第3話 使えないスキル

「じいちゃんただいま!」


「おぉユウ、おかえり。いつもより遅かったのう。」




時刻は夕方に差し掛かる頃。


家のドアを開けると、ゼレが迎えてくれた。


ゼレは転生後に出会ってからずっと優しく面倒を見てくれ、今では本当の祖父と孫のように親しくなった。




ゼレには世話になる最初に、自分の全てを打ち明けていた。


そのゼレの助言で、この世界でも浮かないようにと阪東夕陽は名前をユウに変えて生活している。


全てを知っても怪しまず、さらには生きるための知識をくれたゼレに少しでも恩を返すため、ゼレが行っていた畑仕事や力仕事は全てユウが引き継いだ。




またこのカムス村は住人が老人しかいないので、唯一若いユウは色々な人に頼りにされていた。


「帰り道にアン婆ちゃんが倉庫の奥にしまった花瓶を出して欲しいって言っててさ、それを手伝ってたら少し遅くなっちゃった。」


「アンさんも去年腰をやっておるからのう。ありがとうなユウ。」




ゼレはこの老人ばかりのカムス村でも働き者の部類に入る人だ。


そういった立ち位置が関係してか、ゼレに助けを求める人も多く、自分の代わりに村の人を助けてくれたユウにお礼を言った。




「もう、いいって爺ちゃん。俺だってみんなの役に立てて嬉しいんだから。」


そう、ゼレだけでなくこの村に住む人達は、突然現れたユウを差別することなく接してくれた。


ユウがこの村の人達を好きになるのはすぐで、前世で味わうことがなかった人の温かみを感じながら日々を過ごしていた。




ゼレはもちろん、この村に住む全ての人がユウにとって大好きで大切な存在だった・・・ただ1人を除いて。




ドカドカと外から足音が聞こえ、ユウは身構える。


「今日は遅かったのう、ユウ坊や?儂の修行から逃げたのかと思ったわい。」


ゼレと同じくこの村の働き者の1人であり、隣の家に住む《防衛担当》の元騎士バランが、家に入ってくるなりそう言った。




「色々あったんだよバランさん。一息ついたら行こうとしてたんだから。」


「ふん!このたわけめ。どうせまたくだらん感傷にでも浸っておったんだろう。はよ準備せい。」




このトゲトゲしい意地悪爺さんだけは、他の人と同じ水準で大切に思うことは出来なかった。


「ユウよ気をつけるんじゃぞ。」


ゼレはそう言って夕飯の準備を始めながらユウを見送った。




ーーーーーーー




村から少し離れた木々の中で、若者と老騎士が退治していた。


不遜に構える老騎士に対し、若者は低く身を屈めて、手に構える木剣の切っ先を相手に向ける。




刹那、若者は動き出し素早い動きで老騎士を翻弄しつつ、その間合いに入り横一文字に木剣を振るった。


その木剣は鉄をも切り裂きそうな速度で老騎士に迫る。


迎え撃つ老騎士の救いはこの立ち会いが真剣でないこと、そして何よりも・・・




「じゃから見え見えじゃし遅いと言うとろうに。」


「うっぐ!いってえ!!」




若者もとい、ユウの剣筋が『勢いだけで大したことない』ことであった。




「儂のような退役騎士からすら、いつまで経っても1本取れんとはのう…」




元騎士バランは元伝説の騎士でも元騎士団長でもなんでもない、言うなればただの元騎士Aだ。


優秀な騎士には引退後も剣術指南役や教員などの誘いが来るが、特段そうでない騎士は「退役騎士」といって辺境の村に住んでのんびり暮らしながら村の警備を行う。




とどのつまり、そんなバランにさえもあしらわれるユウには、大した身体能力も戦闘スキルも無い事となる。


「最初はユニークスキルを持っとるというもんじゃから、ついに儂も隠居ができると思ったが・・・まだまだこの村の警備は辞められなさそうじゃな。」




そう。カムス村に来てすぐに、ユウはすでに自分のステータスを確認していた。口でステータスといえば見えると言われて、こんな簡単に確認できるのかと驚いたことを覚えている。そしてその結果はコレだ。




==========


名前:ユウ


種族:人間


強度:H


【ユニークスキル】


変換 Lv1


==========




転生につきもののチートは確かにあった。ユニークスキル“変換”がそれだ。ユニークスキルとは10万人に1人ほどの割合で発現し、既存のスキルの常識を覆す能力を持っている。




ユニークスキルを持っていれば、一生食い扶持に困ることはないと言われるほどだ。・・・自分のような例外を除いて。

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