11 行商人と私 (2)
ゲドは一体どこから出してくるのか、というほどに大量の掘り出し物を見せた。
中には、屋台には絶対に入りきらないものまであった。
私の持つ指輪の収納能力と似たようなものなのでしょうが、どこから出してるんですかね。謎です。
「そして、ラストがこれだァ!」
大量にあった掘り出し物も最後の1品になり、ゲドは胸を張って1番の笑顔──今日会ってからだが──で赤い箱を取り出した。
サイズはやはり屋台には入らない大きさだ。
ガチャンと大きな鍵を開けると、中に入っていたのは青みがかった白い牙だった。
しかし、魔力をまだ上手く扱いきれていないユージンですら、強い魔力を感じることの出来るものであった。
ただならぬものを感じるのはそのせいだった。
「最初に見せていただいたシルクも魔力を帯びているものでしたよね。これはそれの比でない強さを感じます」
「ケッ、そりゃそうだろうよ。こいつぁとある竜神の牙だかんな。魔力もそうだが、神力もバリバリ出てんぜ」
「……竜神の牙なんて、何でそんなものがあるんですか」
「丁度生え変わりだったのを貰ったんだよ」
「竜神にも牙の生え変わりなんてあるんですね。そう言えば、サメの歯も少し抜けたらすぐに新しい歯列に生え変わるらしいですよ」
「…竜神の牙とサメの歯を一緒にしちゃいかんだろ」
「生え変わるなら同じでは?」
「………図太い神経しとるな」
「通常運転ですよ」
歯の生え変わりに生物の違いなどありません。同じですよ。人も犬も、神でさえ生え変わるなら同じと考えていいんです。
紅茶を啜りながら、ユージンは竜神の牙を見つめた。
確かによく見れば、魔力以外の別の力があるのがわかる。それが神力であることを理解すると、牙は面白いものに見えた。
青みがかった白の牙は、外側が魔力、内側が神力という構造をしており、ゲドに許可を貰い、触れてみたり軽く叩いてみたりすると、中は空洞になっていることがわかった。
牙の主である竜神は、一体どんな神様なんでしょうね。
人型であればいいんですけど…。
「ゲドさん、色々なものを見せていただきありがとうございます。この後はどうするおつもりで?」
「時間的にはもう遅いかんな。いつも使っとるとこはもう閉まっとるだろうしな」
「なら、是非泊まっていってください。沢山見せていただいたお礼もしたいですし。腕によりをかけて作りますから、ごちそうさせてください!」
「お? おう、ならお言葉に甘えて」
お礼もそうですが、ゲドさんは色々なところを回ってますから、沢山の興味深い話が聞けそうですね。
さて、何を作りましょうか。
幸い私は少食ですから、指輪にはまだ大量の食料があります。キッチンにも調味料が豊富にありましたし、少し凝った料理も作れそうですね。
別にSNSに投稿する訳ではありませんでしたが、見目の良いのを休日に作ってましたっけ。すぐに出勤命令が出て結局冷めきったものを食べることになってましたが、自信はありますよ。
「さあゲドさん、こちらへどうぞ」
ユージンは扉を開き、居住スペースに案内した。
屋台の方は元々リヤカーに乗ってる状態だが、万が一のこともあるため結界を張って扉の部屋においていった。
しかし、小道具などの細かいものや金銭類は不安だったのか、小さめの箱の中に詰めて持っていった。
そしてユージンは、ゲドさんが道具の手入れをしている間に、調理に取り掛かりました。
* * *
「〜〜〜っ! 美味い! 何だこの料理は!!」
「私特製ダレで作った、ただの親子丼ですよ」
丁度いいところに鶏肉と鶏卵を手にしましたので、親子丼を作ったんですよね。
私特製ダレは、企業秘密なのでレシピは言いませんよ?
「美味いなぁ。小僧、お前さん元料理人か!?」
「言ったと思いますが、私は元社畜ですよ? 料理は趣味です」
「十分やって行けると思うがなぁ。だが、ますます気に入ったぞ、小僧! いや、ユージン!」
「そう言っていただけて恐縮です」
ゲドはユージンが作ったご飯に満足すると、ソファにドサッと座りニヤッと不敵な笑みを浮かべながら言った。
「ユージン、お前さん酒は飲めるか」
「飲める飲めないで言うのならばそれなりに飲めますが、普段はあまり飲みませんね。友人かパーティーに呼ばれた時くらいしか飲んだことは無かったと思います。親戚が集まる時も烏龍茶でしたし」
「…とにかく飲めるんだな?」
「はい、飲めますよ。お酒自体は結構好きですから。ただ、普段は飲まないだけです」
「よし、なら……」
ダン! と、またもどこから出したのか、龍殺しと書かれた酒瓶を短足テーブルに置いた。
見るからにアルコール濃度の高いものだとわかるほどに、アルコール臭が周囲に漂う。
「グラス持ってきな。飲ませてやる」
「……わかりました」
ゲドの目が有無を言わせないような目付きをしていたため、ユージンは半ば諦めてグラスを取りに戻った。
一応は辛口も飲めるが、何分度数が未知数なことから少し不安になった。
鬼ころしはありました──それもかなり辛口でした──けど、龍殺しなんて無いですからね。
確か、鬼ころしの由来が酒呑童子を源頼光が鬼退治したところから、鬼にお酒をたらふく飲ませて酔い潰れたところを退治する、というのでしたね。
龍殺しは、鬼ころしの龍バージョンでしょうか。
龍を酔い潰す……一体どれだけ度が高いんですか。
そう思いながらも氷入りの2人分のグラスを運び、ゲドの前に出すとトクトクとお酒を注いだ。
「では」
「「乾杯」」
カツンとグラスを鳴らし、お互い同時に口をつける。
以前飲んだ鬼ころしと比べると、度数はやはり高く辛さもかなりあった。
喉にピリッとした感覚が伝わる。
流石にグラス1杯を一気に飲むことは難しいので半分より少し少なめで終わらせると、ゲトが意外そうな目でこちらを見ていた。
「お前さん、行ける口か? やっぱわしが見込んだ通りのやつだ。今までこの酒を飲ませたことはあるが、1口飲み終わる前に終わっとったぞ。まあ、酒が強いなどと言っとるやつがバタバタと倒れていく様は見物だったな!」
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