第12話 閑話(とある島民たち)

「おい、見えっかぁ。まぁた鳥星とりぼしが出てんだぁ」

「おぉ、おぉ、今日きょーもよぉ光っとぉなぁ」


 男の指差す先には、キラキラと光を放つ、ひときわ眩しい星が見えていた。

 時刻は、夕の刻の一の頃。あと一刻ほどで夕日は沈むだろうが、空はまだまだ明るい。そんな中、南の空、はるか遠くに、ぽつんと輝く鳥星が出ていた。

 鳥星は、数日前から急に見えるようになった。それから、この時間になると決まって現れるようになったのだ。

 最初は未知の魔物でも出てきたのかと騒ぎになったが、3日経っても近付いてくる気配もなく、誰も気にしなくなってしまった。むしろ、ときの鐘が鳴る少し前に光り始めることから、よい刻報せになると感謝されている。


「しっかし、なぁにやっとるんかいなぁ、あれぇは」

「さぁのぉ。見回みまぁりかぁ?」


 鳥星は、ゆっくりと移動している。日によって場所が違うこともあるが、だいたい同じところを回っているようだった。

 日の光が斜めに当たるこの時間だけ、ちょうどその体が光を反射しているのだろう。島民たちは、体が濡れている羽蛇だの、硬い鱗で覆われた竜だのとその正体を予想していたが、残念ながら確かめる術はない。

 伝え聞くどこか遠くの国ならば、何百海里カイリも離れたところまで船を出して漁をしているらしいが、この島ではそんな大型の船は誰も持っていなかった。どんなに遠くても十数海里しか出ることはなく、その程度近付いたところで、あの鳥星とりぼしの正体は目視できないだろう。


「あぁのうんっと向こぉに、岩だか島だかぁあるっちゅーんは聞ぃたこたぁあるがのぉ」

「ありゃぁ酔っぱらいぃの与太話やっちゅーに」


 数年前に、ボロボロの難破船がこの島に辿り着いた事件があった。言葉も通じず、長い遭難ですっかり弱った船員たちから聞き出せた話はあまりないが、それでも、彼らが遥か南の大陸から来たということは分かった。見たこともない島の地図で、聞いたこともない星座を頼りに航海していたらしい。遭難してからは、海図に無い、彼らのそれから見ると遥か北の方を彷徨い続け、ようやくこの島に辿り着いたという。

 ちなみに、彼らは体力を取り戻すと、そのまま北の大陸へ移送されていった。島民たちからすると驚天動地の、水車を廻して風もないのに走る船(いわゆる外輪船)に乗り込む際に、なんの反応も示していなかったのが印象深かったものの、彼らの話はそれからさっぱり聞かなくなってしまった。ほんの数ヶ月ばかり、島民たちの酒の肴になった遭難者たち。


「んでも、南ぃにでっかい島ぁがあんのは違いねぇんだろぉ?」


 そんな話をしながら、彼らは鳥星を眺め、やがて光線の加減で輝きは見えなくなった。


「んーじゃ、そろそろ終わりだぁ」

「せーやなぁ」


 鳥星が消えて、島民たちは仕事の片付けを始め、すぐにときの鐘が鳴り始めた。

 そうして、島の一日は何事もなく終了し。



 その1ヶ月後、北側の大陸国家から侵略された南の島嶼は、短期間でその歴史を終わらせることになる。

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