第4話 髪の毛1つ残さず

「嗚呼……。」


 契約も、獲物の捕獲も終えた私は自室で防音の結界を張り、1番最初に捕まえた女の護衛エルフの血を首筋から吸いながらエルフの全身を縛る白い包帯を眺める。

 白い包帯にはどんどん文字が刻まれていく。

 そう、記憶と知識を奪っているのだ。

 足りなくなればまた巻き直せば良い。

 この包帯は幾らでも作ろうと思えば作れるのだから。

 ……嗚呼、そうだ。

 スルリと抵抗力の弱まったエルフの黄緑色の髪に触れるとエルフが更に怯え、身を固くする。


「大丈夫、リラックスして……。」


 血を吸うペースを上げてやればストンと安らかな眠りに就く。

 そうそう、ゆっくり眠っていると良い。次に目覚める頃には全て忘れているのだから。


「こ、の……化け物、め……!!」


 おや、まだ記憶が。


「素晴らしい生命力だな、エルフ。……ふむ、そろそろ包帯を変えてやらんと。」


 影の触手を操って一ミリも触らずに服の下の包帯を新しい物に変えてまた記憶を奪う。


「くっ……!!」

「お前も2人のように身を委ねると良い。私の腕の中は心地良いぞ?」

「だ、誰が……!!」


 コンコンッ。


『お嬢様。3時のお菓子をお持ち致しました。』

「嗚呼……シルア。入っておいで、良い物を見れる。」

「失礼し……まぁっ!3匹も!」

「これからもっと手に入る。お前の番のお陰でな。」

「か、彼女に何をした!!」

「とある契約を結んでもらっただけだ。嗚呼……そうだ、シルア。見てるだけじゃ辛いだろう。」


 薔薇を1輪、知識も、力も、能力も、記憶も、血も搾り尽くした男の護衛エルフの心臓を狙って投げてやる。

 見事にエルフの心臓に突き刺さり、青白い魂がフワァ……と出てくる。

 嗚呼、やはりいつ見ても美しい。


「なあ……!!?」

「シルア。」


 シルアはもう待ちきれないのか、とても嬉しそうな、興奮した様子で此方を見ている。

 その気持ち、痛い程に分かってしまう。


「魂は……ルイスの物だ。それと、薔薇には気を付けて。」

「はい、お嬢様!!」


 シルアは大きな白蛇へと変化し、男の護衛エルフの体躯を絡め取り、自らの蜷局の中心に閉じ込めるとバリバリ、ブチブチと蜷局に頭を突っ込んで久方振りの食事を楽しむ。


『嗚呼ぁああぁぁぁぁあ……♪』

「は、白蛇……!?か、神の使いの!?」

「フフ。彼女は肉を好むのだ。しかし、この所良い餌が見つからず……ひもじい思いをさせてしまった物だ。」

『お嬢様!!お嬢様!!お嬢様も如何ですか!?』


 やっぱり、思った以上にテンションが跳ね上がっている。


「でも、それはお前の物だ。」

『いえ、お嬢様!!瘴気の中で熟成させてないとは言え、これは生でも十分に楽しめます!!どうか、どうか残りの2匹は瘴気で熟成させて下さい!!明日は、明日はエルフ料理にしましょう!!必ず、美味しい物を!!ですが、ですがお先に「あーあー分かった分かった。だが、あまり手は汚したくないのだが……。」

『それも……そうでございますね。幾ら美味とは言え、お嬢様のお手を汚すなど。では明日、明日の食事を是非ともお楽しみに。』

「ああ、そうしよう。」

『……あら、そういえばお嬢様。』

「何かな?」

『……革を剥いだり、髪を奪わなくて宜しいので?』

「嗚呼……。」


 そうだった。

 エルフの肌や髪で作った物はよく売れる。

 それはもう、夢でも見ているかのように。


「そうだな。忘れていた。あまりにも、久々の食事だった故に。」

『え、あ……ど、どうしましょう、お嬢様。もう……骨しか……。』

「いえ、シルア。男の肌や髪は状態が非常に悪い。女だけで構わんよ。」

『はい、お嬢様!』


 シルアはもう1度蜷局の中に頭を入れて骨を噛み砕いて食べていく。


「……ハァ。」


 ……堕天使、早く食べたい……。

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