバラン殿ですね。」


「いかにも、カムス村の警備を担当する退役騎士バランです。王国騎士団ともあろうお方がこんな田舎の村に…なにかあったのですか?」




以前聞いたことがあるが、退役騎士はその歳までしっかり国に仕えたという功績から、たとえ現役の騎士団長であったとしても無下には扱えないのだという。


よってバランは、この身なりも良く実力もあるだろう現役の騎士から、このように丁寧に接してもらえている。


もちろん、だからといって退役騎士の方が上の立場というわけでもないので、必然的にお互いが礼節を弁えた対応になるそうだ。




それにしてもこのアルという女性・・・パッと見てもバランの何十倍も強そうだ。


銀髪青眼、体格は一般的な女性的なものだが、動きが洗練されている・・・気がする。


バランには勝てないというイメージが湧くが、この騎士相手ではそもそも戦うというイメージすら湧かない。




きっと騎士団の中でもかなりのエリートなのだろう。


そんな事を考えていると話が終わったようだ。


では、と敬礼をして騎士が帰って言った。




「ねえねえじいちゃん、あの騎士さんなんて言ってたの?」


「この近辺に盗賊団が現れたそうでのう。小隊が定期的に見回るが、十分注意してくださいと言っておった。」


「全く。すぐそばに居て聞いとらんかったのかお前は。」




俺はじいちゃんに聞いてるんだよと、言い返すのを我慢して話を続ける。




「でもあの騎士さん強そうだったね。凄いエリートなんじゃない?」




するとバランが愉快そうに笑いだした




「かっかっか!そんなエリートが伝令役なぞするわけなかろうが!ありゃ現役の頃の儂と変わらん下っ端じゃ!」


「なんだと・・・」




この世界で成り上がるためには、あの領域よりさらに上までいかなきゃいけないらしい。


愉快そうなバランの横でショックを受けながら家に帰った。




~~~~~




その日の夜の森の中、焼かれた2本角のイノシシを囲んで食べているガラの悪い集団に、同じようなガラの悪い男が近付く。




「親分、本格的に騎士団が動き出しちまった。今後この辺を小隊が定期的にパトロールするみたいでさぁ。」


「俺らなんかに騎士団も暇なこった。めんどくせえが、そろそろこの国から出るか。」




親分と言われた顔に複数の傷があり一際ガラの悪い男は、そう愚痴りながら今後の動き方を考える。




「なんにせよしばらく目立って強奪できねえなら最後に1発、食料やら金目のもんを集めねえとな。てめぇら何か案はあるか?」




親分の男がそう聞くと、最初に報告をしていた男がすっと手を挙げて話した。




「この近くにジジババばっかりが50人くらい住んでいる村がありやす。その村ごと襲っちまえばしばらく分は持つと思いやすぜ。騎士団も今日行ったばっかりで、しばらくは村に行かないと思いやす。やるなら今でさぁ。」




その案に対して考えを張り巡らせるように目を閉じる親分の男は、数秒後に獰猛な目を見開いて答えた。


「よし・・・最後に思う存分やっていくか!」


その言葉を皮切りに前夜祭とばかりに男達が声を荒らげ始めるが、当のカムス村までそれが聞こえることはなかった。




~~~カムス村の集会場~~~




「~~~以上が騎士さんから聞いた話じゃ。各々頭に入れておいてくれ。」


「盗賊なんて…怖いわねえ。」


「そうじゃのう。こんな年寄り達狙わんでくれると助かるが…」


「まぁ、なんにせよ一番優先すべきは皆同じじゃ。」


「えぇ。老い先短い私達の大切なもの。それだけは守らなくちゃ。」


「ではもし万が一、この村に盗賊が来た場合は~~~」




~~~~~




村の皆が今日の事で集会をしている頃、ユウはベッドの中で考えていた。




膨大な魔力量で多くの魔法を使いこなしたあの人。


最強の剣技と聖剣・魔剣持って英雄と崇められたあの人。


多くの魔物を従えハーレムを築き、悠々自適に暮らしたあの人。




前世で読んだ様々な異世界転生の主人公と同じ立場に、今自分は立っている。


今はまだバランさんには勝てないが、もしかしたら明日朝‬起きていきなり力が覚醒するかもしれない。


この世界で成り上がるためのチート。まだわかっていないだけで、あの英雄達と同じ力が自分にあることを、ユウは少しも疑っていなかった。




「村がピンチとかになれば秘められた力が覚醒するかもしれないのになぁ・・・」




そんな不謹慎で楽観的な考えを、ユウはこの先一生後悔することとなる。

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