第66話 あ、頭は持って帰っておきますね

司令マム地虫ワームの頭部の回収のため、回転翼機を派遣してもよいでしょうか」

「ん。そうね、問題ないわ。でも、マイクロ波対応の機体があったかしら?」


はいイエス司令マム。ベースはバッテリー駆動機ですが、貨物スペースを一部改装し、マイクロ波受電システムを搭載しました。専用設計よりも冗長ですが、繋ぎには使えます」


 バッテリー駆動機は、大型のバッテリーと充電器を装備している。

 通常は充電器と電源設備を接続し充電するのだが、これにマイクロ波受電システムを直結することで、飛行中にも充電を可能なよう改修したのだ。元が貨物機のため、搭載スペースは十分に確保できた。

 マイクロ波受電型よりも出力的に劣るものの、専用設計機を製造可能になるまでの限定用途であれば、実用に耐える。


「オーケー、それなら問題ないわね。使節団はさっさと移動させましょう。それから、偵察機を上空に派遣して。あのワーム、すぐには動き出さないと思うけど……、監視は必要でしょう?」

はいイエス司令マム。そのように手配します」


 <ザ・ツリー>および第2要塞では、現在急ピッチでマイクロ波受電システム搭載型の機体を生産中だ。

 第2要塞は主に資源採掘のための重機を、<ザ・ツリー>では兵器類を増産している。製造すべきものが多岐に渡っており、相変わらず資源不足に頭を悩ませていた。


 とはいえ、使節団を護衛するための兵器関連を準備する程度であれば、問題ない。

 <リンゴ>は司令イブの希望に応え、高高度監視ドローンの派遣と、ついでに対地攻撃機を<ザ・ツリー>から発進させることにした。


「ワームの頭部を回収後、地下の本体を攻撃しましょう。地下30mであれば、地中貫通爆弾バンカーバスターで直接攻撃可能です。先の戦闘データから、ワームの防御力はそこまで高くないと想定されます。現有の爆弾で十分にダメージを与えられるでしょう」


「おお、なるほど。現地の多脚じゃどうしようもないと思ってたけど、こっちから空爆はできるわね」


 <ザ・ツリー>が保管している地中貫通爆弾バンカーバスターは、ゲーム時代に何かのツリー開放用に製造した兵器の一つだ。解体しても大した資源にはならないため、そのまま放置されていたものである。

 高度10,000m程度から投下し、本来はGPSを利用して精密爆撃を行う対地誘導弾だ。突入前にロケットブースターで加速することで、地下100mまでは貫通できるとカタログには記載されている。ロケットの燃焼時間を調整すれば、突入深度も変更可能だ。

 現在の<ザ・ツリー>ではGPS対応はできないが、外部操作も可能なため、上空から直接コントロールしてワームを攻撃させることとした。


「1機、飛行艇をマイクロ波受電システム搭載型に改装済みです。これを爆装して現地に向かわせましょう。護衛用に、第2要塞からSR-1アルバトロスも発進させます。4時間後には攻撃位置に到達可能です」


「了解。その間に、使節団は避難させましょう。馬は大丈夫かしら?」


はいイエス司令マム。馬車馬は少々怯えているようですが、移動は可能でしょう。4時間あれば、50km以上は離れることができます」


 というわけで、早速移動させることにした。


 警戒状態で待機させていた多脚戦車を、巡行モードに変更する。具体的には、伸ばしていた脚を折りたたみ、展開した武装類も待機位置に戻した。

 多脚地上母機はカタパルトを展開、護衛機を発進させる。広域監視ドローンを追加、対地攻撃ドローンも展開。進路の安全確保のため、小型の多脚偵察機も進出させる。


 作業腕でホールドしていた馬車は地上に下ろし、御者を促して馬を繋げさせる。馬車内の荷物は、急激な動きは行わなかったためほぼ無事だろう。

 合流した護衛4人は、今日はそのまま騎乗でついて来てもらうことにする。今のうちにと、地上母機から水と飼葉を下ろし馬に食べさせることにした。

 主な作業は、結局出番のなかった人形機械コミュニケーターにやらせる。


「それにしても、一筋縄ではいかないわねぇ……」

はいイエス司令マム。地上や空中であれば偵察機で事前に察知も可能ですが、さすがに地下は難しいですね。移動時の騒音があればまだ気付けますが、あれほど静かだと探知は不可能です」


