第7章 神の国
第213話 神の国
「時は来た!」
荘厳な神殿のテラスで、拡声の魔法を用いた、厳かな声が響き渡った。
「我らが
黒を基調とし、豪奢な刺繍が施された法衣を纏った老人が、声を張り上げる。
「我らは耐えた。――何度も、何度も。――幾年も、幾年も!」
神殿の聳え立つ聖域の周辺には、多くの人民が集まっていた。
数万は居るだろう、黒山の人だかり。
「我らは耐え忍び、言葉で語りかけた。語りかけ続けた! だが――だが! 最後まで、彼らは我らの
集まった信徒たちは、静かに口をつぐみ、だが異様な熱気を持ってその言葉に聞き入っていた。
「いかに寛大な我らが
どう、と空気が震えた。
信徒たちが、一斉に
数万の声が、大きなうねりとなって
「
その
「我らの神敵を討ち滅ぼし、民を解放し、
「「「
応答は、爆音となって吹き荒れた。
神の兵たる
「
「「「
「
「「「
神殿の大扉がゆっくりと開き、整列した
こうして、プラーヴァ神国の聖戦、周辺諸国全てを相手とする外征の幕が切って落とされた。
◇◇◇◇
「それほど酷い状況か」
「はい。降伏にも応じず。王族、貴族は皆殺し、投降した兵、国民は全て奴隷落ち。財産もすべて没収され、殆どが農奴として連れ去られると」
「奴らの言う神とやらに仕えぬ者は皆等しく神敵であり、神の名のもとに一生を奴隷として過ごすことで救済されると。確かそんな話だったか?」
「はい。10年ほど前よりそのような通達が周辺各国へ行われたようです。我が国にも使者が来ました。まあ、普通の国であればそれを受け入れることはないでしょう。毎年のように来ておりましたが、今回は最後通告だったと、そういうわけでして」
「度し難いな」
外交部の報告に、永代公爵、アマジオ・シルバーヘッドはため息を吐いた。
「だが、看過できない。そうだな?」
「はっ。このまま彼らの外征が続けは、いずれは我が国にまで。大量の農奴を手に入れた彼の国は、大きく国力を増すことになるでしょう。また、帝政と異なり聖職者が治める国です。肥大化による弱体化、内部腐敗はあまり期待できません。50年後、100年後は分かりませんが、少なくとも10年程度では揺るがないでしょう」
「そうだな」
かくも、宗教は厄介だ。
それも、排他的な一神教で、正義を盲信している。
「あと5年もあれば、こちらも準備は整ったのだがな」
レプイタリ王国の陸軍は、現在大鉈が振るわれており、全体的に弱体化している。
海軍は精強だが、相手は大陸国家。海に面している都市はあれど、主要機能は全て遥か山の向こうだ。艦砲では射程が足りず、役に立たない。
「陸軍の近代化が間に合わない。支援しても、1年持つか」
「北方の国家群では無理でしょう。そもそも兵数が桁違いです」
「食糧を食い荒らしながら東征を続ける聖職者か。まるでイナゴだな」
「は。全くもって……」
だが、それでも何もせず座しているというわけにもいかない。
早急に手を打ち、進軍速度を鈍らせる必要がある。
少しでも押し留めることができれば、物資不足により一瞬で干上がるはずだ。
とはいえ。
「しかし、遠すぎるうえに兵数も不足している。後方を狙おうにも、そもそも相手に兵站がないから効果が薄い。前後で挟み撃ちにして磨り潰すしか無いか……」
アマジオ・シルバーヘッドは顎を撫でつつ、地図に指を走らせる。
「どちらにせよ、こちらの兵力が足りない。何とか時間を稼ぐしか無いが」
こうして、北大陸の西部は、泥沼の戦乱に巻き込まれて行くことになる。
◇◇◇◇
「結局、これってどういう状況なの?」
「大陸西方のプラーヴァ神国による、大規模な侵略戦争です。周辺の小国家群は軒並み飲み込まれていますね。レプイタリ王国も、距離は近いですが、幸い海で分断されています。海軍力は皆無に等しいようですので、しばらくは影響ないでしょう」
