第24話 戦列艦、発砲。反撃開始

「敵船、並走します」


 あれから2時間。

 海賊船がおよそ1kmほどの距離を取り、旗艦<パライゾ>他2隻の単縦陣と並走を始めた。何か盛んに手旗を振っているようだが、当然ながら意味がわからない。


「なんだろうね、あれ」

「状況からすると、降伏を促しているのではないかと」


 そのまま、5分ほど手旗要員の踊りを眺めていると。


「……敵船、発砲」


 僅かに衝撃波のようなものが、ディスプレイで確認できた。飛び出した砲弾に、<リンゴ>がマーカーを付ける。


「マーク。初速382m/s。被害なし」


 およそ3秒後、海面に着弾した砲弾が、衝撃で炸裂。水柱が上がる。


「……結構な威力ね?」

「炸裂砲弾ですね。威力はありますが、命中率は悪そうです。解像度の問題で正確には計測できませんでしたが、散布界はかなり広いですね」


 <リンゴ>は映像から大砲の砲身を計測、砲弾の着水場所からおおよその敵大砲の精度を割り出した。たまたまなのかそういうものなのかはまだ分からないが、砲身の向きからかなり逸れた場所に着弾したようだ。


「あの砲弾が喫水下に着弾、正常に炸裂した場合、船体が折れる可能性もあります」

「……大変じゃない」

はいイエス司令マム。ただ、初速400m/s程度であれば、20mm機関砲で十分迎撃可能です」

「……問題ないのね」


 現在、軽貿易帆船LST級に載せている簡易の統合戦術システムでも、マッハを超えるミサイルを迎撃する性能がある。ここに、若干距離があるとはいえ、<リンゴ>の完全なバックアップが加われば、音速より少し速い程度の速度で飛んでくる砲弾など何の脅威でも無かった。


「撃ち返しますか」

「んー……。どうかな。わざと離れた場所を狙ってみる? 戦闘データを取るなら、挑発したほうがいいわよね」

「はい。では、手前300m付近を狙って発砲します」


 <リンゴ>の指示に、LST-1<パライゾ>の船首砲塔が即座に狙いを定め、発砲。砲弾は1秒ほどで目標の海面に着弾。水中弾効果により30mほど水面下を直進し、信管が作動、炸裂する。

 映像の中、巨大な水柱が発生した。


「着水場所、誤差範囲内。問題ありません」


 海賊船の甲板の上が、俄に騒がしくなる。撃ち返されると想定していなかったのか、こちらを指差しながら叫ぶ人間が、何人か確認できた。


「さて、どう出てくるかしらね」

「逃げるということは、考えにくいですが」


 敵の海賊船は、非常に大きい。軽貿易帆船LST3隻を並べたよりも大きいのだ。何だったら、現在建造中の大型輸送船より長い。この世界で考えれば、超大型戦艦、と言っても過言ではない大きさだ。当然、戦闘で負けることなど考えていないだろう。


「敵船、進路変更。こちらに近付くようです」

「砲戦距離まで来るつもりかしらね。海賊なら、こっちの撃沈は狙ってこないだろうけど……」


 大砲で脅し、停戦させ、荷物や船員を奪うというのが目的のはずである。撃沈してしまっては何も得られず、砲弾を無駄にするだけだ。

 とはいえ、面子を潰されたなどと判断されれば、撃沈を狙ってくる可能性は十分にあるのだが。


「敵船の予想有効射程まで、1時間程度と想定されます」

「ん、撃ってきたわね」


 一斉射、とまではいかないまでも、敵船の舷側砲が多数、発砲してきた。


「対象、8門。マーク。被害なし」


 放たれた砲弾が、次々に着水する。全て、かなり手前に落ちた。まだまだ有効射程には遠い。


「対空戦準備。300mまで近付かれると、迎撃が間に合わなくなる可能性があります。撃沈しますか?」

「うーん……。拿捕しても、捕虜の扱いとか面倒だしねぇ……」


 撃沈するのは容易い。

 1,2発でいいので、喫水下に砲弾を直撃させれば一瞬で沈むだろう。水密壁などろくに設置されていないだろうし、ダメージコントロールを行えるとも思えない。破孔を開けられれば、沈没するしかないだろう。


