第214話 拠点浸透作戦
「補給衛星の軌道投入に成功。低軌道プラットフォームへのドッキングフェーズへ移行します」
「他の衛星から映像が撮れるってのがいいわね!」
現在、
既に衛星軌道上で複数の監視衛星が運用されているため、上空から衛星打ち上げを観察することができる。
地上映像や打ち上げロケット搭載のカメラ以外に、より高い場所から打ち上げ中の様子が撮影されていた。その様子が正面ディスプレイに大写しになっており、イブはご満悦である。
「軌道調整を開始」
拡大映像の中、第2段ロケットが各所からスラスターの噴出を開始する。
今打ち上げた衛星は、既に運用中の低軌道プラットフォームを構成する第2段ロケット群への燃料補給を目的としたものだ。
高度300kmでは低密度ながら大気が存在するため、徐々に飛行速度・高度が落ちていってしまう。それを補うため、定期的にエンジンを稼働させる必要がある。
当然、軌道修正を繰り返せば、搭載された燃料は目減りしていく。
このロケットに燃料を補給するのが、今回打ち上げた衛星の目的だ。
ついでに、第2段推進ロケットも新型に換装されている。
ペイロードに巨大な燃料タンクを設置して燃料を満載しており、プラットフォーム上を移動しつつ各構成モジュールに燃料を補給、最後に所定の位置に接続する予定だ。
今のところ、この低軌道プラットフォームにはこれといった役割は割り当てられていない。
せいぜい、軌道上の様々な実験を行っている程度だ。
しかし、この世界での初めての宇宙空間での運用であり、様々な知見が不足している。ロボットアーム一つとっても、重力の違いが現行機械に与える影響が不明瞭なのだ。
今後は、実験装置を追加して研究プラットフォーム化するというのが有力な候補だろう。
「ドッキング軌道、調整完了しました。およそ5時間後にドッキング作業を開始します」
「うんうん、順調ねぇ」
「続けて、重力計測衛星の打ち上げに入ります」
重力計測衛星は、この惑星の重力分布を精密測定する目的の衛星群である。
互いにレーザー測距計で精密測定しつつ惑星を周回することで、重力の強弱を数値化するのだ。更に、<ザ・ツリー>上空の軌道を飛ぶ際に地上のレーザー測距計を使用して誤差を補完する。
<リンゴ>曰く、演算上の誤差を無視できるレベルでの精密測定が可能とのことだ。
「2号機、3号機の発射シーケンスを開始」
1号機が無事に打ち上げを終え、第1段ロケットも地上に帰還済みで、大きな問題も発見されていない。
<リンゴ>は問題なし、と判定し、後続のロケット打ち上げを開始した。
◇◇◇◇
夜の闇の中、舳先で波を割りながら、巨大な船が航行している。
今日は
「そういえば、この惑星って衛星が3個あるのよね」
「
「あ、そうなの。あれ、ぶつかるんだ……」
数千年後。
彼女からすると途方もない未来の出来事になるのだが。
「技術的には、我々の科学力であれば何とでもなりますので。その際は、指示をお願いすることになりますね」
「あー……。そうね。その時になったらね」
時間感覚が全く異なる意見に、
そうだった。
どうやら、自分には寿命がないらしいのだ。
そうすると、衛星同士の衝突という天体ショーを実際に観察することになるかもしれない。
まあ、それはさすがに、気にしてもどうにもならない話だ。
「接近は順調?」
「
現在、夜中ではあるが作戦行動中だ。
今後の話題の中心に成るであろう、プラーヴァ神国内。その内陸部に秘密基地を建造するため、工作船を送り込んだのである。
工作船は、全長300mほどある巨大な船だ。
視認性を落とすため喫水をかなり深くしており、数m程度しか海上には出ていない。
また、全面にアクティブ迷彩を施しており、太陽の下で見たとしても、数kmも離れれば完全に背景に紛れてしまうだろう。
積み荷は各種機材・資材に加えて、移動防衛用の多脚機械が多数。
これらを人里離れた海岸に上陸させ、内陸の山頂に監視基地を建造するのだ。
「ていうか、プラーヴァ神国ってけっこう広い?」
「
レプイタリ王国と、ラフレト海を挟んで西側に位置するプラーヴァ神国。
宗教国家として、周辺を教化することで勢力を拡大してきた大国である。
その大国は現在、野望を剥き出しにして東側の国家を侵略している。
その拡大速度は非常識なまでに早く、1年以内にレプイタリ王国にまで侵攻している可能性があると予測されていた。
そのため、早急にプラーヴァ神国に関する情報を収集する必要があるのだ。
「所定距離に到達。船体固定を開始しました」
海岸まで数百mという海上で、工作船は錨を投入し、船体の固定を始める。
上陸地点に選んだのは、砂浜が続く海岸だ。すぐ近くまで森がせり出しており、地上での荷降ろし作業の露出が最低限で済む。
もし海上船が近付いてきた場合は、工作船を水面下に下げて隠れる予定だ。
荷降ろしは、簡易的なモノレールを敷設して実施。森の中に集積拠点を建設、一気に物資を陸揚げし、工作船は退避。
これにより、<ザ・ツリー>勢力の露出を最低限にする。
「多脚重機を放出。物資集積場の建設を開始します」
工作船の甲板がパカリと開き、そこから多脚重機がせり上がる。重機はそのまま海面に飛び降り、海岸へ向けて泳ぎだした。
重機で目標地点を整地し、基礎杭をねじ込み、仮設の床材を固定して物資集積場を建設する。
夜が明ける前には、おおよその作業が完了する予定だ。
「早送りにしか見えない……」
そんな作業風景が移されたディスプレイを眺めながら、イブはぽつりとこぼす。
多脚重機の動作が精密かつ高速のため、確かに、何も知らなければ早送りにしか見えないだろう。
ここにフロート式のモノレール橋台を繋げれば、正に自動工場の出来上がりだ。
イブが見ている間にも、次々と工作船から作業機械が繰り出され、モノレールが岸に向かって伸びていく。
「偵察機を発進させます」
目標地点とそこに至るまでのルートは、観測衛星により割り出されている。
ただ、それは上空200kmからの撮影だ。実際に現地に行ってみると、思わぬ問題が発生する可能性がある。
そのため、まずは上空をドローンで先行させ、更に地上も偵察機で開拓するという手順を踏む必要がある。
静音モデルの偵察ドローンが、カタパルトで射出される。
磁気浮上型のモーターと静音設計されたプロペラに、音波の逆位相をぶつける消音装置を組み合わせたタイプで、ほとんど音を出さずに飛行が可能だ。
表面には色彩制御可能なアクティブ迷彩コートが施されており、遠目であればほぼ視認されない。
同様の構成で多脚偵察機もステルス化されており、万が一森の中に入り込んでいる人間が居たとしても、気付かれることは無いだろう。
「ついでに鉱脈でも見つからないかしらねぇ……」
他国に偵察戦力を浸透させつつ、
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リハビリを兼ねて、週一回程度の不定期更新で再開します。
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