第2話 供物フィーバー

 嗚呼、やっと愉しそうなイベントだ。

 まさか、堕天使とは。

 ベッドから降りてコートを羽織り、廊下を歩く。

 さてさて、どれ程の魔力と知識を蓄えているのだろうか。多ければ多い程実らせなければ。


「……そうだ。」


 シルアに言ってこの時代の本を買わせてくるのも面白い。

「本を読むのも好きだがお前が読んで聞かせてくれている所を見るのはもっと好きだ」とでも言ってみようか。

 堕天神のメンタルは強いが直ぐであれば酷く脆く、弱い。きっと簡単に堕ちるだろう。

 コンコンッ。


「お嬢様、わざわざご足労頂き大変申し訳ありません。」

「気にするな。して、例の堕天使は?」

「彼方に。」


 ……これは、想像以上だな。

 ベッドで眠る白銀の髪を持つ堕天使は想像以上にルックスも良く、多少の怪我はあるが損傷も少なく、非常に状態が良い程だと言えるだろう。

 魔力も多く、大変甘美に見えて仕方ない。

 ……嗚呼、ゾクゾクしてしまう。

 しかし、今ここで食べてしまっては勿体ない。


「いつ頃目が覚めそうだ?」

「大変お疲れのご様子でしたので三日は起きないかと……。……しかし、愉しみですねお嬢様。」

「全くだ。……どんな最期を見せてくれるのやら。」


 期待で心臓が弾けてしまいそうだ。

 ピアノの鍵盤の上に楽しそうに踊り回る指のように。

 意中の男でも見つけて初恋で胸が張り裂けるように。

 胸の高鳴りは止まず、平静を保っている表情が崩れてしまいそうだ。


「……それと、お嬢様。私の可愛い友人達から吉報が。」

「ほう。」

「この森の浅い所にエルフが住み着いたようです。」


 エルフ。エルフだと……!?


「堕天使だけでなく、エルフまでも……!?」

「ええ。……腕がなりますわ。可愛い友人達に頼み、監視を続けてもらっていますが……質が良い物ばかりで。きっとご満足頂ける事でしょう。」

「……嗚呼、愉しみだ。」

「……さて、と。ここで話すのも良いですが彼女に負担が掛かります、お隣のお部屋で。」

「ああ。」


 逃がさないよう、ちゃんと結界と鍵も付けて。

 嗚呼、嗚呼!!まるで我が世の春。こんなにも恵まれた時代に目を覚ませるなんて……!!


「どうぞ、お掛け下さいませ。」

「ああ。」


 楽しくて、嬉しくて、ソファに座ってから我慢していた笑顔が零れてしまう。

 本当に、本当に心臓が出てきてしまいそうだ……。


「どうぞ、抹茶のクッキーとレモンティーにございます。」

「……うん。54年前と変わらず、良い味だ。」

「ありがとうございます、お嬢様。」

「……では、報告の続きを。」

「ええ、お嬢様!是非、是非に聞いてもらいたい事が沢山ありますの!」

「私もお前に聞きたい事が沢山あって仕方ない……!」

「そのエルフなのですが、数匹ハイエルフが混じっておりますの!」


 は、ハイエルフ……!!?


「あの北の大陸に住むと言うあの……!!?」

「ええ、ええお嬢様!しかも、その内の何匹かは知識はあれど魔法が使えないようで同じ種族同士で迫害を……♪此方に来たのは恐らく1、2週間程前かと。今は時折ツーマンセルで周辺の警備や中腹辺りまで。の環境調査を行っている様子で。……“魔女の花”を使っても宜しいのでは……?」

「ああ、そうだな。“ワーラド”も良さそうだ。」


 魔女の花は、見た目はただの薔薇だがその棘には猛毒があり、一時的に意識を奪い取る事も出来る私の魔法。効果範囲はこの森全て。意識を奪い取られた者は術者である私の傍に来るまで正気には戻れず、更には仲間や森の外にも行けない為、結果的に此方へ誘われる。

 ワーラドはベールで出来た人型の妖精で、私が造り出した物だ。

 あれ等はウンディーネと同じく、唄や声で対象の心を奪う事が出来る。

 あの堕天使の娘が起きるまでに3日。……待っている間にハイエルフの1匹や2匹、又は子供を攫うのも愉しいだろう。

 ……嗚呼


「……シルア。」


 あまりにも嬉し過ぎて声が明るくなってしまう。


「今日も、その調査班とやらは来ているのだな?」

「ええ、お嬢様。今回は……4人、ですわね。戦闘に長けた男が2人。頭の賢い男と女が1人ずつ。場所は……ええ、あの暗がりの湖ですわ。」


 ……クク、思ったより近い上になんて良い場所。


「では、行ってくる。堕天使の娘……逃がすなよ?」

「勿論ですわ……♡」

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