 しかし、沈没させてしまうと、それこそ何も手に入らない。実戦データは入手できるものの、正直な所、大した魅力は感じなくなっていた。


「あの大きさでは曳航することも出来ませんし、内部調査して戦利品を得る程度が関の山ですね」


 見た所、救命ボートのようなものは装備している。乗組員たちはそれに詰め込み、放り出せばいいかもしれない。少し進めば岸も確認できる程度の海域のため、運が良ければ助かるかもしれない。


「そうね。舵を破壊、マストを破壊して、降伏させましょうか」

はいイエス司令マム。そのように。すぐに実行しますか?」

「……うーん。少し、迎撃システムの予行もしましょう。500mまで近付いて、砲弾迎撃を始めましょう」

はいイエス司令マム


 <リンゴ>の操艦で、僅かに進路を敵船へ向ける。航行速度はほぼ同じ。敵船との距離を、少しづつ詰めていく。


「敵艦発砲。マーク。被害なし」


 再び放たれた砲弾の弾道が瞬時に解析され、着弾場所が表示される。1発だけ至近弾になりそうだが、特に問題ないため進路は変更しない。

 砲弾が着水し、炸裂する。LST-3の傍に落ちた砲弾により、水柱が上がった。それを突き破りながら、LST級3隻は突き進む。


「敵艦発砲。マーク。超至近、ないし直撃弾。迎撃」


 マークと同時、LST-3の20mm機関砲2門が火を吹いた。毎分3,000発の弾丸が、船首、船尾それぞれから放たれる。


「迎撃成功」


 空中で、数十発の弾丸に撃ち抜かれた砲弾が炸裂。


「……無効化には失敗、炸薬が爆発しました。敵が使用している炸薬の種類は推測できません」

「炸薬の種類なんて、分かるものなの?」

「はい。爆発の特性、煙の種類などからある程度類推は可能ですが。敵艦発砲。マーク。被害なし」


 <リンゴ>は、彼女にも分かりやすいよう、砲弾が爆発する瞬間をモニターにスロー再生した。丸い砲弾に、前方から後方に向けて20mm機関砲の弾丸の雨が近付いていき、そして直撃。上下半分に断ち割るように、弾丸が次々と通り抜けていく映像が流れる。


「敵艦発砲。マーク。被害なし。このように、砲弾自体はかなり脆いようです。しかし、弾丸が通り抜けたあと、すぐには爆発しません。マーク、被害なし、マーク、被害なし。敵艦の発砲、統制射撃は行われていないようですので、これ以降報告は行いません」

「りょーかい。適当に迎撃して。……ふーん、爆発は結構後になるのね」

「はい。しかも、上下の砲弾それぞれではなく、おそらく同時に爆発しています。少なくとも、第1貿易船団の積んでいる機材では、タイムラグは観測できないレベルで同期しています」


 映像の中、砲弾が崩壊、そして爆発する。その際、目立った煙のようなものは観測できず、そのまま爆発が発生しているように見える。


「我々の知っている、火薬を原料としていないのかもしれません」

「うーん……。とすると、例の魔法とか?」

「可能性は否定できません」


 立ち上がる水柱の中、3隻は進む。間も無く、敵船との距離は500mになる。

 時折飛んでくる至近弾を的確に迎撃しつつ、<リンゴ>は敵砲弾の分析を進めた。


「150mm滑腔砲の砲弾でも迎撃はできそうですね」


 LST-1の船首砲が火を吹き、飛び出した砲弾が敵砲弾に直撃する。敵の砲弾が柔らかすぎるため、こちらの砲弾はそのまま貫通。一拍おいて、敵砲弾は爆発した。


「……接収して調査したほうが早そうです。敵艦、距離500m。砲戦開始します」


 戦闘目的は、敵船の無力化、接収。できれば金属資源を回収したい。可能であれば、敵船動力や砲弾機能の解明も。そうすると、狙うのはその足と、頭脳。


 150mm滑腔砲、4門から同時に放たれた砲弾は、1秒で目標に到達。4本のマストの根本に直撃、炸裂。さらに、20mm機関砲の1門もマスト根本に砲弾の雨を叩き込み、へし折った。もう1門の機関砲は、後部の外輪を破壊。なるべく内部機構にダメージを与えないよう、水車上部を丁寧に削り取った。

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