第13話 軍事侵略を見学
「ひえー……」
北諸島が、軍事侵略されている。
その様子を上空20kmから観察しながら、彼女はドン引きしていた。
『戦列艦が8隻。回転砲塔型の主力艦が2隻。その他、支援艦が5隻。対して、北諸島側は主力が
「圧倒的じゃない」
『
転移後、1ヶ月と少し。監視を続けていた北諸島およびその周辺海域で、大きな動きがあった。大陸側から派遣されてきた艦隊が、つい先程、北諸島に対し攻撃を開始したのだ。明らかな侵略であった。しかも、北諸島では全く抗し得ないほどの大戦力だ。攻撃開始から既に1時間ほど経過しているが、主島の港はほぼ破壊し尽くされ、揚陸のためか支援艦が港に向けて進み始めている。
「うーん……。いい交易相手になれば、と思ってたんだけど……」
北諸島は、軍備も少なく治安も良さそうだった。豊富な漁獲と、温暖で穏やかな気候のため気性が陽気なのだろう。夕方から夜にかけて、よく宴会が開かれているのも確認できていたのだが。
『残念です、
「そうなのよねぇ……」
観察していた北諸島は、どうも保存可能な海産物を主力の輸出品としていたようだった。輸出先は多岐にわたり、北大陸の南沿岸部に港のある国々と、かなりの量の貿易を行っていたように見えた。そのため、食料輸出を盾に独立を勝ち取っているのではと予想していたのだが。
「こっちも大艦隊が作れれば、交渉もできるだろうけど」
『戦闘艦を作れるほど、資源に余裕がありませんね』
そうなのである。
セルロースは海藻からの抽出に目処が立ったため、セルロース構造体による船は現在設計中だ。だが、戦闘艦となると何より頑丈さを求められる。
確かに、高速艦であれば装甲はある程度排除できるが、それでも各種兵器を保持して造波抵抗を押し退けるだけの構造物を作るには、やはり何より鉄が必要だ。大型航空機を解体して得られるのはジュラルミンばかりで、それも(現時点においては)高価で貴重な資材であり、できれば航空機に使いたい。更に、鉄は各種工作機械の原材料にもなるため、とにかく量が必要なのだ。
『海底採掘の目処が立てば、かなり解消できるのですが』
「それは目下調査中……よねぇ」
ちなみに、深海用ドローンは無事に就航し、現在要塞<ザ・ツリー>周辺海域で資源調査を行っている。いくつか海底鉱物のサンプルを採取できたため、含有量を調査中だ。よくあるマンガン
ただ、どちらも海底1,000mを超える深海で、採掘は困難を伴うだろう。鉄が欲しいのに、採掘用構造物を作成するための鉄が足りないという、頭を抱える事態の予感があった。
鉄が足りない、とはいえ。
『ただ、現在観察できる限り、周辺文明は木造帆船が主力であり、装甲艦はまだまだ少数です。セルロース製の戦闘艦でも、十分に渡り合えると想定されます』
「うーん……。まあ、セルロースって樹脂だものね」
『正確には異なりますが、概ね同意します』
「でも、砲艦外交するにはやっぱり大型艦が要るのよねえ」
北大陸の文明レベルを考えれば、100m
『張りぼての旗艦と、主力小型艦を分けるのがよいのではないでしょうか』
「うーん……まあ、当面はそれしかないかしらねぇ……」
気密構造をうまく設計できれば、不沈艦も作れるかもしれない。ただ、ざっくり<リンゴ>が試算したところによると、要塞<ザ・ツリー>内の大型プリンターで大型艦を作るのは無理で、専用の造船ドックが必要とのことだった。
そうなると、つまり、鉄の不足である。
「あとは、交渉には人……アンドロイドでいいんだけど、
そして最大の問題は、人員が圧倒的に足りないこと。なにせ、1人しか居ないのだ。
『現時点ですと、生体部品を多く使用した
「そうねえ……」
生体アンドロイドの製造。それは、現在確保できる遺伝情報、すなわち彼女の遺伝子を使用して製造する、人造人間である。神経系は成長に時間がかかるため、当面は遠隔操縦となる予定だ。
「細々と自活してもいいけど、張り合いがないしね。やっぱり、交易を目指して動くのが健全よねぇ」
『
「お願いね。旗艦は……まあ、とりあえず、適当に組み立ててみましょうか……」
『
<リンゴ>の提案を了承し、彼女は息を吐いた。統合AIが優秀すぎて、事態が目まぐるしく変わっていく。ひとまず、要観察対象の北諸島、北大陸は継続して注視する必要がある。<リンゴ>曰く、技術レベル的にこの要塞まで任意に到達することは不可能とのことだが、偶然発見される可能性はあるらしい。とはいえ、周囲に島も何もないことを考えると、難破以外で近づかれることはなさそうだが。
「できれば、早めに交渉したかったんだけど、この様子だと当面は無理ね」
スイフトの捉える映像の中で、街が燃えている。上陸した兵士達が、火を放ったようだった。
「侵略……にしても、容赦ないわね。こんなものなのかしら?」
『
「ふーん……。何なのかしらねぇ」
砲弾によってなぎ倒された家々。どうも炸裂砲弾が使われているらしく、技術レベルがちぐはぐだと<リンゴ>は言っていた。そして、兵士たちが使用している杖のような武器。先端から炎が吹き出る機能があるらしく、次々と火を放っていた。
「火炎放射器って、あんな構造で作れたっけ?」
『いえ。少なくとも、可燃性液体を放出するため、ポンプ機構と燃料タンクは必要です。あの杖状の武器内に、それらを収めることは不可能かと』
「うーん。どうも、こっちの知識にない技術体系がありそうよね」
交渉の前に観察、とは思っていたが、どうも思ったよりも知識レベルが異なっているようだ。常識と思ったことが通じない可能性が高い。綿密に調査を継続する必要があるだろう。
『
「非常に高度なって、要は、こちらを超える科学技術があるってことよね? さすがにそれを考慮する必要はないと思うけど」
『では、未知の技術体系という視点で解析を続けます』
未知の技術体系、という言葉に、彼女は苦笑する。少なくとも、この要塞の元となっているゲームはハードなSF設定で、それに準ずる様々な科学理論がライブラリに収められていた。そこから類推されるのは、科学技術以外の手段。すなわち、
一体、誰が何のために、この世界に呼び出したのか。あるいは、送り出したのか。
現状の技術ツリーを眺めながら、彼女は改めてため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます