第65話 (ワームと砲弾が)激突
初速5,000m/sで射出された砲弾は、空気抵抗により装弾筒が脱落。
安定翼付きの鉛筆のような弾体が、その速度を保ったまま目標へ向かって飛翔する。
距離は約70m。
速度はほとんど減衰しないまま、弾体はワームの頭部に突き刺さった。
「
衝撃波か、あるいはワームの体組織か、何かが煙のように広がる。
一直線に飛び込んだ砲弾は、ワームの頭部を貫通したように見えた。
「効果は!?」
「解析中です」
ワームは勢いを保ったまま、しかし砲撃の威力で進行方向をずらされ、地面に叩きつけられる。
本来は頭部から地面に潜り込んでいくのだろうが、それを横から撃ち抜かれたのだ。想定とは違う角度で地面に接触したためか、潜ることもできずに地上を滑る。
「解析完了しました。弾体はワームの頭部を貫通しています。初速が早すぎたのかもしれません。十分に衝撃を与えられていないと思われます」
「貫通? あの<レイン・クロイン>みたいに弾かれたわけじゃないのね?」
「
秒速5,000mで飛び込んだ弾体は、ほとんどの運動エネルギーを保ったまま、反対側に突き抜けた。
即ち、ワームへ衝撃を伝えることができなかったということだ。
とはいえ、通常の生物であれば胴体、それも頭部を貫通されればダメージは有るはずだが。
「ワームの活動を確認」
映像の中で、地面に投げ出されたワームが自律的に動き出す。
「さすがに1発じゃ死なないかしら」
「観察を継続。護衛4人は無事に逃げ切りました。ワームが健在であれば、攻撃を続行します」
長い胴体の後ろ側は、いまだ地面に潜ったままだ。
しかし、おそらく10m以上、頭部を含めた前半分の胴体が地上に横たわった状態である。
ぶるり、とワームの胴体が震える。
同時に、ギチギチという不快な重低音が聞こえ始めた。
「なに、鳴き声?」
「硬質化した体表組織の擦れる音と思われます」
数秒は全く動く様子はなかったが、しかしワームはすぐに活動を再開した。弾体が貫通した場所に脳神経があれば一撃必殺になったかもしれないが、残念ながら外したようである。
もし、大きなダメージが無さそうであれば、即座に次弾を撃ち込む必要があるのだが。
ワームは身を捩り、頭部を振った。その際に飛び散ったのは、体液か。
使節団や
やはり頭部へのダメージは有効に作用しているのか。
そして。
映像の中、ワームの体表の鱗が、一斉に、逆立った。
「ひぇっ!?」
多脚戦車の戦術AIは、その異変を検知した瞬間、一切の躊躇なくレールガンを撃ち込んだ。
今度は2機同時に、角度的に1発は口腔内へ斜めに、もう1発は真横から体幹中心を。
プラズマが迸り、装填された徹甲弾が初速3,500m/sで撃ち込まれる。
今度は、込められた運動エネルギーが正しく発揮された。
口腔内に飛び込んだ砲弾は、体内に侵入。斜めに内部を破壊しつつ、体表組織に衝突。
弾体を倒しつつ、さらに衝撃を撒き散らしながら周辺の組織をごっそりと吹き飛ばした。
胴体真横に着弾した砲弾は、ひしゃげながら体表硬質部を破壊。
それらを巻き込みつつ、ワームの体内に突入、キノコ状に潰れていく弾頭が体組織を引き裂きながら、反対側の体表を弾き飛ばす。
口腔内の1発の運動量も合わせ、ワームの頭部は空に向けてかち上げられた。
そして、一瞬の間を挟み、胴体が爆発する。砲弾の与えた衝撃が体組織を伝わり、まるで液体のように弾け飛んだのだ。
広がった傷口はそのまま拡大し、やがて切断に至る。
破壊された頭部が、宙を舞った。
傷口から体液をこぼしながら、千切れた頭部は地面に転がり、そして残された胴体部は、そのままの勢いで地面に吸い込まれるように戻っていく。
「ちょ……」
その映像を、彼女は呆然と見ていた。頭部が千切れたワームの本体は、自身が出てきた地面の穴に一気に戻っていく。さすがに次弾を撃ち込む余裕はない。
見る間に大地に吸い込まれ、長い胴体は地下に消えた。
「え!? 死んでないの!?」
「解析中です」
一方、地表に転がった頭部は、さすがに生命活動を止めたようだった。勢いのまま転がってはいるが、能動的に動いているようには見えない。
「地中の振動を探知。胴体部は活動しているようです。ですが、掘削音などは聞こえません。さすがに頭部がなければ、地面を掘り進むことはできないようです」
「そりゃそうだよなあ!」
「この活動が、反射的なものなのか、実際に致命傷に至っていないのかは現時点では判断できません。ただし、脅威度は大幅に下降。ひとまず、撃退したと判断して問題ないかと」
ワームの胴体部は完全に地下に引っ込んでいる。切断したのは頭部先端の5m程度だが、残りは全て逃げられた。
いや、単なる反射で動いている可能性もあるため、逃げられたのかどうなのかは不明だが。
「うえぇ……でも、頭がなくなってもあんなに動くものなのねぇ……」
「
「え、再生すんの」
引くわー、と彼女がドン引きするが、切断されても再生する生物というのは意外と多い。
有名なのはプラナリアだろう。細かく切断しても、しばらくするとそれぞれが頭部、胴部を再生してしまう。100以上に切り刻んでもそれぞれが再生するというのだから、とんでもない生命力だ。
尤も、そこまで再生能力が高いのは原始的な生物だからであり、脳神経系が発達した高度な生命体ではそんな出鱈目な再生能力は持てないだろうが。
「……
「ん……?」
と、転がった頭部を観察していた
破壊されているとはいえ、ある程度の円筒形状を保っていたワームの頭部が、重力に負けて押しつぶされているのだ。
「死んだんだから、当然じゃないの?」
「
<レイン・クロイン>。<ザ・ツリー>が、初めて戦った魔物である。
確保したその巨体の体内から見つかった謎の結晶を抜き取った際、維持されていた体組織の強度が失われるという現象が確認された。
もしそれと同じ状況ということであれば、逃げた胴体部分にその結晶が残ったままということが考えられる。
「そういえばあの魔石、心臓の近くで見つかったんだっけ」
「
現在、地下の胴体の活動は確認されていない。頭部を失ったことでそのまま死に至ったのか、あるいは逆に、頭部を再生中なのか。
「もし頭部を再生している場合、記憶が残っているのかどうかというのも重要です。頭部に脳がありそこで思索を行っているということであれば、今回の頭部切断によってリセットされるでしょう。しかし、例えば全身に神経節を持ち相互に記憶を保持しているような構造であれば、今回の使節団への襲撃に関してもそのまま覚えているということになります。撃退されたことで避けてくれるのであれば良いですが……」
「復讐でも考えられると厄介ね。どうにか、この場で駆除してしまいたいけど……」
地下30mに引っ込んだ魔物を、どう対処するか。余り時間を掛けても、全体のスケジュールに影響が出る。
しかし、もしワームが再生し、再度襲われるような事態になった場合、更に予定が崩れるだろう。
悩ましい問題だった。
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