第152話 空の脅威

小麦の丘Wheat hill都市cityは、フラタラ都市郊外拠点から出撃した地上戦力群により、大きな抵抗もなく占拠が完了しました。

 遊戯騎士領村は、貨物機空挺群の戦力により包囲、現地領主の降伏を確認。

 アフラーシア王都は現在、降下戦力により無力化作戦を実行中です。

 ノースエンドシティは、ギガンティア、タイタン、オケアノス、コイオスが上空に到達。戦力の空挺降下を実施中。10分以内に、後続貨物機群も空挺戦力の放出を開始予定です」


 現在、アフラーシア連合王国内で比較的まともな経済活動を行っている各都市に対し、<パライゾ>軍は電撃侵攻を実施している。

 そして、その作戦は6割方完了しているといった情勢だ。


「多脚戦車が斬り倒されたのはヒヤッとしたけど。まあ、想定範囲内の損害ね」

はいイエス司令マム。撃破された多脚戦車は、現在多脚重機ウォーカーによって回収中です。王都の北にある宝石Jewelrylake飛行艇アルバトロスを向かわせていますので、そこから空輸で持ち帰って解析に回します」


 リアルタイムでモニターされた戦闘映像。生身の人間が全長10m以上の多脚戦車を剣1本で斬り倒す映像を見せられたときは、さすがの彼女イブも、少し興奮してしまった。 

 どうやらこの世界では、極まれば剣1本で巨大生物とやり合えるらしい。


 当然、コミュニケーションウィンドウ越しに一緒に観賞していた朝日アサヒは、歓声を上げていた。


『お姉さま!! アサヒ、アサヒにも解析させていただけるんでしょうか!? あの斬撃、多脚戦車のAIと直接対話して聞いてみたいです!』


「落ち着きなさい、アサヒ。ちゃんと参加させてあげるから。ていうか、リーダーはアサヒだから。落ち着いて?」


『キャッホーー!!』


 <リンゴ>が適切にボリュームを絞ってくれたため、司令官お姉さまの鼓膜は守られた。


◇◇◇◇


 ノースエンドシティは、アフラーシア連合王国で最も北側に存在する街である。

 国土北側の開拓拠点であると同時に、ある意味で最前線の街でもあった。


 この街は、日々、魔物と戦っているのである。


 とは言っても、魔物が攻め寄せてくるわけではない。

 この街からさらに北側には、北壁山脈と呼ばれる長大な山脈地帯が存在する。衛星を持っていなかった<ザ・ツリー>からも、その反対側を確認できないほどの峰が連なる、巨大な山々だ。


 そしてその高さは、10,000mを越えている。


 そんな北壁山脈の麓は広大な森林に覆われており、そこに多数の魔物が生息している、と言われているらしい。

 アフラーシア連合王国、ノースエンドシティの住人たちが知るのは、その森の表層のみ。森の奥地がどうなっているかは、誰も知らない。


 それでも、魔の森は表層部に分け入るだけでも命懸けではあるが、リスクに見合った成果を持ち帰ることもできる場所だった。


 故に、ノースエンドシティは何よりも力を尊ぶ気風があった。

 この街が荒野の真ん中ではなく、それなりの立地にあったならば、最も成功した都市となっていただろう。しかし、現実には田舎国家のさらに片田舎でしかなく、他国との交流も殆どない場所だった。


 交易にもう少し力を入れることができていれば、あるいはもっと発展していたかもしれない。

 ただ、場所が悪かったのだ。


 ノースエンドシティは、冒険者の街だ。

 冒険者は魔の森に分け入り、魔物を狩り、その素材を持ち帰る。

 食糧も、資源も、そのほとんど全てを、森の恵みで賄っている。


 力のあるものは強大な魔物と戦い、その獲物を持ち帰ってくる。

 知恵のあるものは、魔物を解体し、植物を採集し、その素材を戦闘や生活に役立てる。

 魔物由来の不可思議な性質をもつ多くの素材により、ノースエンドシティはそれなりに発展し、生きるのに困らない生活水準を維持している。


 そうして、そんなある種の平和を享受していた街に、遥かな高みより侵略者が襲来したのだった。


◇◇◇◇


 それは突然、南の空に現れた。


 空に、何かが浮いている。


 そして、気が付くと、それらは完全に空を覆っていた。


 当然、街中はパニックになる。

 なまじ、魔物という脅威が身近にありすぎた。

 故に、それは飛行型の巨大な魔物と捉えられたのだ。


 常日頃から魔の森に挑んでいる冒険者たちも、あまりの巨大さに逃げ出すことしか考えない。そもそも、勝てない魔物には挑まない、近寄らない、すぐに逃げるという習慣が身についた者たちである。


 とはいえ、逃げ出す場所は残っていない。

 南側から来ているため、そちら方面に逃げるというのは選択肢に入らない。通常、脅威度の高い魔物は森の奥からやってくるのだ。魔物が来た方向へわざわざ逃げるような者はいなかった。


 しかし、北に逃げても、それこそ魔物の巣窟である。


 故に、散り散りに逃げ、脅威が去ってから集合する、という方針が示され、その決定が住人に伝えられようとした。


 そんなタイミングで、空の巨大生物から、何かが大量に降りてきたのだ。


 もちろん、それは<パライゾ>軍の主戦力である多脚戦車だ。

 多脚戦車群はロケットモーターを吹かしながら、ノースエンドシティを取り囲むように地上に降りていく。

 つまり、住人たちの逃げ場は塞がれた。


 それでも一縷の望みを託し、複数の集団に分かれた住人たちが、複数の門からバラバラに逃げ出すことになる。

 このまま街中に留まっても、蹂躙されるだけ。

 魔物と共存できるとか、降伏が通じると考える者は全くおらず、それは<パライゾ>側の誤算といえよう。


 とはいえ、<パライゾ>側のやる事が変わるわけではない。


 制空権を確保し、上空の安全が確認された時点で、さらに南の空から多数の貨物機が飛来する。

 貨物機群は、腹に抱える多脚戦車や大量の多脚攻撃機をばら撒いた。


 正に、蟻も逃さぬ完璧な包囲網である。


 包囲網の突破を狙って突撃する冒険者と住人たちの集団を威嚇し、足を止めさせ、脅威度を下げてから人形機械コミュニケーターを出して降伏を促す。

 人形機械コミュニケーターは<ザ・ツリー>にとっては扱いやすい端末だが、多脚戦車などと違って構造的に非常に脆弱であり、あまり戦闘時に前に出す使い方は想定していない。


 現在、残敵掃討や敵の無力化を担っているのは全長2m程度の多脚攻撃機である。

 航空戦力の大量進出に伴ってマイクロ波給電範囲が拡がり、多量の味方目標に対して細かな給電制御が可能になったため、各都市攻略に大量に導入することにしたのだ。


 人形機械コミュニケーターは使い勝手はいいのだが、なにぶん高価であり、重要部品である頭脳装置ブレイン・ユニットの防御性能も低いため、実際の戦争で使いたい個体ユニットではないのである。



 そして、無力化された冒険者や住人たちはようやく、この侵攻が魔物ではなく、何らかの敵勢力によるものだと理解する。

 まあ、理解したところでどうしようもないのだが。


 <パライゾ>側にとってはいい話ではないのだが、送り込まれた多脚戦車や多脚攻撃機の損傷や大破報告が、ちらほらと発生している。

 やはり、個としての力を持つ冒険者が複数名存在しているようだ。


 だが、ノースエンドシティ攻略用に割り振られた戦力は、多脚戦車212台、多脚攻撃機848台。更に、上空戦力としてギガンティア、タイタン、オケアノス、コイオスが旋回中で、多数のドローンも同時に射出されている。

 予備戦力として運搬用ドローンで上空待機させている多脚戦車も複数存在しており、冒険者達に多少削られようとも、全体としての戦力は全く衰えていなかった。


 多脚戦車、多脚攻撃機、そして対人ドローンに護衛された人形機械コミュニケーターの一団が、ノースエンドシティの城壁内に踏み入った。

 逃走を諦めた集団が、領主館内に立て籠もっているのだ。


 その集団に対して降伏を呼びかけるのが、人形機械コミュニケーターの役割である。



 やがて、抵抗する集団の最後の一つが無力化され。


 アフラーシア連合王国は、完全に、<パライゾ>の勢力下に組み込まれる。


 ノースエンドシティの上空を、巨大な空の要塞がゆっくりと旋回していた。


◇◇◇◇


緊急事態エマージェンシー

 不明物体を探知。

 ギガンティア戦闘群は、第一種戦闘配備に移行しました。

 護衛戦闘機、緊急発進スクランブル

 全戦闘機の発進準備を開始しました。

 不明物体、11時方向。

 高度1,200m、上昇中。

 全長、100m以上と推定。

 時速600km以上の速度で、2番艦オケアノス進行方向へ接近中です」

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