1章16話 アルトの依頼

「ここのはず、だけどな」

土曜日の昼。アルトは似たような倉庫ばかりが連なるエリアに足を運んでいた。

クラウドナインは中心に行くほど建物が高くなる。物理的な高さだけでなく、家賃も高くなる。

その反対に端に行くほど建物は低くなり、家賃も安い。

そして端には、裕福なほうと、貧しいほうの地区がある。

裕福なほうの端には高級マンションが立ち並ぶ。

貧しいほうでは安アパートが立ち並ぶ。

ここはその二つの中間地点に位置する。そこは倉庫街なのだ。

理由は簡単。その中間地点には飛行艇の港が存在するからである。

治安は良いとは言えないが、さほど悪くもない。そもそもあまり人が住んでいるエリアではない。ただ、倉庫の中のものが盗難にあうのを防ぐために、ある程度の治安は維持されている。

飛行艇に乗せるものを保管しておくのに倉庫街が近くにあるのは理にかなっている。

そんな似たような背の低い倉庫街をアルトは歩いていた。

魔法トラックの荷物が降ろされていたり、土曜日だが昼間なので人の活動は見られる。クラウドナインでは土日祝日構わずに、多くの荷が降ろされたり、乗せられる。

それでも住人らしき人はほとんどいない。みな忙しく働いている。

それぞれの企業の上下に身を包んだ人たち。ユニフォームを統一するのは、お互いがどの企業に所属しているか、はっきりさせるためか。

制服を着ていないものたちは、自由業のトラック運転手のような人もいる。

巨大な倉庫は、いくらでもものが入りそうな大きさをしている。そういう大きい倉庫は入り口に柵が張り巡らされ、正面入り口のゲートがつけられていて、出入りする人たちが、ライセンスらしきものを見せては通り抜ける。

そんな中アルトは一人場違いなところを歩いている気分になる。アルトぐらいの子供は全く見当たらない。ここには遊ぶ場所も学ぶ場所もないからだろう。

太い道を魔法トラックのような大型の移動手段が使われている。アルトは道の一つ一つの信号で止まり、積み荷を乗せたトラックが通り過ぎていくのを待つ。大きなトラックを珍しく感じ、アルトは自分もクラウドナインに慣れてきたなと思う。

クラウドナインでは人は大体空中バスと、地下鉄で移動する。

理由は簡単。入り組んで作られたクラウドナインの道は時に魔法車の通れないほどの狭さとなる。だから、単純に車を使うメリットがないのだ。

その代わりに魔法スクーターが多くみられる。

三輪の車より二回りほど小さい魔法バイク。折り畳みができて便利な、キックボードのような魔具もある。

それらに荷物を乗せる前に中間地点へ、より大きなトラックがこの倉庫街からは出ているようだ。倉庫街にはそれが可能な太い道があちこちで見られる。それらをアルトは超えていく。

リンクの地図を再度確認し、足早に倉庫街を歩いていく。

そしてたどり着いたのが、二階建ての建物ほどの大きさのこじんまりとした倉庫だった。クラウドナインの外でなら、都会の狭い一軒家のようなたたずまいでそこに建っている。

正面のシャッターの降りた搬入口らしき場所で、アルトはどうしたものか悩む。

とりあえず、倉庫を一周して観察してみた。

裏に回ったとき、小さなドアを見つける。

人が出入りするのにちょうどいいサイズだ。少なくとも表通りに面した搬入口のシャッターよりは人が出入りする場所に見える。

アルトは慎重にドアを観察し、その横にインターフォンが取り付けられているのに気が付く。

ここで間違っていないのかもしれない。だが間違っていたら嫌だなと思いつつ、アルトは意を決してインターフォンに手を伸ばす。

「アルトか、よく来たな」

果たしてドアは開いて、シオンが扉を開けて顔を出す。

「よかった、場所違いじゃなかった」

アルトは脱力する。

「ごめんな。分かりづらいよな。というよりフレイ、お前事務所が元倉庫だって言わなかったな?」

シオンが事務所内部へ向かって言う。

「リンクで、場所の地図は送った」

フレイの平然とした声が聞こえてくる。

「そこはきちんと言い添えるべきだろう。まったくフレイは気が利かないな」

シオンが言いつつ、扉を大きく開ける。

「アルト、さあ入ってくれ」

アルトはシオンに続いて事務所に足を踏み入れる。入り口からすぐの場所から左右にちゃあちな青い仕切りが並んでいる。その仕切りによって玄関からまっすぐに廊下の様なものができている。

