第25話 制圧(3分)

「マストおよび外輪の破壊に成功」


 当然、敵船の乗員たちは大騒ぎである。いまだに発砲は収まらないものの、甲板の砲員は倒れ行くマストから逃げ惑い、指揮官らしき男達はデッキ上で何事か喚き散らしている。


「150mm滑腔砲の砲弾を、徹甲弾に変更しました」

「……貫通狙い?」

「はい。炸裂砲弾ですと、被害が大きすぎますので」


 そして、次に狙うのは側面の大砲だ。あまりに鮮やかに砲撃したせいか、いまだに発砲を続けているのだ。甲板上の騒ぎに気付いていない可能性が高かった。


「大砲を破壊するのと合わせて、敵指揮官を狙撃します」


 本来、主砲や機関砲で狙撃など不可能ではあるのだが。<リンゴ>謹製の砲身と砲弾、そしてその有り余る演算能力を駆使することで、恐ろしいほどの精密射撃を可能としている。毎分45発の早さで放たれる徹甲弾が、次々と敵の船体側面から突き出た砲身に吸い込まれていく。更に、20mm機関砲が砲弾を断続的に放ち、デッキ上で指揮を執る男達を粉砕していった。


 150mm滑腔砲の砲弾が直撃した敵船の大砲は粉々に砕け散り、周囲にその破片を撒き散らす。当然、その金属片を浴びた船員達は即死だ。下手をすると原型も残らず、衝撃波により周囲に撒き散らされる。砲弾はほとんど水平に舷側へ飛び込み、大砲を破壊してそのまま反対側へ突き抜ける。


「あっ」


 映像の中、船首側の舷側が大爆発を起こした。


「誘爆したようです」


 たまたま装填中だったのか、側に砲弾があったのか。破裂するように、上部構造物がバラバラと撒き散らされる。


「派手ねぇ……。沈んじゃわない?」

「まあ、そうなったらそうなったで、諦めましょう」

「言うわねえ」


 そんな会話の内にも、敵船は大砲を破壊され、指揮官を失い、大混乱に陥っていた。片舷の大砲を潰し終え、150mm滑腔砲は射撃を止める。


「さて……」


 全てのマストを折られ、大砲を潰され、動輪も破壊された大型帆船。


「示威のため、帆を畳んで動力航行を行います」


 今度は、生き残った船員達を追い出す必要がある。そのため、動力航行で近付きつつ、威嚇射撃などで追い立てることにした。


 人形機械コミュニケーター達がマストをスルスルと上り、ウィンチを操作しつつ帆を巻き取っていく。その速度は、当然ながら人間が可能な早さではない。敵船員達がその様子に気付いたのか、こちらを指差して騒ぎ始めたのが確認できた。


「さすがに、よく動くわねぇ」


 マストの上をピョンピョンと軽い足取りで動き回る人形機械コミュニケーター達。ものの数分で、3隻全ての帆が畳まれた。即座にディーゼルエンジンが起動、外輪が海面を叩き始める。加速と転回を始めた船体が大きく揺れる中、人形機械コミュニケーター達は器用にロープや縄梯子を使い、マストから降りていった。既に数百mまで近付いているため、その動きは敵船からもはっきり確認できただろう。既に逃げ腰になっているのか、幾人かが固定されたボートの縄を解き始めた。さらにそれに気付いた船員が加わっていき、一気に船上が騒がしくなる。


「……あれ、どうやって下ろすのかしら?」

「通常であれば、ロープで吊るすのでしょうが。猶予は与えましょう」


 漂流するだけとなった大型帆船に、外輪を回しながらゆっくりと近付く軽貿易帆船LST3隻。そして、それに追い立てられるように騒ぐ船員達。指揮をできそうな人員は軒並み<リンゴ>の狙撃で肉片に変わってしまっていたため、全く統率が取れていない。


「お、飛び込んだ」

「かなり高いですが、大丈夫でしょうか」


 ボートに乗るためか、ロープや縄梯子も使わず次々と海に飛び込んでいく男達。4隻ほど降ろされたボートが、みるみるうちにいっぱいになる。


「全員乗れるのかな?」

「乗れると思われます」


 適当な会話をしつつ、経過を見守る彼女と<リンゴ>。やがて、<パライゾ>が接舷する頃には、海賊たちが詰まったボートはかなりの距離を逃げ去っていた。死ぬ気でオールを動かしているのだろう、<リンゴ>の想定よりもかなり遠くへ逃げている。


