第103話 駆逐艦ツリーの研究を勧めるリンゴ
「高速戦闘艦を開発しましょう」
「何急にどうしたの」
いつものように
「現在の海上戦力の主力である
「…なるほど。露払いの駆逐艦のほうが、速度が遅いと」
「
アルファ級駆逐艦シリーズは、貨物船の護衛、周辺海域の哨戒任務を行っている。
当初はジェット燃料を使用したタービンエンジンで動作していたが、現在は全て、水素ガスタービンに換装済みだ。
ただ、ジェット燃料や軽油と比べると、どうしても出力に難がある。そのため、アルファ級の巡航速度は40km/h程度であり、正直遅い。
「現在の構成は、貨物船とその護衛となっていますので、速度は問題ありませんでした」
「そうね。貨物船の速度はどうしても遅くなるしね。とはいえ、アルファ級を改造すると護衛艦が少なくなるから…。…新造?」
「
「オッケー。じゃあそれはやっちゃいましょう。ある程度揃ったら、あの半島に派遣してみようかしらねぇ。もっと効率のいい鉄鉱山とか欲しいんだけど。あそこ、結構船を作ってるみたいだし、いい鉱山持ってるかも」
半島とは、転移後、およそ1ヶ月後に例の北諸島を壊滅させた半島国家である。国名は、レプイタリ王国。
一時期、テレク港街とも交易があったらしいが、燃石の産出が減ったことで交易も自然消滅したらしい。
アフラーシア連合王国は、つくづく資源も産業もない国である。
「1週間後に北大陸南方地域の強行偵察を実施します。ある程度の国力も、偵察結果で予想できるようになるでしょう。反応を見ながら何度か偵察を繰り返せば、かなり正確な情報収集が可能です」
「
「
本当は、虫型ボットなどを浸透させて諜報活動を行いたいのだが、
アフラーシア連合王国の国境から侵入させようにも、給電範囲外となるため目的地に辿り着く前にバッテリーが尽きてしまうのである。給電ドローンを不用意に国境に近づけると、例の領空侵犯騒ぎと<パライゾ>を関連付けられてしまう可能性があり、慎重に対応せざるを得ない。
また海からは、砂漠地帯が間にあるため近づけられない。
河川に潜水艦を侵入させるにしても、川底はそれほど深くないため、簡単に見つかってしまうだろう。そして小型の潜水艦は、やはりバッテリーの問題で派遣できなかった。
そんなわけで、レブレスタは大使との接触が唯一の情報収集手段となってた。
「他の国も、対空手段があるのかしらねぇ…。何となく、エルフって弓の名手ってイメージがあるんだけど」
「不明です、
「そうね…。鉄鋼産業が育ってる国なら、輸入の打診も出来るけど…」
「有望な鉄鉱山を占拠しますか?」
「やらないわよ! 砂漠の石油でもこんなにハラハラしてるのに、中心産業の資源奪取なんて、心臓がいくらあっても足りないわ!」
「
「小粋ではないし、ジョークにしても笑えないわよ! …まあ、海底鉱床も分布調査が進んでるし、メタンハイドレートも十分よね。今後5年の造船計画には十分な量なんでしょう?」
「
石油由来の樹脂を製造できるようになったことで、海底プラットフォーム建造は急速に進んでいる。
鉄のみだと錆の問題があるが、プラスチックであればある程度緩和できる。
強度は鉄骨には及ばないが、強度をそれほど必要としない部材を樹脂で代替できるようになったため、生産量の少ない鉄の節約もできた。
水深数百mの海底に分布しているメタンハイドレートの回収は、樹脂を主要建材とした簡易構造体を必要箇所に設置、周辺の採掘が完了した後分解、また別の場所へ設置するというやり方を取る予定だ。
これが鉄骨材だと、重量の問題で移動が面倒になる。軽量の樹脂構造体を使用することで、分解移動のコストを抑えることが出来るのだ。
「セルロースも確保が面倒になってたし、ベストタイミングだったわね」
<ザ・ツリー>がしばらく大量生産していたセルロースは、周辺海域で繁殖していた海藻を原料としていた。
現在、周辺の海藻はほぼ刈り尽くした状態となっている。
一応、資源再生のために色々と施策はしているものの、あの資源量を回復するには年単位で時間がかかるだろう。次はどこで…と候補地を選定中に油田が見つかったため、渡りに船というタイミングだったのだ。
「セルロース自体は、樹脂とはまた異なる特性がありますので、引き続き生産したいですね。生育の早い海藻、あるいは植物を選定し、量産体制を取ろうと考えています」
「そうね。樹脂よりは紫外線に耐性があるみたいだし、それは考えたほうがいいでしょうね」
まあ、紫外線劣化は色々と工夫することである程度抑制できるし、樹脂も使いようはある。
そもそも、セルロースも紫外線劣化は発生する。結局、1種類の原料に頼るのが危険なため、余裕のあるうちに幾つかの生産拠点を確保してしまいたいのだ。
「海藻は、大規模海上プラントを建造しましょう。フロート構造とすることで、嵐にもある程度対応できます。大量生産を行うと、周辺環境の激変が予想されますので、完全閉鎖型が望ましいですね」
「へえ、閉鎖したほうがいいの?」
「
「…なるほど? 例えばこのあたりが富栄養化して、生物相が豊かになったりすると、それを餌にする大型種が寄ってくる可能性があると…なるほど」
「既に、<ザ・ツリー>がこの岩礁へ出現した影響は各所へ波及している…と思われます。海藻群生地帯も刈り取ったため、生物分布が大きく変わっています。これ以上の環境変更は望ましくないかと」
「そうねえ。資源に余裕ができたから、環境維持にもリソースを振り分けられるわけね。それで、追加されたのがこのツリーと…」
新たに追加されたツリーが、環境技術開発。ツリーを進めていくと、閉鎖環境型の栽培施設を製造可能になったり、<ザ・ツリー>にビオトープを併設できるようになるらしい。
「ビオトープねぇ…」
そういえば、<ザ・ツリー>内には観葉植物の1つも存在しない。最後に植物に触れたのはいつだろうか?
「…記憶にないわね?」
この世界に転移する前、元の世界に遡って思い出しても、動植物に触れた記憶がなかった。当時はそれについては特に疑問を覚えていなかったが。
「不健康といえば、不健康なのかしら。精神的な話だけど」
「…
「ああ、いえね。植物も動物も、触れ合った記憶が無いなって思ってね」
ビオトープを建造し、
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