10 行商人と私 (1)

「ん、やっぱここの紅茶はどこと比べても一味違うな。香りが違ぇ」

「やはり良いものでしたか。ですが、私も嗜む程度で知ってはいますが、これは何という名前の紅茶なんでしょうか。知っていますか?」


 ゲドにそう聞き、その後ユージンはすぐに吹き出しそうになった。


「なんだ、知らんで飲んどったのか。名はセイクリッドリーフ。そのまんま神葉ってやつだ。神界の更に上界の天界あまつかいっつー特別なところで作られるの茶葉を使い、1年かけて熟成させて更に1年かけて乾燥させ、他の様々な香りと味を持つの茶葉を絶妙なバランスで混ぜて作るの紅茶だ」

「ゴフッ!」


 そ、そんな紅茶を飲んでたんですか私は!! 知らなかったとはいえ、もう二度と飲めないです。飲む自信がありません!


 青ざめていユージンを見て何か思ったのか、ゲドが溜息をつきながら言った。


「別にここじゃあプレミア会員のカルギエドが買い溜めストックしとるはずだ。帰って来た時に一缶くらい無くなっとったって、あいつはガサツだから差ほど気にはならんだろうよ」

「そ、そうですかね」

「あぁ。小娘は気付くと思うが、カルギエドは気付かんだろ」


 やけに自信がありますね。確かにカルギエド様はどこか抜けてますしおちょくりやすいですし、フェレイルさんはしっかりしてますから気付きそうですね。


「そう言えば、ゲドさんはカルギエド様のことあいつ呼びですね」

「わしは神の位には入っとらんからな。それに、わしはカルギエドよりも長く神界にいる」

「ということは、小娘ってフェレイルさんのことですか?」

「ふん。あんな若造、小娘で十分だ」

「そ、そうですか…」


 確か私は小僧でしたか。祖父の友人から小僧呼ばわりされた以来、そんな風に呼ばれたことはありませんしもうすぐ30代でしたから、何か新鮮ですね。


 フフフっと笑っていると、ゲドが気味が悪いとでも言うような目で彼を見ていた。


「小僧……いや、お前さん、小僧って呼ばれて笑ってるんか? もしかして、それに喜びを感じる系の……」

「フフ…いえ、少し懐かしいと思っただけです。嬉しいとは思ってはいませんよ。そんな変な性癖はありませんから」


 ユージンは紅茶を一口飲むとゲドに質問した。


「フェレイルさんから詳しくは伺っていないので気になっていたのですが、ゲドさんは一体何を売っているんですか?」

「各世界の食べ物や装飾品だな。……見てみるか?」

「はい是非…と言いたいところですが、時間がかかるかもしれませんが大丈夫ですか?」

「まあ構わんだろ。次の神界に行くのも、時間はわしの勝手にできる。ここより神格の低いやつのところだからな。どうとでもなるってもんだ」


 ちゃっかり私のせいにしてますね。いえ、まぁそうなんですけども。

 ……と、おや?


「すみませんがゲドさん、今思ったんですが、私の神位とっても低いと思いますよ?」

「何故だ?」

「私、最近まで地球の日本という国で生きていた社畜だったんです。多分ですが、最下位じゃないですかね」

「…………」


 最下位と言うと、ゲドは黙ってしまった。

 余程強い衝撃だったのか、更に俯いてしまい肩を震わせている。


「げ、ゲドさん?」

「ブククッ……」

「??」

「ブハッ、ガハハハハハハハハッ!!」


 肩を震わせていたのは、笑っていたからだった。


「カルギエドが半神を作ったんか! しかも人間から! あんなに人嫌いのやつが!」

「そんなに笑うことですか?」

「笑わずにはいられないだろ! ブククッ! よし、面白ぇもん見せてやる」

「本当ですか!?」

「わしは嘘はつかん。さっさと来い」

「はい」


 屋台を開くと、中から様々な装飾品が出てきた。

 見たことも無い模様の布や服、アクセサリー、食品など、各世界の違いがよくわかるものでいっぱいだ。

 日本の物もあり、そこまで時間が経ったという訳では無いが、少し懐かしいと思ってしまった。


「…これは」


 数ある商品の中で一際目立つ、とても派手でそれでいて薄っぺらい本を見つけた。

 興味という興味は湧かないが、触れてはいけないと感じる。


 なんと言いますか、トラブルと面倒事の気配がするのは何故でしょうか……。


「ああそれ、小僧んとこのカルギエドが書いてる本だぞ。人気は無いがな」

「…見ただけで何故か感じ取れました」

「だろ? そこまで良い本と言える訳じゃねんだが、他んところの神も、その本に気付いたら無理やり買わされてたぜ」

「なんて傍迷惑な」

「一応高位の神だからな。逆らえないやつは逆らえねんだよ」

「ご愁傷様です」


 っと言いますか、カルギエド様って高位の神だったんですか!? あんな神様とも思えないくらいアホっぽいのに…。人は見かけによらないんですね。あ、神でした。


「ま、そんなことはどうでもいんだ。ほれ小僧、これだ」


 ゲドは奥からゴソゴソと漁ると、白い輝きを放つ光沢のある布を取り出した。


「見ろ、掘り出し物だ。ユニコーンとペガサスの毛皮と尻尾の毛を織り交ぜて作られとる。夏は涼しく冬は暖かい、純度の高い魔力を帯びた高級シルクだ。別名ユニサスだ」


 ふふっ。まるでユ◯セフ。ユニコーンとペガサスを混ぜてそうなったんでしょうが、ふふふっ…。笑ってしまいます。

 ああ、顔に出さないようにしなければ。

 話題を変えねば変えねば。


「淡く光っていて綺麗ですね。この白玉は真珠ですか?」

「いや、純度100%の魔力を球型に超圧縮したもんだ。魔宝石と呼ばれとる」

「魔宝石、ですか」


 そこから更に多くの掘り出し物を見せてもらった。


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