第62話 第2要塞とワームの話
第2要塞(名称未定)は、現在基礎工事の真っ最中である。
主要な地上部を支えるため、地下深くまで柱状構造物を埋め込むのだ。
その深さは50mに及ぶ。
比較的脆い組成の溶岩石が地上を覆っているため、地下40~50mに存在する岩盤層まで支柱を造る必要があったのだ。現在、掘削して高強度コンクリートを流し込んでいるところである。
想定以上の深さが必要となったため、<ザ・ツリー>が保管していたセメントでは、基礎工事を行うところまでしかできそうにない。
ただ、ボーリング調査の結果、周辺の地下から石灰岩が発見された。これを採掘することで、建設用のセメントは現地調達可能な目処が立ったのだ。
そのため、現在は基礎工事と並行して採掘設備も建造している。
ちなみに、コンクリート基礎となると通常は鉄筋を入れるのだが、現在鉄材不足のため、カーボンナノチューブ繊維を使用している。
本来、鉄筋とカーボンナノチューブではコスト差が天と地ほどもあるのだが、鉄が無い現状では選択肢がなかった。とはいえ、カーボンナノチューブによる補強効果で、使用コンクリート量を減らすことが出来たのは不幸中の幸いだろう。
「カーボンナノチューブを骨材として使用するため、専用の機材を開発する必要がありましたが、今後も利用できるので無駄にはならないでしょう」
<リンゴ>曰く、鉄筋であれば汎用工作機械を流用できるが、カーボンナノチューブにはどうやっても対応できないため、専用のコンクリート基礎打設装置を製造したらしい。
その装置は、掘削した縦穴の底で、供給される原料を飲み込みながらせっせと基礎杭を立ち上げているところだ。
ちなみに、コンクリートにカーボンナノチューブ短繊維を混ぜ込んでいるため、色はかなり黒くなっている。余談だ。
基礎工事と並行し、周囲の地質調査のため、ボーリングを行っている。ひとまず石灰岩の分布は確認したため、その他の資源が無いかと掘り返しているのだ。
その結果、数kmほど内陸に入ったあたりで大規模な溶岩性鉱床を発見することが出来た。残念ながら鉄の含有量はさほど多くないのだが、ニッケル、銅、クロム、白金などの金属資源を確保することが出来そう、との調査結果だ。
窪地に溶岩溜まりが発生し、底部に金属資源が沈殿したものと考えられる。
また、周囲の溶岩石の組成には酸化鉄などの鉄成分も含まれているため、どこかに鉄鉱床がある可能性が高い。
鉄は(他の金属元素と比べて)比較的軽いため、上層部で析出後、地層の変動圧力により別の場所へ流れていると思われる。現在、発見した鉱床の周辺の調査を継続している。
溶岩石を大規模に掘削し、主成分であるシリカ(二酸化ケイ素)を取り除いてその他の元素を収集する、元素集積装置を導入するシナリオも検討している。
処理量から考えるとかなり大規模な施設を建造する必要があるが、その辺りの石を投げ込めばアルミ、カルシウム、鉄、マグネシウム、チタンなどの有用元素を取り出せるのだ。同時に大量のシリカも発生するが、それは固化して元の場所に戻せば廃棄物の問題も無いだろう。
問題は、処理に大量のエネルギーを必要とすることだ。核融合炉を増設する必要がある。
「この元素集積装置は是非とも導入したいけど、そのためには大量の建設資材を消費して大型施設とエネルギー炉を増設する必要がある……と。……げ、必要資源が第2要塞以上じゃない」
「
「……途轍もないわね」
検討した結果、時期尚早と判断した。それよりも、資源は海底プラットフォームの建造に回したい。
少なくとも、海底では酸化鉄鉱床は発見できているのだ。深度は1,000mよりも下だが。
発見した鉱脈を採掘するため、大型の掘削装置を建造中だ。比較的浅い位置で鉱床が発見されたため、手っ取り早く露天掘りを行おうとしている。
鉱脈を爆破して砕いた後、巨大な回転バケットで一気に掘り進める計画である。
近くに精錬設備も建造し、各種金属のインゴット化までを行う。製造したインゴットは、第2要塞内の
これらの一連の設備が稼働を始めれば、<ザ・ツリー>の資源収支は一気に改善に向かうだろう。
「
「あら、そうなの? ふふ、じゃあ作りたいものリストを書きましょうか」
そんな状況を確認している最中、
ものづくり狂の気のあるオリーブは滅多に我儘も言わないので、こういう態度を取られると
第2要塞で使用するセメントは、石灰岩鉱脈から採取することになる。これは完全に地下に埋没しているため、坑道を建設する必要がある。
小型のシールドマシンが、現在鉱脈を目指して進んでいる最中だ。鉱脈に到達後はベルトコンベアを敷設し、こちらも連続的に鉱石を採掘する予定である。
セメントは、製造後に骨材、性質調整剤と混ぜ合わされ、生コンクリートとして建設現場へ運ばれることになる。
基本的に、一度に大量に必要となるため、大型の攪拌装置付き輸送車両も同時に準備している。これらの建設機械類を多脚にするメリットは特になかったため、移動機能は車輪としたのだが、
<リンゴ>は黙殺した。
さて、最後に観察を続けている
「えっとねー、すこし体が大きくなってきたよ、
「近付いただけで頭を出すようになってきたよ、
順調に餌付けしていた。
魚以外で食べているものは無さそう、というのが<リンゴ>による観察結果だ。魚だけでも成長できるということは、食料が偏っても問題がないということ。
体が単純な構造なのか、消化器官が優秀なのか、それとも別の理由があるのかは今の所不明だが、少なくとも生物の死骸を摂取することで体を大きくできるらしい。ただ、今までは食料のない土の下で生き延びていたようなので、生命維持と成長が別のプロセスになっていると考えられる。
いや、溜め込んだ栄養を消費しながら生きていたという可能性もあるため、断定はできないのだが。
「成長の過程で剥がれたと思われる体組織がいくつか確保できたため、解析中です」
「遺伝子は?」
「検出されました。簡易解析では類似のパターンがありませんでしたので、既知の生物には当て嵌められませんが」
遺伝子が見つかったということは、生物的には既知の構造ということだろう。
遺伝子を不要とする生物構造でなかったことだけでも収穫だ。
魔物であるらしいということは分かっているため、既知の生物と比較して解析不能な何かを特定できれば、そこが魔法的な仕組みで構成されていると推測できる。
「できれば、解剖用に他の個体も捕獲したいですね」
「探してるけど、見つからないんだよね~」
「もっと陸地に入らないと、見つかりそうにないんだよね~」
「電気駆動のドローンなんかは飛ばせないかしら? 行動半径が数百キロくらいなら、充電式でも動かせるんじゃないかしら」
「
「
「あら……」
というわけで、既存のドローンの流用ではなく、ワーム探査専用のものをウツギ、エリカ、オリーブの3人で開発することになった。
この3人でつるむことは今までなかったので、いい刺激になるかもしれない。使用できる資材量は
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