「移乗開始します」


 漂流する海賊船に、<パライゾ>から次々とロープが発射され、固定されていく。そこから、武装した人形機械コミュニケーターが続々と乗り込んでいった。


「生き残りがいるようですので、排除します」

「めぼしいものが残っているといいけど」


 更に、船首の破孔や上部搬入口からドローンを侵入させる。生き残りが隠れていると面倒なため、生体レーダーをフル稼働させつつ片っ端から制圧していく。


「大砲や砲弾は確保できそうです。持ち込むと事故の可能性がありますので、解析はこの船上で行うことになりますが」

「解析に使えるドローンとかはあるの?」

「はい。汎用ドローンを利用できます。何機かを犠牲にすれば、ある程度は性質の想定はできるかと」

「うーん。接収した資源で補填の見込みがたてば、やってもいいわよ。無理に解析しないといけないほどじゃないし」


 船倉をスキャンするドローンは、金属反応をそれなりに拾っている。これだけあれば今回の戦費(鉄量)は賄えるか、と計算しつつ、<リンゴ>は積み荷の回収のため、3隻を接舷させた。船の大きさが違いすぎて、そのままだと荷の運び出しができない。工作用ドローンを駆使し、船側を切り出していく。


「水密構造が雑なので、荷出しは楽ですね」

「っていうか、木造だしそもそも水に浮くのよね。まあ、そのあたりはおざなりになるわよね」

「そうとも限りませんが……。少なくともこの船は、水密の概念はかなり怪しいかと」


 ざっくりと開口部を作り、そこから鹵獲品を運び出す。主に金属を優先し、大砲も鋳鉄と思われるため、続々と運び出していく。


「ドローンを載せててよかったわね」

「はい」


 ちなみに、人形機械コミュニケーターはこういった荷物の運び出しなどは苦手である。人間ベースで製造されたものであるため、筋力も人間の範疇を超えていない。力仕事はなるべくやらせないほうがいい。負荷をかけると筋繊維が断裂するうえ、数日間は使えなくなってしまうのだ。いわゆる、筋肉痛である。


「この大砲の回収だけでも、かなりの資源になりますね。戦列艦は、鉄鉱山と言っても過言ではないかもしれません」

「ふふ、そうね? とはいえ、積極的に襲うわけにもいかないけど……」


 1門で何トンも鉄が使われている。それが、ざっと40門はあるのだ。もしかすると、今回の交易で得られる鉄インゴットよりも多くなるかもしれない。こうなると、最初に大砲を破壊したのはいささか勿体なかったか。


「船体構造に使用されている鉄も回収できればいいのですが、さすがに難しそうですね」

「海の上だからねえ」


 解体しながら回収するわけにもいかない。目ぼしいところを適度に剥ぎ取るしかできないだろう。もし蒸気機関などを装備していれば更に鉄量は増えただろうが、残念ながらこの海賊船が使っているのは、魔法を用いていると思しき謎の機関だった。


「この魔法機関もできれば解析したいところですが」

「動かせるかどうかも分からないわね。回収できる大きさかしら?」

「いえ。さすがにこの大きさは載りそうにありません」

「じゃあ、できるだけ解体解析して廃棄ね」


 汎用ドローンを送り込み、船体と魔法機関の解析を行う。回収可能な金属を粗方積み込み終わった頃には、すっかりと日が暮れていた。人形機械コミュニケーターはそろそろ店じまいである。十分な食事と睡眠をとらなければ、翌日に活動できない。だが、ドローンは充電しつつフル稼働可能だ。夜間に可能な限り解析を済ませ、翌朝にはテレク港街へ向け出発することにした。敵船は、爆破処理とする。下手にどこかに漂流するのも、影響が大きいとの判断だ。


「あとはお願いね~」

はいイエス司令マム


 <リンゴ>はドローンを使って敵船内を解析しつつ、人形機械コミュニケーターで彼女の寝支度を素早く整えた。服を脱がせ、寝間着を着せる。髪を整え、ベッドに寝かせる。完全に、お姫様扱いだ。


 ちなみに、彼女が起きているときはあまり手を出すと苦言を呈されるのだが、眠そうにしているときなどはほぼ為すがままだ。<リンゴ>は学習していた。今後も、隙を突いてお世話をしていく所存だ。


「おやすみなさいませ」

「……おやすみぃ」

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