第27話 駆逐艦ツリーのアンロック

「んふふ。大量ねぇ」


 司令官は、資源在庫をグラフで表示しながら、にんまりと笑った。鉄材の在庫量が、ここ数日で一気に増えたのだ。ついこの間までは、眉間にしわを寄せながら同じ画面を見ていたので、この変化は当然歓迎するものだった。


「これからも、資源獲得に力を入れていきます」

「そう? お願いね、<リンゴ>」


 彼女は上機嫌に、なんなら鼻歌まで歌いながら、スキルツリーをつついてスクロールさせている。これまで資源不足でほとんどグレーアウトしていた技術開発コマンドが、たくさん開放されていた。特に嬉しいのは、艦船開発と建造コマンドを押せることだ。いや、実際にはそのあたりの采配は<リンゴ>に任せているため、彼女は押さないのだが。


「ふんふんふーん、ふーん。……んー、駆逐艦、巡洋艦、戦艦……。このあたりの分類ってどうなってるの? 役割? 大きさ?」

はいイエス司令マム。基本的には大きさで分類されていますが、技術更新によって全長が基準長を超えてもそのまま分類を引き継ぐこともありますので、まあ、慣習としか言えないですね」

「そう。……分類する意味はあるのかしら? この周辺だと、それこそ<ザ・ツリー>でしか使わない呼称よね」


 戦闘艦艇の分類項目を眺めながら、彼女はそう言った。こだわっても仕方ないものの、無意味に分類する意味もないだろうと思ったのだ。正直な所、彼女は海上艦艇に関してはあまり興味はなかった。いや、現在は海上艦艇が生命線になっているため、興味が出始めた、というのが正しいか。どちらかというと、元々は宇宙船が好きだったのだが。


はいイエス司令マム。いいえ、戦力の分類的に、全体像の大まかな把握を行う上での分類は重要です。駆逐艦10隻と巡洋艦10隻では、後者のほうが脅威度は圧倒的です。今後周辺勢力の技術レベルが向上すれば、このような分類は自然と行われるようになるかと」

「んー。……それは、私が理解する上での分類、ってこと?」

はいイエス司令マム、おおむねは。将来的には、対外的な発表用という側面もありますが、しばらくはそういった交渉は無いと想定しています」

「そう……。まあ、そうねえ。どうせなら複数艦種揃えたいし、おおまかな分類は必要かな。あんまり史実の艦艇にこだわるつもりもないし……というか、そもそも知らないし」


 おそらく<リンゴ>がライブラリから引っ張ってきたと思しき、スキルツリー上の艦艇群。実際に開発建造するとなると、<ザ・ツリー>の設備レベルに合わせて再設計するのだろうから、史実にこだわるつもりは毛頭なかった。


 既に、軽貿易帆船LSTという謎艦を運用しているのだ。今更である。


「うーん、でも、全長で分類するのも、困るわよね。しばらく大型艦なんて作らないし、そうすると全部が全部駆逐艦かしら?」

はいイエス司令マム。そうなります」

「歴史的に見ると、相対的な大きさによる分類かしら。主力級を戦艦として据えて、それより一段劣るものを巡洋艦。さらに小型のものを駆逐艦かしら? ……駆逐艦って、水雷艇対策の船なのね。水雷艇……」

司令マム、補足を。駆逐艦は、最低でも外洋航行能力、航続距離は5,000km程度はあることを前提としましょう。水雷艇は近海用の船ですので」

「ああ……そうね」


 ふむ、と彼女は頷いた。


「遠征能力のある船を、大きさと、役割である程度分類する感じね。まあ、いいんじゃないかしら」

「新規開発した艦艇は、都度相談しながら分類しましょう」


 というわけで、と彼女はとあるツリーをつついた。


「駆逐艦! 大型輸送船もそろそろ出来そうだし、次は戦闘艦ね~」


 駆逐艦ツリー。その初期艦艇は、主砲3門、対空砲6門を搭載した小型のものだ。主機関はディーゼル発電機で、全モーター駆動方式。対艦ミサイルを1門、オプションで搭載可能。ミサイルを搭載する場合は、主砲1門と取り替える形になる。