廊下の一番端は仕切りで隠されている。玄関の正面のカベから突き出るように支えられたロフトがある。

フレイがひらりとそこから降りてくる。よく見るとロフトへの道は存在しない。

「こっちが、依頼人を通す事務所だ」

シオンはあたりを見回しているアルトに言い。玄関からまっすぐに伸びる仕切りの廊下の右手にある空いた空間へ案内する。

「こっちには何があるんですか?」

アルトは好奇心から、廊下の左側を指さす。そちらの仕切りに通り道が開いていない。

「そっちは俺の部屋だ。ここは俺たちの事務所兼自宅だからな」

シオンが言い、アルトは少し驚く。

シオンとフレイの戦いをまじかに見て、彼らのすごさは分かった。それなのに、こんな倉庫街に事務所を構えている。その上事務所と自宅が同じである。ということは彼らに財政的な余裕がないということを示している。かつかつだとは知っていたがよほどのことのようだ。

「こっちに座ってくれ、今お茶を用意する」

シオンが言い、事務所として使われているエリアにあるソファにアルトを案内する。

アルトは言われたとおりにソファに腰かける。

アルトの座るソファとテーブルをはさんだ向かいにあるソファにフレイが座る。

「アルトはお茶は何がいい?緑茶があるんだけど、それでいいか?」

シオンが言う。緑茶は最近クラウドナインで流行っている。健康にいいという触れ込みで、目新しいものが好きな都会人に受けている。

「そんなじじ臭いものは嫌だろう。紅茶がいいだろう」

アルトがじゃあそれでいいです、と言う前にフレイが口をはさむ。

「じじ臭いとはなんだ。最近の流行りなんだぞ。紅茶の方が古臭いだろう」

シオンが怒りの声をあげる。

なんで、この二人は流れるように喧嘩をしているんだ。アルトは対処に困って視線をさまよわせる。

テーブルの上に羽付きトカゲのフィンが舞い降りる。

クゥエ…。フィンはとてもどうでもよさそうにテーブルで丸くなる。

喧嘩に動じないその姿勢はフレイとシオンがいかにいつもこうなのか、ということをアルトに知らしめた。

「じゃあ、コーヒーでお願いします!」

アルトは妙案が浮かんで即座に言う。

「じゃあ、全員コーヒーで」

シオンがにこやかに言い、通路の奥へ消えていく。おそらくそこが台所なのだろう。

アルトは窮地を脱して、ほっとする。

「どうぞ、コーヒーだ」

シオンが三人分のコーヒーをお盆に持って現れる。

お盆をソファの間のテーブルに置き、自分はフレイと同じソファ、アルトの正面に座る。

アルトは秋風に冷えた手でコップを持つ。熱いコーヒーを飲むとひと心地ついた。

「で、依頼とはなんだ?」

フレイが話を切り出す。

「受けてもらえるか分からない、依頼で、その上信じてもらえるかもわからない話なんですけど、聞いてくれますか?」

アルトが最初に前置きする。自分でもその話が本当なのか分からない。だからこそ調べたいのだ。

「話ぐらいは聞くから安心しろ。信じられなくてもバカにはしない」

シオンが請け合う。

「ありがとうございます。それで、報酬なんですけど、分割払いはできますか?俺の高校はアルバイトが大丈夫な学校なのでそれで少しずつ払います」

アルトがおっかなびっくり言う。

シオンは無料でもやるよ、と安請け合いしそうだが、フレイはそうはいかないだろう。

「アルバイトが許可されているならそれでいい」

フレイがなぜか乗り気のようだ。

アルトはほっとしたような、不思議なような気がした。

フレイとそこまで面識があるわけでない。だが彼は学校での事件でも報酬の有無に強いこだわりがありそうだった。

「とりあえずは、話を聞いてからだな。俺たちにその依頼がうけられるのか、という問題もある。俺たちはこう見えて、かなり底辺のハンターだからな。いつもカツカツだ」

シオンが自嘲するように言う。

それは彼らの事務所を見ていても分かる。

「いいんです!俺はお二人だからこそ、依頼をしようと思ったんです」

アルトが正直に言う。

「そう言ってもらえるのはうれしいな」

シオンが照れ臭そうに言う。

「そろそろ本題に入れ」

フレイが無駄を嫌って言う。

「そうですね。依頼の話をするなら、まずは俺の両親のことを話さなければならないですね」

アルトが情報を頭の中で整理して話始めた。

「俺の母親は、アトラス家のものです。ラスタ・アトラス」

アルトが切り出す。

「アトラス家は聞いたことがある。旧高位貴族だよな」

シオンが記憶を手繰る。貴族制が廃されて長いが、高位の貴族は未だ政治で大きな権力を持つものも多い。

「はい。アトラス家は代々魔力の高い子孫を残してきました。しかし、何事にも例外はあります。それが俺の母です。母は魔力に恵まれなかった。そのことからアトラス家で肩身の狭い思いをしたようです」

アルトが話す。

「生まれつきのことで周囲の期待にこたえられない。それは、つらいだろうな」

シオンが感情移入する。魔力なしとして生まれた自分と重ねてしまったのだろう。

「そうですね。そして父は、名の知れた大罪人のルフェルです。俺の父と母の両親が魔法院での友人だったので、ルフェル、と母は幼馴染として育ちました。父と母が恋人同士になったのは、自然な流れだったようです。ルフェルは母と結婚したいと祖父母に言ったそうです。しかし、それは許されなかった」

「なんでだ?子供のころから気の知れた仲なら自然に思えるが」

フレイが首をかしげる。

「アトラス家が許さなかったんだな」

人間関係に強いシオンが理解する。

「そうです。ルフェルはさほど魔力が多いわけでない。だからアトラス家はその結婚を許しませんでした。彼らとしては母にもっと魔力の高いもの、あるいは旧貴族の名のある家に嫁がせたいという政治的思惑がありました」

アルトが頷く。

「もう古いしきたりなんて、従う必要もないのにな。でも今の社会でも魔力の高いものが優遇される。生まれながらのことでそこまで縛られるのは嫌だよな」

シオンが自嘲して言う。

「そうですね。父と母もそう思ったようです。二人はひそかに駆け落ちしました」

「それでアルトが生まれたんだな」

「その前にもう一つ、問題がありました。父と母が駆け落ちして結婚してすぐに母は魔物病を発症したんです」

「魔物病。魔物のように魔力の流れが滞り、死に至る病だったな。昔は治療法がなかったと聞く。今は確か抑える魔具はあるはずだったな」

シオンが魔物病について記憶を掘り起こす。

「そうです。そしてその魔具は高価で、身一つで駆け落ちした二人にはとても払えませんでした。父は母に家に戻るように言ったのですが、母は死ぬなら父のそばがいいと言い家に戻ることを拒否したようです」

「相当アトラス家に戻りたくなかったんだな」

「そのようです。父は自分の無力さを嘆いた。そしてある日酒場で見知らぬ人物から祝福の指輪を受け取ったそうです。これを使えば、魔法封印図書館にたどり着く力を得られると。ルフェルは魔法解放戦線の一員と言われていますが、それは誤りです。ルフェルは妻を助けるために魔法封印図書館に侵入したんです」

アルトが言った言葉にシオンたちは驚く。

「報道ではそうされているよな?」

「それはアトラス家が捏造した情報です。アトラス家の名誉を守るために」

「ルフェルはアルトの母を助けるすべを見つけたのか?」

シオンが聞く。

「いいえ。母を救えそうな魔法は一つありました。それは大地を不毛の地とする代わりに、人間を永久的に生きさせるものでした。母は、そんなことは私は望まないと父を拒絶しました。父は母への愛を思い出し。踏みとどまったと言います」