 あのワームが使節団を襲う意味が、まず不明だ。やはり、食肉を求めているのだろうか。あれほどの巨体を維持する食糧がどれだけになるか、想像も付かない。

 そもそも、周辺地域の生物相が非常に希薄なのだ。この環境で、どうやって生きているのか。


「地下で獲物が通るのを待つ? でも、周辺に森もないし、通るのはそれこそ人間くらいよね」

はいイエス司令マム。街道ですし、あの大物がいつも居るのならば、道として成り立たないでしょう。ワームの運動性能から考えると、逃げ切れるとも思えませんし」


 となると、あれはどこかから移動してきたものと思われる。地下であの移動速度を維持できるのならば、行動半径はかなり広いはずだ。

 広範囲の縄張りを常に巡回していて、獲物が来たら襲いかかっているのかもしれない。


「サンプルが手に入りますので、詳細に調査できるでしょう。少々短いので、できれば全身がほしいところですが」

「あの大きさの全身が手に入っても、持ち帰れそうにないわね……」

「解体して分割搬送するしかないですね」


 できれば、例の結晶体も手に入れたいところだ。今の所、サンプルは<レイン・クロイン>のものしか無い上、取り外すと全身が崩壊するため、経過観察の意味も込めてそのままにしている。

 もう少しアプローチをしたいので、サンプルが増えるのは大歓迎だ。


「そういえば、アフラーシア連合王国には何種類か魔物が確認されているんだっけ」

はいイエス司令マム。草食のもの、肉食のものなど数種類が生息しているようです。ただ、どれももっと内陸側か、森林地帯に近い地域にいるようです。この周辺では、ワームが唯一の目撃情報ですね」


「森林地帯というと……森の国レブレスタ側とか?」

はいイエス司令マム。目的地である東門East gate都市city周辺にはそれなりに居るようですので、ついでに捕獲しても良いですね」


 このアフラーシア連合王国の存在する北大陸でこれからも活動するのであれば、魔物についての情報を収集すべきだろう。魔法についても、正直良く分かっていないため、調査を行いたいのだが。


「あと10日ほどで、東門East gate都市city周辺に近付けるでしょう。途中にフラタラ都市という町があるようですので、多少は情報収集できるかもしれません」

「あー……。途中の町ね。寄っても大丈夫なのかしら?」


「使節団団長のアグリテンド・ルヴァニアは、斥候を出すと言っていました。治安の方は正直、出たとこ勝負になるかと。上空から偵察した限り、戦乱は起こっていないようですが」

「斥候ね。……護衛は付けてあげましょうか」


はいイエス司令マム。小型多脚攻撃機と、人形機械コミュニケーターを付けましょう。ドローンは流石に目立ち過ぎますので、やめたほうが良いでしょうが」


 正直なところ。


 彼女は、この使節団の道程は何の問題もなく終わると思っていた。想定していた敵は、野盗の類いか、小型の魔物程度。

 完全武装の多脚戦車2台、地上母機1台を護衛に付け、問題が発生するとは全く想定していなかったのだ。

 それが、行程の半分も進まないうちにいきなり全滅の危機である。可能性は低いものの、あのワームの接近に気付かず野営中に真下から襲われていれば、恐らく使節団は壊滅していただろう。


「うーん……。目が離せないわねぇ。マイクロ波送電システムを完成させておいて正解だったわ。輸送機で燃料補給しながらって計画も立ててたけど、それだと行動制限がありすぎて対応しきれなかったわね、たぶん」


はいイエス司令マム。想定外の問題が多すぎますし、対応を誤ると致命的な問題が発生しかねないものばかりです。十分な準備が整うまでは、積極的な行動は控えるべきですね」


「海底プラットフォームが稼働すれば、一気に資源収支が改善するんだけど……」


 司令イブはそうつぶやき、ため息をつく。手元には、<ザ・ツリー>の資源推移グラフを表示していた。


司令マム。深海については、魔物の脅威について危惧しています。特に、深海生物は巨大化する傾向もありますので」


「……。ああー……。そう、そうね……。海に魔物が居ないわけじゃないものね……。なんで思いつかなかったのかしらね……」


「今の所、魔物の特徴を持った海棲生物は<レイン・クロイン>以外には確認できていませんが。この惑星の海は広すぎますので、居ないと判断することもできません」


 SF世界の住人にとって、ファンタジー世界はかくも生き辛かった。

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