第63話 森の国への使節団
数年ぶりとなる他の街への使節という事もあるが、そこに<パライゾ>の随行員が加わっているというのが特に大きい。
テレク港街の門前は、黒山の人だかりであった。
使節団の団長は、総会議員の1人、アグリテンド・ルヴァニア。その他、随行員が9名。全10名が馬車と馬に分乗し、手を振りながら門をくぐる。
その後ろに続くのは、護衛機である多脚戦車2台、そして多脚地上母機1台。戦車は全長10m、地上母機に至っては全長25mもの巨大機械だ。
6本の足を静かに動かしながら進む姿は、見る者にこれ以上無いほどの畏れと、同時に安心感を与えていた。
重厚ながら滑らかな動作、余計な騒音も立てず、前脚で掲げられた巨大な棍棒は小揺るぎもしない。
実際に戦闘で使用するのは背中の主砲になるのだが、このファンタジー世界の住人たちには、分かりやすい巨大な武器の方が受けが良いのだ。
「
「
そしてこの使節団に同行するのは、3体の
「うーん、それにしても。燃料補給を考えずに戦車を運用できるっていうのは、いいわねえ。
「
第2要塞に最優先で建設したマイクロ波給電設備は、何の問題もなく稼働中だ。同時に展開しているマイクロ波中継ドローンも、高度20km付近でその機能を遺憾なく発揮している。
地上に分散配備された送出アンテナから、複数の中継ドローンにマイクロ波が送信される。中継ドローンは受け取ったマイクロ波を反射し、任意の地点へ照射する。
基本は直接照準するが、障害物がある場合はそれを避ける経路を選択する。空間的な開口部があれば、電磁波の反射と回折まで計算してマイクロ波を届けるのだ。
また、複数の送出点からピンポイントで照射すると共に、波の重ね合わせの原理を用いて任意の点にエネルギーを発生させる。
送出点を分散させることで各照射マイクロ波の出力を抑え、かつ周囲環境への影響を最小限にする。
ロスも相応に多いが、照射範囲の水分を蒸発させるわけにもいかない。そこは必要経費として割り切っている。
「オリーブには何かご褒美を考えないとね……。ま、それはともかく」
彼女は、空中モニターにアフラーシア連合王国の探査済みマップを表示させた。この地図は、既にテレク港街へ公開済みである。
最初に地図を見せられたクーラヴィア・テレク商会長は顔をひきつらせていたが、まあ、それは些細な問題だろう。
「直線距離で640km。街道の長さはおよそ1,000km。馬車の時速を15kmと仮定すると?」
「
使節団の準備は、何をどこまで提供するかが非常に頭を悩ます問題だった。全てを<ザ・ツリー>側で用意してしまうと、使節団は<パライゾ>代表となり、テレク港街はその地位を著しく下げることになるだろう。
しかし、テレク港街側に任せると、技術水準が低すぎて酷く危険な道中となってしまう。色々と検討した結果、最終的に馬車と護衛を提供することに落ち着いた。
テレク港街の使節団が乗り込むのは、<ザ・ツリー>で製造した6輪馬車である。
シャーシは組成調整した中空鋼鉄製で、構造設計して更に強度を高めたものを分子プリンターで出力製造したものだ。
6輪には独立懸架式のサスペンションを組み込み、車軸にベアリングを使用することで滑らかな走り心地を実現している。
また、転がり抵抗を低減するため、タイヤは硬めに設定した。
本来、長距離の使節団であればキャラバンを組んで動く必要があるのだが、各種の荷物は多脚地上母機に積み込み、護衛も多脚戦車に行わせることで人数を最低限に抑えることができた。
そういう意味では、代表2人だけでも可能ではあるのだが、体面もあるため、代表2人、世話係2人、御者2人、護衛4人という組み合わせとなっている。
御者は交代で、午前中3時間、午後3時間を移動に費やす。世話係は、馬の世話や食事、寝床の準備。護衛は4人、2人が馬に乗り2人は馬車で休む。代表2人は特に仕事はないが、何もせずにただ座っているわけにもいかないため、御者の話し相手になったり、一緒に食事の準備をしたりとやることはあった。
15日以上掛かる旅路だ、暇を持て余すのが一番辛いだろう。
「まあ、分かってはいたけど、退屈な道中よねぇ……」
「
「そうね。何かあったら教えて頂戴。私は、そう、忙しいの!」
「
彼女は、今、以前棚上げした荷電粒子砲搭載艦の再設計を行っていた。マイクロ波受電システムの実現により、エネルギー問題が解決したような気がしたからだ。
が、現実は甘くない。
荷電粒子砲を稼働させるためのエネルギーを送れるかどうか、マイクロ波受電システムをシミュレーションしたのだが、送電電力量に耐えきれずに受電設備が溶解すると判明したのだ。
受電電力の変換効率が足りなかった。レールガン程度であれば無視して良いレベルのものなのだが。
そんなわけで、彼女は受電設備をどうにか出来ないかと試行錯誤しているのだ。
<リンゴ>に頼めばなんとかしてくれるのだろうが、彼女の趣味でやっているので、渡すつもりはない。
ちなみに大気圏内で荷電粒子砲をぶっ放すとどうなるかは、まだシミュレーションしていないため不明だが、あまり楽しい結果にはならないのではないかと<リンゴ>は想定している。
わざわざ警告するような野暮なことは行わないが。趣味だし。
「
「……。……ん!? 使節団!?」
その報告が行われたのは、鉄の町を経由し、出発からおよそ7日が経過したときだった。
「
「……地中」
「
投影モニターに、現地映像が表示される。馬車と、それを守るように散開した護衛達。
さらに、地中からの攻撃を警戒し、脚を伸ばした状態で警戒する多脚戦車、および多脚地上母機。
地上母機の上に3体の
「さすがに、このあたりの地域になると詳細な調査ができていませんので、油断しました。許可をいただければ、地上母機からドローンを飛ばして監視させますが」
「うーん……そうね。分かったわ。出し惜しみして犠牲が出るのもつまらないし。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます