06 初仕事 (2)
「改めまして、私はエルナです」
「俺はアルス!」
「あたしはアナよ」
「ベインだ」
「どうも」
「それで、あなた何者? ワールドゲートって何よ」
アナがゆっくりと前に出て質問する。
別に答えてはいけないなどと言われておりませんからね。答えても消えてしまいますし、よろしいでしょう。
「ここは、異世界と異世界を繋ぐ空間。あなた方は別世界に召喚されている状態です」
「は? 召喚?」
「はい。ですが、召喚されている人間の中に碌でもない人間が混じっている時があります。そういった人間を通さないように審査するのがこのワールドゲートです」
「……つまり、この中に悪者がいるとでも言いたいんですか?」
エルナの冷たい視線が突き刺さった。
カルギエドがフェレイルから受けた視線と同じようなものを感じた。
「いえ、そういうわけではありませんよ。ただ、そういう審査をしているというだけですので」
「そう……」
それでは、そろそろあなた方のステータスを見させていただきましょう。
* * *
ステータスの鑑定というのは案外早く終わるもので、ほんの数秒しかかからなかった。
……特にこれといって悪いものは無いですね。
ですが、問題はやはりアルスさんでしょうか。
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アルス
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・
・
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能力
《剣術》Lv6《筋力増強》Lv5《危機察知》Lv4《魔力感知》Lv4《気配察知》Lv5《自己回復》Lv2《ドジ》Lv6《罠誤作動》Lv3《空振り》Lv8
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後半からのダメさがかなり漏れています。特に、何故空振りが剣術よりもレベルが高いんですか。
これは抹消しないと危ないですね。いえ、その前にどの程度か見ておきましょう。
どの程度の空振り度なのか少し気になります。
「アルスさん、少し手合わせしていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい! よろしくお願いします!」
「ちょっと待ちなさい! アルス、こっち来なさい!」
「お? おう」
「ユージンさん、ちょっといいですか」
「ええ」
アルスはアナとベインに連れられ、エルナはユージンに鋭い目つきで言った。
「何故アルスと手合わせしたいんですか?」
「彼には色々と気になることがありまして。つきましてはエルナさんにもわかって頂きたく、少しお話が。エルナさん、アルスさんは幼い頃から空振りやドジを踏むことが多かったのでは?」
「確かに多かったと思います。成長してからは空振りの頻度も増えましたしドジの規模も拡大していきましたけど、それが何か?」
や、やはりそうでしたか。……ドジの規模って何です?
「その空振りやドジは次の世界ではかなり致命傷になります。なので、私自身がアルスさんのそれがどの程度のものなのかを確認するために、軽くて手合わせを、と思いまして。完全に治るかはわかりませんが、ある程度は軽減出来るかもしれないんです」
「ホントですか!?」
「嘘はつきませんよ。ですから──」
「ぶちのめしてもいいので治してくださいお願いします」
即答でしたね。私言い終わってませんよ?
ですが、許可は取れましたので、早速やりましょうか。
「アルスさん、準備はいいですか?」
「はい! ユージンさんは武器いらないんですか!?」
「はい」
私はどちらかと言うと素手をメインにするタイプですし、武器なんて持ったことありませんから。
そう言えば、友人が一時期○ルース・リーにハマっていた時、ヌンチャクを振り回されて腕に青アザと骨にヒビが入ったことがありましたね。
あれから攻撃のいなし方を極めたんですよ。
それに、この服がステータスの底上げをしてくれていますから、ある程度の攻撃は防げますし魔法を纏わせますから多分大丈夫でしょう。
「私は素手ですよ。ベインさんとは少し違いますが、私も拳闘士の部類に入る戦闘スタイルです」
「スゴいですね! エルナ、審判頼むよ!」
「りょーかい。両者構えて。では……始め!」
「だああああああぁっ!!」
エルナの合図と同時に、アルスは真正面から斬ってかかった。
ユージンはスっと身体を逸らして避けると、雷を纏わせた脚でアルスの後ろから回し蹴りをした。
掠ってしまったらしく、左側の髪が少しだけ焦げているようだった。
避け方にあまり無駄な動きがありませんし、まだドジは来ないようですね。
しかし油断は禁物です。ドジだけであれほどのレベルになるのであれば、ほんの些細なことでさえドジをしかねませんから。
「てやあああぁぁぁっどわっ!?」
「あっ剣がっ」
そう思った瞬間、アルスは何も無いところで躓き転んだ。同時に持っていた剣も手から飛び出し、そのままユージンの目の前に突き刺さり、彼の前髪を数本犠牲にした。
瞬時に後方に下がると、少し混乱した頭をなんとか鎮めた。
あ、あれが……ドジ? 一歩間違えば私死んでましたよ! 怖いですねぇぇっ!?
「え、えーっと、アルスの……自滅?」
「アイツの勝ちじゃね?」
「ゆ、ユージンさぁん」
「…ドジについてはよおおおくわかりました。アルスさん、この火球を斬ってくれませんか?」
空中にサッカーボールサイズのファイアーボールを浮かべ、試し斬りを促す。
起き上がって顔を拭うと、アルスは勢いをつけてファイアーボールを一刀両断……ではなく、空振りをした。小さな子供でさえ、たとえ斬れなくても攻撃が入るくらいの大きさであるはずなのに、空振りをした。シュンといい音を出して綺麗な型だったというのに、空振りをした。
「…あ、あれ?」
「アルス、空振ったんだから斬ってないわよ?」
「うそおぉ!!」
「……アルスさん、もう一度お願いします」
「ああはい! こ、今度こそ…!」
またも空振りをした。
その後も何度かやったが、そのファイアーボールに攻撃が入ることは無かった。
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