「うーん……。魚雷は?」

はいイエス司令マム。資源の問題で、開発は後回しにしています。今の所、潜水艦は確認されていませんので」


 想定敵戦力を分析した結果、魚雷は過剰と判断したのだ。砲弾数発で沈む上、初期的なレーダーすら積んでいない脆弱な艦艇ばかりである。今の所、補充の目処が立っていない貴重な電子部品をふんだんに使用する魚雷やミサイルは、全て後回しにしている。ミサイルは航空機用のものが備蓄してあったため、ある程度転用できているのだが。


「とはいえ、海水からのレアメタル回収も目処が立ちました。そろそろ、電子部品の増産も可能になってきます」

「そうね。施設の建造に使える鉄材が確保できたからねぇ……。はやく、鉄鉱山がほしいところだけど」


 今回の交易によって手に入れた鉄材で、不足していた大型設備の建造目処が立ったのだ。レアメタル回収設備も大型化、増設することで、実用レベルでの運用が可能になる見通しだ。今の設備だと、24時間で数g程度しか回収できていなかった。


 次の目標は、当面、艦艇の増産だと<リンゴ>は試算している。


「北大陸の海岸線を東西それぞれ1,000km程度走査していますが、今の所有望な資源は見つかっていません。森林から木材を入手するということも考えましたが、セルロース生産という観点から見ると輸送にコストがかかるため、藻場の増築の方が効率が良いという試算になりました」

「なるほどねえ……。そうね、輸送はコストがかかるものね」

「現在は、内陸側に走査範囲を広げています」


 テレク港街で確認した情報によれば、内陸側に鉄鉱山があるらしい。今回、そこからかなりの量の鉄を輸送してきたとのことだ。鉄は武具の材料になるためこれ以上回せないと言われてはいるものの、鉄鉱石を増産することは可能のようだ。精錬量に制限があるらしい。どうも、燃料としている燃石レッドストーンの供給量が足りていないとか。


 というわけで、次からは鉄鉱石の仕入れも想定している。次の航海では、大型輸送船を就航させることができる見込みのため、容積にはかなり余裕ができる。交易品としては、海藻セルロースから作り出した糸、布。海水から抽出した塩。塩は、精製したものと、海藻を工程途中に追加した藻塩の2種類。精製塩はどうも不純物が無い分刺激が強すぎたのか、藻塩のほうが好まれたためわざわざ品目に追加した。それから、殺菌加工してセルロース容器に詰めた飲料水。保存技術が未発達のため、これも売れるのではないかということで、交易品として積み込んでいく予定だ。技術的には再利用可能な保存容器も製造できたが、利用時は破壊が必要なパッケージングとしている。これは、文明的なインパクトをなるべく与えない配慮だ。非破壊時に最大強度を発揮できる構造とし、破壊後は脆くなるようにして再利用性を落としている。セルロースは加熱等による塑性変形は出来ず、燃料にするくらいしか使い道はない。ちなみに、往路時に空きスペースが多いと安定性が悪くなるという問題に対し、彼女の「水でも詰めれば?」という回答から生まれた貿易品だった。


 その他、工芸品として金箔や金糸、銀細工なども用意している。

 これだけの品があれば、次回の交易も問題ないだろう。


「次はいつ出るんだっけ?」

「はい。あまり頻繁に往復しても不審がられますので、1ヶ月ほど後に。最終的には、複数の船団を運用して継続的に交易を続けるよう考えています」

「なるほど。少しづつ、船の性能も上げていきたいところね」

はいイエス司令マム。そのあたりは、様子を見ながらですね」


 効率は悪いものの、鉄材の入手が継続的にできるようになったというのは非常に心強い。とりあえず凍結していた飛行艇の製造も可能になるだろう。現行の軽貿易帆船LSTを解体し、使用しているジュラルミンを回収すれば、数艇は製造できるはずだ。飛行艇を搭載可能な艦艇も合わせて準備すれば、行動半径がぐっと広がる。即応性も向上するだろう。


「さーて、どうしようかなー」


 彼女はわくわくしながら、スキルツリーと製造予定、消費資源の確認を始めた。

 なんだかんだ言って、たぶん、この時間が一番楽しいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る