第4章 海洋国家
第104話 閑話(とある海洋国家)
レプイタリ王国、御前会議。4ヶ月に1度開催される、今後の国家運営を決定する重要な会議だ。この会議には国王を筆頭に重要人物が参加し、意思決定を行う。
当然、議題は全て根回し済みであり、この会議中に本当の会議が行われることはない。最終確認と、そして国王の了承を得るという象徴的なものである。
しかし当然、その実状がこの会議の権威を貶めているわけではない。むしろ、この会議の議題に上がるということそのものが重要なのである。
「それでは、本案件は国王様の承認を得た。第5613号可決事項。会議終了後より、本案件実現に全力を尽くすように」
「ありがとうございます!」
国王を除く出席者全員が、拍手を持って賛同の意を示す。そうして新たな施策は認可され、レプイタリ王国は未来へ1歩踏み出すことになる。
「では、次の議題である。
「はっ」
王国海軍は、この10年ほどで驚くほどにその力を増していた。大砲の開発と射程の延長、集弾率の向上。装填補助装置の開発、蒸気機関の性能向上。鉄板溶接技術、スクリュー開発、流体力学の発展。
全てが海軍発祥であり、それはレプイタリ王国全体の国力の向上、ひいては軍事力の強化に繋がっている。
そして当然、海軍トップであるアルバン・ブレイアス総提督の発言力も相応に増していた。
「それでは。南方大陸へ派遣していた調査隊が、
アルバン総提督の言葉に、会議室がざわめいた。
南方大陸調査隊は、もう2年も前に出発した大船団である。連絡手段は当然無く、帰還予定も不明。
よくもまあそんな船団を送り出せたものであるが、それこそ海軍のトップによる決断だったのだ。最悪、全滅も覚悟されていたのだが、どうやら、何とか帰り着いたようであった。
「帰港したのは5隻。4隻は航行中に失ったと。まずは、帰り着けなかった同胞達の冥福を祈りたいと思います」
「…大儀である。皆の者、聞いておったな。これより、勇敢な彼らを偲び、黙祷を行う」
「黙祷!」
国王の声に、議長は即座に応えた。参加者は全員、胸に手を当て頭を垂れる。
「黙祷、終わり。我ら一同、母なる海に迎えられた同胞達の幸福を願う。…さて、アルバン殿、続きを」
「はっ。
伝書鳥による第1報のみとなりますが、南方大陸の有望な国家と友誼を結び、その委任書状を持ち帰っているとのこと。
また、往路12ヶ月、復路8ヶ月を掛け、最低限ではありますが海図も記録できているようです。
詳細については船団の本国帰還を待ってとなりますが、まずは調査船団の航海成功をご報告いたします」
「アルバン殿、ありがとう。さて、この件に関して、何か質問はあるか。…では、
「は。
まずはアルバン殿、調査船団の帰還、おめでとうと言わせていただく。
…詳細は追って、とのことだが、結局、元々貴殿の気にされていた南方大陸の脅威は、懸念であったということでよろしいか」
「ありがとう、ドールガー殿。
質問に回答させていただく。
船団長からは、南方大陸の情勢も、ある程度確認できたと報告があった。
いくつか有力な勢力はあるが、基本的には群雄割拠。
戦乱も多いが技術進歩も早く、すぐに問題にはならないが、将来的にはどう転ぶか不明、とのことだ。
大方針はこれから策定することになるが、元々の懸念は払拭されたと考えている」
「相分かった。海の外に喫緊の脅威が無いと分かっただけで十分である」
ドールガーが頷き、進行役の宰相に目配せする。
「他に、なにか質問は。…。…無いようであるな。では、アルバン殿、続きを」
「はっ。
それでは、我が国の防衛体制についてですが、御存知の通り、王国海軍は拡張を続け、諸外国に対して十分な牽制が行えていると自負しています。
但し、これは現時点での話であり、将来的には同じように軍拡を続けている諸外国との差は縮まっていくと予想されます。
これに対抗するためには、各軍のさらなる拡張が必要になりますが、残念ながら物資面の限界が近づいています。
特に、我々海軍の生命線とも言うべき燃石の不足が深刻であり、すぐにでも何らかの手を打つ必要があります」
その説明とともに、出席者へ紙の資料が配布された。
そこに記されているのは、戦力拡張の理想線と予想線。必要な各資源量と、その予想線。資源の調達元の内訳、そして、不足分をどうするかの提案だった。
「金属資源は今の所国内の鉱山で賄っていますが、<
足元を見られないよう圧力を掛ける必要はありますが、こちらは特に懸念はありません。
問題は、燃石です。
現在の輸入経路は<
アフラーシア連合王国の内乱については、ここに出席する全員が共有している事態だ。
近年のレプイタリ王国海軍躍進の原動力。燃石を燃料とする蒸気機関による軍艦の動力化。巨大な回転砲塔の可動に必要な動力の供給も担っているため、燃石は最重要戦略物資となっている。
それは周辺諸外国にも薄々気付かれているであろう事実であり、これを締め上げられるとレプイタリ王国の海軍は一気に瓦解する恐れがある。
「故に、
可能であれば燃石輸入再開の交渉を。それが不可能であれば、燃石採掘のための入植を」
レプイタリ王国の戦略上、絶対に欠かすことのできない燃石の確保。これに関しては誰も反対するものはおらず、全員一致で提案は可決された。
「余も燃石確保の重要性は理解している。王国海軍からの提案を承認しよう」
「ありがとうございます」
出席者から拍手が起こる。国王直々の承認のもと、数年ぶりとなる本格的な戦力派遣が決まった瞬間だ。
しかも今回、相手は海軍を持たないアフラーシア連合王国。ここしばらく出番のなかった陸軍も、派兵には全面的に協力することになっている。
「それでは、本案件は国王様の承認を得た。第5614号可決事項。会議終了後より、本案件実現に全力を尽くすように」
「承知しました」
その後もいくつかの報告と議題が続く。
それは国内生産事情であったり、謎の轟音、あるいは空を南から北に飛び去る小さな何かについてであったりしたが、アフラーシア連合王国への派兵以上に重大なものではなかった。
そうして、レプイタリ王国は着々と準備を整えていく。
新造された最新鋭戦艦を旗艦とする特使艦隊の編成。
戦艦3隻、巡洋艦6隻、補給艦2隻と護衛巡洋艦8隻。
全てが魔導機関装備、新技術のスクリュー駆動で、主砲・副砲共に回転砲塔。
戦艦主砲は弾薬装填用の自動昇降機まで備えており、装填時間の大幅な短縮に成功していた。
この時点で周辺国家でこれだけの海上戦力を派遣できるのはレプイタリ王国のみであり、正に最強の艦隊であった。
しかも、この艦隊とは別に防衛艦隊も配備しているため、全く隙が無い。
レプイタリ王国の誰もが、これこそが無敵の艦隊だと信じていた。
艦隊の威容を見た他国の商人たちは恐怖し、その情報を母国に持ち帰った。そうして、テレク港街への遠征の準備が着々と進む中。
レプイタリ王国の首脳陣を恐怖のどん底に叩き込む、あの艦隊が出現した。
最強と信じた自分たちの戦艦を遥かに上回る巨大な旗艦。その威容を誇示するように、純白に塗装された艦隊。
その艦隊は、停船を勧告する海上警備艇を悠々と振り切り、レプイタリ王国最大の港湾都市、首都モーアへ入港したのだった。
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