09 更なる出会い

 遂に次の世界に行くことが出来るようになったアルスは、最初に出会った時とは比べ物にならないほど立派になっていた。


 少しの時間でここまで成長したのは、彼自身に元からあった強さと心、そして仲間の応援があったからでしょうね。

 改めて本当にすごいです。流石勇者です。


「さあ皆さん、出発の時間ですよ」

「はい!」


 アルスが返事をし、異世界への扉を出したユージンの前に整列する。

 皆とても良い顔つきで、穏やかな表情をしていた。


「皆さんがこれから行くのは、バナーチェという世界のスウィン帝国です。エルナさん、ベインさん、アナさん、そしてアルスさん。この先に何が起こっても、挫けそうになっても、決して後ろを向かず前を見続けてください。後ろ向きになって誰かを恨んでも、何もいいことはありませんし、何も返ってきません。強い心を持って、必ず魔王を倒してください」

「ふっ、何がなんでもやってやるさ」

「ねぇユージンさん、また会える?」

「それは…どうでしょか」


 アルスたちは、この扉をくぐってしまえばここでの出来事を全て忘れてしまう。

 しかし、だからと言って会えないということも無いだろう。


「バナーチェから帰れるかどうかはわかりませんから。もしかしたら、一生そこに住むかもしれませんからね。会う機会は、もう無いと言っていいでしょう」

「そ、そっか…」

「ですが、私は断言はしていません。もしかしたら帰れるかもしれませんから。そのために、頑張ってください」


 皆さんが記憶を失ってしまっても私が覚えていますから。


「はい!」


 そして、4人は開いた扉の縁に乗ると、ユージンの方に振り返ってそれぞれ言いった。


「ユージンさん、アルスの特訓をしてくれてありがとうございました。まさか本当に直してしまうとは思ってませんでした。アルスのことは私が支えます」

「あたしも、なれるかもじゃなくて、絶対になってやるんだから! 次に会ったら後悔させてやるわ!」

「俺も、俺なりに頑張って何とかやる。期待はするなよ。そこら辺はダメなんだからよ。でも、本当にありがとうな」

「ユージンさん! 俺のドジとか空振りしちゃうところとか、直してくれてありがとう! 俺、頑張って勇者やります! 俺頑張って忘れませんから!」

「改めて…」

「「「「ありがとうございました!!」」」」


 全員で揃って言うと、そのまま笑って扉をくぐり抜けていった。


 * * *


「意外とあっという間でしたね…」


 アルスさんたち、大丈夫ですかね。

 …いえ、心配は無用でしょうか。

 エルナさんがついてますし、何かあればベインさんが止めてくれるでしょうから。


 ユージンは事務室の方に戻り、今回の仕事の報告書を作成した。

 作成書を転移装置に置いてナバーチェの神に送り、それでこの仕事を終わらせた。

 業務を終わらせればあとは自由時間だ。

 次の転移者、転生者が来るまでは誰も来ない。


「書庫に行きましょうか。アルスさんたちがいて本が読めてませんでしたし」


 移動してからは早く、すぐに本を読みにかかりった。世界の歴史書から魔導書まで、全て読み漁る。

 その日は、書庫にて本を読み漁った後、卵の世話をして終わった。


 短く濃かった日でしたね〜。初仕事からかなり疲れました。

 ですが、とても楽しかったです。


 その夜、ユージンは穏やかな顔で笑っているアルスたちの夢を見た。


 * * *


 朝起きて卵の観察をした後、朝食をとりながら今日の予定を確認した。

 腕輪からは次の転移者、転生者の情報は送られて来ていませんし、報告書もその日のうちに済ませているので特にやることは無かった。

 二度も言うが、特にやることも無いので扉の部屋に体を動かしに来ていたが、前日と同じように書庫で本を読むことにした。

 移動しようと扉を開けようとすると、突然異空間が開いて、中から人が出てきた。

 リヤカータイプの移動屋台を引いており、黄色の頭巾を被り焦げ茶色のサングラスをかけた小柄な初老の男性で、色黒さと服装が相まってチンピラのように見える。

 もちろんチンピラではないだろうが、サングラスの奥に見える目は堅気の者にはどうしても見えなかった。


 …もしかして、フェレイルさんが言っていた行商さんとはこの方ですか?


「あぁ? 小娘が消えてんな。お前さん誰だ?」

「初めまして。先日からここに勤務しているユージンと申します。この先顔を合わせるのも私になると思いますので、どうぞよろしくお願いします」

「………わしはゲドだ。見ての通り行商をしとる。店名はレードだ。小僧、何か買うもんはあるか」


 嬉しいお誘いですね。しかし……


「残念ながらまだ給料前でして。加えて、私はまだ働き始めですから、金銭は持ち合わせていないんですよ」

「金がねぇなら話にならんぞ。わしはもう行く」


 ゲドはユージンを一瞥した後、リヤカーを引いて踵を返そうとした。

 何とかして話をしたいユージンは、急いで紅茶の準備をしてお茶をするということで、引き止めることに成功した。


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