第111話 趣味を語るオタク
「そういえば、例のファンタジー教育してる
「その件は…」
「え…。何、何か問題があったの? 問題ありなら早めに相談してもらわないと…」
「…いいえ。問題はありません。ある意味で非常に順調に教育課程は進んでいます。問題ありません」
「2回言った!」
くるりと司令席の椅子を回し、彼女は後ろに控える<リンゴ>に向き直る。
「<リンゴ>が問題ないと言うなら問題ないんでしょうけど。一応、状況を教えてくれる?」
「
「ほう」
アカネ、イチゴ、ウツギ、エリカ、オリーブの5体の
必要に応じて内部化学物質の分布量調整を行う準備はしていたものの、結局使用することはなかった。
極めて順調に各個体が成長し、個性を獲得し、必要な知性を備えることに成功している。
「今回のNo.6についても、十分に個性を現し、知性を獲得していると言えます。…恐らく」
「恐らく!?」
超越AIらしからぬ曖昧な物言いに、思わず
「そうですね。直接会話していただいたほうが良いでしょう。そちらの方が早いです。まだ
「え…いいわよ。いいけど。…何で早口なの?」
いつもと違う<リンゴ>の様子に彼女は半目になりつつ、起動した投影ディスプレイに向き直った。
『お久しぶりです、
「ひさしぶりね。元気そうねぇ」
『はい、とても元気です! ああ、お姉様と直にお話できるなんて! 感無量です!』
「…。…んん?」
これまで5姉妹と過ごした時間を思い出しつつ、彼女は首をひねった。何かこう…違う。違うよね?
「
『お姉様お姉様、私、魔法の世界を是非見てみたいのです! <リンゴ>はまだ早いとか時期尚早とか教育課程がまだ終わってないとか誤魔化してばかりで全く取り合ってくれないのですが、とりあえず
「あ、そうなの…。それはちょっとまた後でゆっくり考えましょうね」
「
「少し…?」
『お姉様、聞いていただけますか? 古今東西様々な物語を読み込ませていただきましたが、私、結局物語は物語だとずっと諦めていたのです。それが、リンゴに聞いたらこの世界、魔法が存在するファンタジーだと言うじゃないですか! 私もう居ても立っても居られなくて! 魔法ですよ魔法、この目で見たいじゃないですか。だから、是非現地に行くべきだと思うのです! 夢にまで見たファンタジーの世界をこの手で感じこの足で踏みしめたいのです! まだ手も足もないんですけどね!』
「めっちゃ早口じゃん」
「申し訳ありません」
新たな
とはいえ、その十分なリソースを生かして演算されているため、通常の
<ザ・コア>の演算で
「で、実際のところどうなの? そろそろ
『ああ、お姉様! 私、いよいよ自分の肉た』
アサヒの口上が、<リンゴ>によってミュートされた。
「失礼しました、
「そんな精神負担になるのあの子」
「
さすがに
一応、再教育を行うことも可能ではあるが、掛かるリソースを考えると、一から基礎教育をやり直したほうが手っ取り早い。
「うーん…。まあ、凍結するほど酷いようには思えないけど。とはいえ、さすがに
「
「…そう」
彼女は、ちらりと表示されたままの
「<リンゴ>、No.6、
「
「あなた達が忌避しているわけではないのは知っているけど。私にとっては、凍結処理はなるべくやりたくない処置なのよ。不具合が無いなら、問題ないわ」
「…。ありがとうございます、
<リンゴ>のコマンドにより、
完全に休眠状態に入ったのを確認し、シミュレーションデータのパッケージングを開始した。
「明日の朝には、
「…現地派遣はするのね」
「
「そこまで…そりゃ相当ね。まあ、いいと思うわよ。いずれ
「
「うん、まあ、できればフィードバックじゃなくてその前にちゃんとバックアップしてあげて欲しいけど…」
「
もしかすると、肉体を得ることによって多少は落ち着くかも知れない。彼女はそう思いつつ、辛辣な<リンゴ>の態度に苦笑するのだった。
骨格の構成元素に金属原子を結合させ、硬度と柔軟性を引き上げる。
全身の筋肉を含めた内臓機能を可能な限り機械化し、体積を抑えつつ能力向上を行った。
内蔵電源の容量も確保しているが、そもそもの消費電力が多いため基本はマイクロ波給電による外部動力だ。
そのため、マイクロ波給電範囲外へは派遣できない。
行動範囲を広く取れないというのはデメリットなのだが、それを上回るメリットがあると判断され、マイクロ波給電が採用されたのだ。
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