第28話 姉妹達の誕生と動揺する司令官
「
「あら……。もうそんなに経ったのね。
「
戦艦搭載用の荷電粒子砲を設計していた彼女に、<リンゴ>が声を掛けた。かねてから調整を続けていた
「うーん、これ以上は思いつかないし、保留ね。また明日、考えてみましょ」
結局、荷電粒子砲の発射に必要なエネルギー確保の問題を解決できなかったため、彼女は設計図を放り投げた。全長300m程度の船体では、エネルギー供給炉の出力が不足しているのだ。そもそも、大気中では粒子速度が減衰するため、有効射程の確保も難しそうなのだが。
「起動は今から?」
「
「そう。じゃあ、向かいましょうか」
これから起動させる
「しかし、そうすると<リンゴ>以外の知性体とは初めて対話することになるのねぇ……」
「
「何を話せばいいのかしら……」
実際のところ、
結局彼女は、何も思いつくことも出来ずに調整室に到着してしまったのだった。
どうでもいいが、運動不足解消のため徒歩で向かった。
「
「ええ……。分かったわ」
<リンゴ>が退室すると同時、正面の扉がスライドする。その奥から、ベッドに寝かされた状態の
調整室は、
『
「ええ、いいわよ」
何をしゃべるかなど全く考えていないのだが、ここで悩んでもしょうがない。彼女はさっさとOKを出し、
『1号、
<リンゴ>の音声とともに、ベッドの少女の両目が、ぱちりと開いた。
「……私のことはわかる?」
とりあえず、そう尋ねる。
少女はゆっくりとまばたきをし、その後ゆっくりと首を回し、彼女を見た。
「イエス、マム。個体登録名、キツネスキー」
「おっとそれは忘れて」
ヤバい、と彼女は焦る。そうだった。彼女の<
「私の名前は、また後で。いい?」
「イエス、マム」
ふう、と彼女は額の汗を拭った。とりあえず誤魔化せたか。目の前の少女は無表情すぎて判断できないが、ひとまず彼女は無視して続けることにする。
「まずは、誕生おめでとう。これからあなたは、ここ<ザ・ツリー>内で生活してもらうことになるわ。当面は<リンゴ>の指揮下に入って、
「イエス、マム。ありがとうございます」
素直な返答に、ふむ、と彼女は頷いた。
「それから。あなたの名前は、アカネ。フルネームは、アカネ・ザ・ツリー。今後は名前で呼びかけるわ」
「はい。名前、私の名前は、アカネ、です」
とはいえ、
名付けも終わり、アカネを立たせて一通りのチェックを済ませると、部屋から出して廊下で待機させる。あと4体も待っているのだ。
「あなたの名前は、イチゴ。フルネームは、イチゴ・ザ・ツリー」
「あなたの名前は、ウツギ。ウツギ・ザ・ツリー」
「あなたの名前は、エリカ」
「あなたの名前は、オリーブ」
5体の
アカネ、イチゴ、ウツギ、エリカ、オリーブ。
この5体……いや、5人が要塞<ザ・ツリー>における
「さて……」
無事に
恐らく、暇をしている司令官に仕事を与えようという統括AIの心遣いもあったと思われる。
「ここはメディカルフロア。医療関係の設備は全てここに集約しているから、今後も利用機会は多いと思うわ」
「この下は工作フロア。いろんなものを作ってるけど、広いから案内はまた明日かな?」
「何か聞きたいことがあったら聞いてくれていいからね」
「ここが居住区画ね。今は一部屋しか使ってないけど、みんなが増えてくれば、フロア全体を居住区画にする必要があるかもね」
「今日は、食事をしてから就寝までは自由時間と思ってたんだけど……」
おおよその案内を終え、彼女は振り返った。ぞろぞろと、カルガモの雛のようについてきていたアカネ、イチゴ、ウツギ、エリカ、オリーブの5人は、無言で司令官の次の言葉を待つ。
「思ったより静かね、あなたたち?」
「
彼女の疑問を、<リンゴ>が答えた。
「意識レベルをモニターしていますが、話し掛けたり何かを見せたりすることで、各分野の
「あら、そうなの? じゃあ続けようかしら」
ここが私の寝室よ、と部屋を見せたあと。
「うーん……そもそも寝るって概念はあるのかな?」
「
「ふーん……。んー、まあ、しばらくは一緒にいるか……」
今後の方針をなんとなく決めたところで、彼女は改めて新生の妹達に向き直った。
遺伝子は同じだが、子供と言うには難しい関係になるため姉妹として扱うのが妥当だろう。
「さて、ほんとに疑問なんかは無い?何でもいいのよ」
彼女の言葉に。
「マム」
アカネが口を開いた。
「あら!何かしら?」
反応が帰ってきたことに喜び、彼女は顔をほころばせ。
「マム、マムの名前を聞いていません」
そして、盛大に顔を引きつらせた。
誤魔化せていなかった。
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