「人間は永久に生きるようにできていない。小説でも不死の魔法の使い手は苦しみぬいて死ぬ定めだからな」

シオンが小説で知った知識から言う。

「そして俺が母の胎内にいることが分かり、母は俺の為にアトラス家に援助を願うことにしました。勘当したも同然の母をアトラス家は意外にも助けるのを了承しました。その代わりルフェルに自首すること。そしてアトラス家とのかかわりを話さないことを条件にしました。ルフェルはその通り、自ら出頭し自首しました」

「なるほどな。それでそれは依頼となんの関係があるんだ?」

フレイが聞く。

「俺の依頼は父、ルフェルの言うような、祝福と呪いの指輪が存在するのか。そして存在するなら、ルフェルの罪を少しでも軽くしたいんです。父は俺と母を守るために自首したから」

アルトが依頼を口にする。

「もしかして、アルトが依頼の担保にしようとしていた指輪が、その指輪、なのか?」

シオンが聞く。

「鋭いですね。そうです。これが、父を狂わせた祝福の指輪です」

アルトが首からネックレスのようにさげていた指輪を取り出し、テーブルの上に乗せる。

金色のそれは外見だけだとただの指輪に見える。

輪の一部がぽってりと太くなっていて、優美な曲線を描いている。

だが見た目はともかくこれは魔法金属アルカナで作られている。それの価値は相当なものだ。

「そんな呪いの指輪を身に着けていてアルトは大丈夫なのか?」

シオンが心配する。

「大丈夫です。父がいうには、受け取ったとき、この指輪の全体に緻密な魔方陣が彫り込まれていた。だが父が正気に返るのとともに消えたそうです」

「証拠隠滅に、効果を失うと消える魔方陣があると聞いたことはあるな。犯罪などで使われると問題視されていた」

シオンが考える。

「これは、誰かに調べてもらったのか?」

フレイはテーブルの指輪を手に取り、明りに透かして見ながら聞く。

「母が信用のおける魔具技師に聞いたそうです。その人がこれが純アルカナであることを教えてくれました。そしてアルカナそのものに微細で緻密な魔方陣を書き込むのは今の人間の技術では不可能だといったそうです。アルカナは高魔力を流し込みながら熱するという方法以外で加工できない。そして固まっているアルカナはダイヤモンドより硬く。それに細かな魔方陣を彫り込むのは不可能なのだと」

アルトが説明する。

「つまり、人間には無理でも、他種族なら可能、かもしれないな」

フレイがいい、シオンはフェイ・シーのことを思い出す。

「他種族、ですか?しかし人間以外の知的生命体はすでに世界から消えていると聞きますけど」

アルトが聞き返す。シオンもフェイ・シーを見るまでは疑っただろう。

「俺たちは実際に他種族と会い話までしたんだ」

シオンがアルトにその時のことを話す。

「そうだったんですか。それは、可能性としては高くなりますね」

「それに問題はもう一つあるだろう。この指輪には魔力クリスタルがついていない。だから正確には魔具ではない」

「だから、呪いと祝福の指輪、ということだな。フェイ・シーが禁術となった呪いのことを話していった。呪いとは、魔力以外の対価で魔法を発動させるものだと」

シオンがいい、アルトも納得した顔になる。

「それで、データスフィアで呪いの指輪について調べたんです。するといくつかそれと関連していそうな書き込みを見つけました。ただの噂話程度の話ではあるんですが」

アルトがいいよどむ。正確な情報とは限らないから、だろう。

「どんな噂なんだ?」

「呪いの指輪。それは人の感情の一つを増幅させるかわりに力を与えるそうです」

アルトがいいシオンが首をかしげる。

「それはそんなに大きな対価ではないように聞こえるが」

「そうとは限りません。人は感情で動くものです。一つの感情を増幅させられて制御できなくなればそれは危険ともなりえます。例えば母のために犯罪者となったルフェルのように」

