第6話 綺麗な翼なのに
「……眠い。」
確か昨日はあの堕天使の記憶を奪い、更に―――にして、―――眠ったはず……。
ムクリと体を起こすと此方を不思議そうな目で見ている見覚えのある少女が居る。
ほお……。あの結界を自力で破ったのか。
「……おはよう。」
「……お、おはよう……ござ、ございます。」
……ふむ、これは。
「どうしたんだい?」
「……ここは……何処ですか?」
どうやら消し過ぎたらしいな。
「ここは私の屋敷だ。お前はこの屋敷のある森で倒れていたのだ。目が覚めて何よりだ。」
「あ、あの……💦た……助けてく、くれて……ありがとう、ございます。」
「ああ。して、小娘。行く当ては?」
ない。
「な、なくて……💦」
ならば?
「私の屋敷に住むか?この屋敷はあまりにも広くてな、あまりにも寂しい。お前が私の役に立ってくれるのであればこれからもずっとここで暮らしていく事も出来る。」
「お、置いて下さい!!な、何でも、何でもします……!!あ、あそこだけには、か、帰りたくない!!」
へ~……。
「何でも、か。」
ベッドから降り、少女の顎に手を添えて目線を合わせる。
少女は怖いのか、目をギュッと閉じ、小さく震える。
「その翼の羽。それを対価としよう。」
「は、羽……?」
「そう、その2対の美しい翼。その羽が欲しい。」
少女は目を開け、丸くしている。
……ん?何か変な事を言ったか?
「は、羽……ですか?」
「ああ、そうだ。羽が欲しい。お前の背中に生えるその翼を作り上げている羽を。」
「……美しい、なんて……初めて、言われました。」
これは……もしや、トラウマの記憶だけ残ってるのか?……確かに、幸せな記憶しか喰えなかったな。
「何だ、シンメトリーでかつ対になる色を持ち、堂々としたその翼。美しいと言う以外にどう表せと言うんだ。」
十分綺麗じゃないか。だからこそ、コレクターが高く買い取ってくれるのに。
「それ故に、その美しさ故に高値で取引され、安定した生活を送る為に役立つ。」
「……ぬ、抜くのは痛いので……抜けた物、で……良いですか?」
「ああ、構わん。」
少女が少し頬を赤くしながら私の手を引いてくる為、大人しく着いていくと少女が眠っていた部屋の前まで連れてこられる。
……?
「え、あ、あの。」
「何だ、ハッキリ言わんか。」
「は、はい!お、起きた時に驚いちゃって、は、羽をばたつかせてしまったので……た、沢山抜け、抜けたから……。」
ああ、そういう事か。
「お前の羽は驚くと抜けるのか?」
「う、動かす度に抜けます。で、でも起きた時とか、飛んだ時はと、特に。」
扉を開けると枕をひっくり返したのかとでも突っ込みたいぐらいに白と黒の羽が散乱している。
お、おお……。こんなに。
「……だ、駄目……ですか?お、お仕事をも、貰えるならそれもこなします!だ、だから、だから―――」
「いや、良いだろう。仕事は私と共に住む悪魔のルイスと
「あ、ありがとう……ございます。」
「……では、最初の仕事は私からやろう。」
「は、はい!」
少女はとても明るく、嬉しそうな目と顔を向けてくる。
……天使にとって、羽を奪われるのはかなりの屈辱的な物だと聞いていたが、堕天使はその自らの翼を嫌うが為に何とも思わないのか。
「この羽を私と共に拾い集めてくれ。お前……そうだな、名前が必要か。おい、名はあるのか?」
「る、ルーナ……です。」
「では、ルーナ。ルーナは白を。私は黒を集めてこの袋に。……それと、もう幾つか。」
「……?」
「1つ、1人でこの屋敷から出ない事。ああ、中庭は自由に出ると良い。そして、この部屋もお前にやろう。2つ、ルイスとシルア、そして私以外の言葉を信じない事。……まあ、稀に客が来るがその時はルイスかシルアを呼びに行くと言ってその場を立ち去れ。この屋敷に居るとは言え、お前の歳と力では対抗出来まい。決して近付くな。例え我々が親しくしていても、許可するまで近寄ってはならん。3つ、我々の言う事は必ず聞け。これが出来ねばこの屋敷から……いや、お前を喰う事になる。我々は生物である限り、言語を持つ生物である限り全て捕食対象だ。死にたくなければ忠誠と従順を示せ。」
「は、はい!」
……嬉しそうな奴。
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