衛星写真の解析で判明した、北大陸で発生した大規模な軍事侵攻。
プラーヴァ神国はかなりの勢いで周辺国家を平定しており、その電撃的進行速度に各国は全く対応できていないようだ。
「お姉様、情報収集用の海底基地を進出させるべきでは?」
「んー、そうねぇ」
レプイタリ王国向けの海底基地は運用中であり、ノウハウは十分に溜まっている。
レプイタリ王国上空であれば、気兼ねなくドローンを滞空させることもできるため、通信範囲も問題ないだろう。
ただ、相手は陸上の国家だ。
海からのアプローチは、些か効率が悪い。
「<リンゴ>、何かプランはある?」
「
地下基地と言わず、普通に基地を建設してもほぼ露見しないのだろうが。
できれば鉱脈が見つかれば言うことなしだが、そう都合良くは行かないだろう。
「んー、そうねえ。当面はそれでいきましょうか」
地下基地を秘密裏に建設し、そこを中心に諜報ネットワークを構築する。
情報が収集できれば、さらに地下基地を増設することもできるだろう。
「候補地点はいくつかありますが、まずは海底基地を。拠点化できれば、そこからまずは沿岸部に進出させます」
「ねえねえ、お姉ちゃん。レプイタリ王国に基地を作ったらいいんじゃないの?」
「同盟国だし、ぜんぜんありだと思うけど~」
ウツギ、エリカの提案に、
まあ、正直、その案は検討しないでもなかったが。
「時期尚早……って気もするのよねぇ。主権国家相手にそこまで要求するのもちょっとね」
レプイタリ王国は、あのアマジオ・サーモンという元プレイヤーが治める国だ。
いや、貴族の1人というだけで、統治しているわけではないのだが。
そんな国に、その主権を脅かすような軍事基地建設というのも憚られる、というのが正直な感想なのだ。
「国力からすると、前線基地を1つ作れば、全土征服とかできちゃうのよねぇ……」
かの国に<ザ・ツリー>標準の前線基地を建設すれば、容易に国土掌握できる、との予測結果が出ていた。
「それに、そもそもこの戦争、私たちは首を突っ込む必要があるのかしらね」
「レプイタリ王国のみならず、周辺国家の勢力不均衡は、全体の経済悪化を招く。可能ならば、圧力均等に牽制しあう程度の緊張感のある情勢を続けたい」
アカネの意見に、イブはなるほどと頷いた。
レプイタリ王国とは、今も貿易を続けている。
少なくとも、その輸入品目の確保に支障が出るような情勢になってほしくない。
「んー。直接介入っていうのもなあ。もうちょっとこう、平和的に介入できないかしらね」
「レプイタリ王国に援助を行う、というのが一番波風の立たない参加方法ですね」
たとえば、弾道ミサイルで広域殲滅兵器を撃ち込めば、それだけでこの外征は頓挫するだろう。
だが、<ザ・ツリー>的にはそこまでする理由が特にない。単なる虐殺である。
国家間のやりとりなのだ。外様が、賢しらに介入すべきではないだろう。世界征服を狙っているわけでもないのだ。
「歴史に介入するかどうか苦悩するタイムトラベラーの気持ちが、ちょっと分かったわ」
「……お姉さま、たぶん、ぜんぜん違うと思う」
「そう?」
とはいえ。
縁のあるレプイタリ王国には、援助してもいいだろう。
おそらくは、相当な国難となる。
それに、かの国はどう対応するのか。
もし、素直に助けを求められれば、
だがそれは、超AIによる支配を受け入れるのと同義。
あのアマジオ・サーモンは、それを許容できるのか。
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第7章 神の国 の開始しました。
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