「なるほどな感情が制御できなくなるということか。まるで遠回しに人を破滅させているみたいだ。しかもいやなやりかたで」

「だが、それで指輪をばらまいている奴になんのメリットがある?」

フレイがつじつまが合わないし実益がないと思う。合理的な理由を欲しがるフレイらしい意見だ。

「一つだけ。指輪の魅力に打ち勝ったといっている書き込みがありました。彼はハンターで剣でかれを攻撃しかえしたそうです。その時フードから垣間見た顔の、わずかに見える瞳が、憎悪に燃えたつ暗い輝きを放っていた、と言っています。これだけではただのネットに多く見られる書き込みに過ぎない。真実かわからない、ですけど」

呪いと祝福の指輪。それが存在しうるのか、アルトには自信が持てない。

「ルフェルが急に魔法封印図書館に侵入する力を得るというのは不自然な気がするしな。それはある意味何かの力が手に入ったということに間違いないだろう」

フレイが考えた末に言う。

「フレイ、そういえば、このまえ、アーヴィングに見せてもらった動画。あれが呪いそのものだと言っていた。彼の指にもこれとは形は違うが、金色の指輪がついていた」

シオンが思い出す。

「あれも同じ呪いだ。もしかしたら、呪いの指輪である可能性は高いな」

フレイもあり得る話だと思う。

「動画、とは、どんなものですか?」

アルトが聞く。

「部外者には見せるなと言われている。だがおそらく呪いの指輪で間違いないだろう。アルトのいう指輪が実在すると俺たちは信じられる」

「それは、いい情報です。その存在自体が本当か疑問だったんです」

「じゃあ、アルトの依頼は引き受けるよ。呪いの指輪が本当に存在するなら、犯罪に手を染めてしまう人も出てくるかもしれない。犯罪を防ぐのも俺たちハンターの仕事だ」

「ありがとうございます。調査はシオンさんたちの仕事の合間に行うのでかまいません。報酬も自分のできる限り支払います。高校生で支払いきれなかったら、その先も利子をつけて払います」

アルトの言葉には覚悟があった。

「報酬の話だが、こちらから提案がある」

フレイが何かを企んでいる笑みで言う。

「なんですか?」

アルトは姿勢を正す。アルトはまだ学生だ。借金だってできない。何を要求されるのか、アルトは怖いような気もしながら聞き返す。

「できれば、俺たちに雇われないか?」

フレイの言葉はアルトにとって不意をついたものだった。

「雇われる?ですか?でも俺は戦闘なんてできないですよ」

アルトはできたらいいのになあと思いつつ言う。

「戦闘に高校生を巻き込むほど戦力がたりないわけではない」

「この間学校で力を借りたけどな」

「そう言う問題じゃない」

シオンのまぜっかえしに、フレイはいらだちにらむ。

再び険悪な雰囲気。

「つまり、戦闘以外で手伝いがいる。ということですね。俺のルーンの記述改変の腕を見込んでと言うことですか?」

アルトが喧嘩が起きる前に急いで言う。

「そうだ。フェイムを捕まえるのに、お前の情報収集の腕がいいことが分かった。それで情報収集担当のアルバイトとして俺たちに雇われる気がないか、ということだ。そのアルバイト代は出せないが、アルバイトの報酬として俺たちはお前の依頼の調査を続ける。それでどうだ?」

フレイが聞く。

「俺にとってもいい話、ではあります。それでいいと思います」

アルトが頷く。

「よかった。俺たちは正直情報収集が得意でない。だが魔物を狩るにしても下調べは必要だ。だからアルトがいると心強い」

「そう言ってもらえるなら光栄です」

アルトは自分が認めたハンターに認められてうれしくて照れてしまう。

「じゃあ、これからよろしくな。アルト」

シオンが言い。

こうしてアルトはフレイとシオン。二人のハンターに雇われることになった。

「後、言いたいことがあります」

アルトが立ち上がりざま、言う。

「なんだ?」「何か質問があるなら聞くよ」

「紅茶と緑茶は両方とも同じ樹から取れるんです。つまり、真反対のように見えてお二人は似た者同士、と言うことです!」

アルトが去り際にそう言い残して。

「似てないだろ」「似てないぞ!」

はたしてフレイとシオンが同じ言葉を言う。

二人はお互いをにらみあう。

アルトはその様子がおかしくて、笑ってしまった。

きっとこの二人なら、自分の依頼を達成できる。そんな気が強く、した

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