第14話 転移後40日 <リンゴ日記>

【転移後40日目 <リンゴ>の日記のようなもの】


◆ザ・ツリー

 要塞<ザ・ツリー>は、第二核反応炉の稼働も順調で、各施設の必要エネルギーを十分に賄えるようになっていた。予備の動力炉もほしいところだが、現時点で目処は立っていない。ある程度資源を確保できるようになった後、核融合炉の建設を行うことだけ決まっている。

 大型汎用工作機プリンターは、3機が稼働中。その他、小型、中型のプリンターが複数。プリンターで使用する原料マテリアルカートリッジは補充設備で増産中だが、製造が間に合っていない。これは機器の問題ではなく、原材料の入手に手間取っていることが原因だ。

 汎用組立機ワーカーは5台で、これも全機稼働中。現在は、主に船舶ドックを建造させている。

 真水生成装置も順調に稼働中で、真水は司令官も含め、様々な機能の生命線であるため、資源を抽出して二号機を建造中。ついでに、レアメタル類の回収機能を追加している。

 水中ドローンは、近海探査に5機、深海探査に2機を投入し、海底マップを作成中。いくつか資源は見つかっているが、そこから最も採掘にコストが掛からない場所を選定中だ。

 空中は、光発電式偵察機スイフト6機体制で監視を行っている。4機を定空域で回転させ、2機で周辺を調査するという組み合わせだ。そのうち、1機は北諸島、北大陸を偵察中。もう1機を、ひとまず東、西、南と順次飛ばし、視界を広げている。どの方面も、今の所何も発見できていない。

 また、より高空への観測機投入は、現時点では見送っている。ロケットを製造する資源もなく、管制のための設備も整っていないからだ。これは、洋上設備を建造できるようになってから検討することにしている。

 海上戦力の建造は、ようやく着手したところだ。ひとまず現有戦力の有効化という観点から、高速艇にミサイルを積む方向で設計し、建造を開始している。大型プリンターでいくつかのパーツを製造し、それをドックで組み立てる予定だ。<ザ・ツリー>内の武器庫には、相当数のミサイルが眠っている。本来は戦闘機や攻撃機に積むものだが、運用できる機体をほぼ解体したため、海上発射用に換装している。発射機構の改造と、プログラムの入れ替えで対応できたため、修正した。

 機関銃も戦闘機や攻撃機から回収し、高速艇に積み込む予定だ。また、150mm滑腔砲を<ザ・ツリー>の標準装備としていたため、専用の製造設備が備え付けてあった。これを主砲とするべく、現在砲塔を設計中だ。仮想敵として想定している木造艦や鉄板装甲艦であれば、30kmの遠距離からでも撃ち抜くことが可能な性能をもたせる予定だ。今の所航空戦力は確認できていないが、戦艦の技術レベルから想定すると、せいぜい複葉機止まり。機関銃は元より、主砲でも直接狙って撃ち落とせると想定している。


◆司令

 可食テストを繰り返し、日常の食事に不満がない程度のレパートリーを獲得した。

 また、狐の獣人という特性を詳しく調べた結果、油分やタンパク質からカロリーを摂取する能力が高いことが判明。これにより、穀類などの主食を用意しなくても、十分に必要なエネルギーを摂取できることが確認された。

 現在、魚介類を生食することで摂取できる栄養分が増えそうだということで、安全な食べ方を模索している。調理前に放射線殺菌を行うのが、今の所第一候補だ。放射線障害のリスクは考慮したが、癌化細胞は医療メディカルポッドで即座に摘出可能なため、毎日の検診を行えば問題なしと判断した。

 本人は、生食しつつ「これが野生なのね……」と呟いていたが、そもそも野生のキツネは海の魚は食べないし、完全滅菌された食事は野生の対極だろう。ちなみに、野生と思った理由は、塩味だったからだそうだ。野生で、塩味はないだろう。

 現在、ソテーか蒸し焼き、刺身に海藻サラダ、海藻スープなどをメニューに取り入れている。魚によって味も様々あるようで、組み合わせが悪いと酷い味になるようだ。同じ失敗はしないよう、成分分析は続けていくつもりである。早急に、嗅覚センサー、味覚センサーを改良しなければならない。

 味に飽きが来ないよう、発酵食品などで調味料類を作成することも考える必要がある。食は、人間の欲求の中でかなり重要なものだ。疎かにすると、ストレス原因になるため、これも力を入れて開発する必要がある。さしあたって、原料を確保しやすい魚醤を仕込む予定である。


◆北諸島

 北大陸の軍に半分以上制圧されている。実質、現住の自治体は壊滅したと見ていいだろう。戦闘艦は1隻も残っておらず、散発的なゲリラ戦が発生しているだけだ。街は完全に更地にされており、更に山狩りも行っているようだ。大陸側の狙いが想像できない。少なくとも、植民地にしようとしているわけではない。植民地であれば、住民を虐殺する必要はないだろう。

 原住民の生き残りは、周辺の小島に逃げ込んでいる。海産物が豊富なことを考慮すると、そのまま餓死するような事態にはならないだろう。雨も多い気候なため、飲料水も問題ないはずだ。あとは、北大陸の軍隊が周辺の掃討を始めないことを祈るだけ、といったところか。

 北諸島が壊滅したことに司令はショックを受けていた。意図的に解像度を下げて詳細な映像は見えないようにしておいたが、それでも刺激が強かったようだ。気を付ける必要がある。


◆北大陸

 相変わらず戦乱は続いているようだ。北諸島に軍を派遣している国は、小康状態のように見える。周辺国家では、観察できる範囲で既に2回、大きな戦闘が発生しているのを確認した。かなり遠距離のため、勝敗などは不明。

 科学技術は、大砲を畜獣に牽かせて移動させる程度。鉄道のようなものは、一応確認できたが、まだ本格的には普及していないようだった。動力付きの車両は、鉄道以外には確認できていない。動力の小型化ができていないように思われる。主な観察対象としている国家は領土の7割を半島が占めており、海洋国家と思われる。海軍はかなり充実しているのではないだろうか。少なくとも、周辺国家よりも1世代は進んだ装備を持っているように見える。

 主力艦は回転砲塔を持ち、帆は持たず何らかの動力を使って航行している。少なくとも、補給無しで北諸島へ到達可能な航続距離は持っているようだ。周辺国家はいまだ帆船であることを考えると、海戦だけで考えればかなり有利なのだろう。全ての領土が海岸から近いというのも、勢力を保っている理由の一つだろう。

 ただ、広い農地が少なく、食料調達に苦労しているように思える。周辺国家とは敵対しているため、さらに遠くの国と交易し、穀類を輸入しているようだ。そんな事情もあり、とにかく海軍、輸送船の発展が著しい。

 現時点では、要塞<ザ・ツリー>との交易相手の第一候補。ただし、友好的な接触の可能性は2割程度と見積もっている。砲艦外交に望みを託す。

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