2章エピローグ
そして少年だった彼はいつしか青年となる。
青年はダメもとであるバーの調理かかりの仕事に応募した。
ハンターの集まるバーでどこかに憧れがあったのだということは言うまでもない。
採用の面接のときバーのマスターは一目で青年が魔力なしだと見抜いて来た。
青年はそれに驚いたがもっと驚いたのはそれでも彼が青年を雇ったことだった。
「別に仕込みの時間は遅くならなければ大丈夫だろう。」
バーのマスターはそう言った。
「もし遅くなってもうちの客が魔物を退治してくれるさ。賞金が手に入れば奴らも喜ぶ」
そうして青年はバー、ステラで働くようになった。
調理は味が薄いとマスターに怒られながらもなんとかできた。特製牛筋煮込みカレーは時間をかければ青年にも作ることができた。
ある日遅くまで仕込みをしていた青年は黄昏時にまでまだ働いていた。
「まずいな。このままでは魔物が来る」
ここのハンターたちはみな気が良くて彼の為に魔物を退治してくれる。だがなるべくなら迷惑をかけたくなかった。
バーは開いているがまだ客は誰もいない。このバーは黄昏時が終わってからが最も栄えている。黄昏時はハンターの仕事の時間。まだまだ客は来ないだろう。
その時バーの扉が開いた。
青年が拭いていたカウンターから顔を上げるとまず魔人の角が目に入った。
いいな。魔人か。ハンターのお客さんだな。そんなことを思った。見かけない顔だった。
バーのマスターが彼に声をかける。
「また損害金が上乗せされたそうだな。ホウリィがいなくなってから苦労してるな。そろそろ資金も尽きるころじゃないか?おまえこの仕事向いていないよ」
笑いながらバーのマスターは俺のおごりだと言って特製牛筋煮込みカレーを彼の前に出す。
面倒見のいいこのマスターは食事の金がないハンターにこうしてカレーをふるまう。
その時外で魔物の気配がした。2匹だ。まだ弱い。レベル1の魔物。
「マスター。俺はもう上がります」
マスターに声をかけて急いでカバンを拾い上げ銃を構えて裏口から路地裏に飛び出す。
「あいつは…?」
閉まる扉の後ろで魔人がマスターに質問するのが聞こえた気がした。
しかしそんなことを考えている時間はない。
青年は路地を通り抜けて魔物の場所へ向かう。
暗闇の中気配を探知する。
いた。
小さな二匹の魔物がこちらへまっすぐ向かってくる。
銃声は二発。それですべて片付いた。祖父がくれたシオンの銃は、弱い魔物なら倒せるだけの威力の銃弾も撃てる。
そのまま急いで家へ帰ろうとする。
不意に拍手の音が路地裏に響いた。静かな路地裏で、その音は奇妙に大きく響いた。
青年は驚いて後ろを振り向く。
そこにはあのバーで見た魔人が立っていた。
「話には聞いていたがすごいな、あんなに小さな魔物を間違いなく打ち抜いた」
魔人は感心した声を上げる。
青年は魔人の魔力の気配に気が付けなかったことにとまどった。そして気が付いた。魔人の魔力が家々に配給される無属性の魔力と同じものなのだと。透明で気配の薄い魔力。だが意識を集中させて感じ取れる魔人の魔力は実に強大だった。
「俺は今相棒を探しているんだ。よかったらハンターにならないか?」
魔人はそう言って青年を勧誘した。
「…俺は魔力なしだぞ」
青年は念のために確認する。
「分かったうえで言っている。それでもお前の腕は本物だ」
そう、強大な魔力の魔人に言われて。魔力なしの青年は本当にうれしかった。
それまでの自分の努力が報われた気がした。
彼は自分の為に努力をしていくと決めていた。自分で自分を認めるために。だが今、彼を認めてくれるものが現れた。
「本当にもし可能なら。俺はハンターになりたい」
そう言った青年に魔人は契約の成立の握手の為に手を伸ばした。
「俺の名前はフレイア・ミストラル。フレイと呼んでくれ」
「俺の名前はシオン・アイグレーだ。シオンでいい」
そうして相棒となる二人は出会った。
魔力なしと魔人は。
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