05 初仕事 (1)
朝目を覚ますと、茶色い木目の天井があった。
来訪者がいなければ特にやることが無いため、昨日は書庫の1列目から本を読んで一日を過ごしていた。
ページをペラペラとめくるだけで記憶するのですが、それでは本を読んだという気になれませんでしたのでゆっくりと読んでしまいそうになりましたね。目的が全ての暗記なので、しっかりと読むのはまた今度です。
昨晩は卵を抱えながら眠ったのですが、割れなかったようで安心しました。
これなら今晩も抱えて寝れそうですね。
指輪と腕輪が付いていることを確認し、軽く体操をして朝食を食べ終えた後、支度をして扉の部屋に行く。
この空間──特に扉の部屋は、周囲の神々からワールドゲートと呼ばれているらしく、扉の部屋に行く扉にも上の方に World Gate と書かれているのを見つけた。
扉の部屋は、扉を出現させなければ何も無い部屋なので訓練室としても使えるようですので、早速覚えた四大元素魔法を、まず火から試そうと思います。
火魔法って、覚えるとしたらかなり簡単な魔法らしいですよ。
確か詠唱が……
「真紅に燃える命の炎 我が言に従い球となれ『ファイアーボール』」
ユージンが放った魔法は15mほど進んだ後、床に落ちて内側から弾けて散った。もちろん床は焦げ跡も無くまっさらなままだ。
本当にどういう原理でできているのかが不思議でなりません。
と言いますか、詠唱面倒ですね。
省略してしまいましょう。いえ、もう必要ありませんか。
「『ファイアーボール』」
先ほどと同じような火球が現れ、同じように15m──ではなく、20mほど進んで消えた。
その後、何も言わずにやると30mほど進んだ。
どうやらユージンには、詠唱有りよりも詠唱無しの方が合うようだった。
他の属性のものも同じように試したが、全て詠唱無しの方が上手くいくことが判明した。
手応えとしては、雷魔法でしょうか。
まあ、それもですが、放つのもいけましたが、手に纏わせて使う方が魔力の消費が少ないですね。
近接戦闘が得意な私にとっては幸運です。
すると、知らせは突然来ました。
──転移者の情報を表示します
「おや、もう来ましたか」
──アルス
エイヴァントのコルグ王国シアト村出身の剣士。明るい性格で正義感が強いが気持ちに身体がついていけず、その度に大怪我を負っている。そそっかしい面もあり、周囲を困らせることもしばしば。警戒心が無い。皆無。
──勇者になる──
──エルナ
エイヴァントのコルグ王国シアト村出身の弓使い。アルスの幼馴染みで、対局的な慎重型。放つ矢は岩をも貫き、命中率も高い。アルスのブレーキ役。ただし効果は薄い。
──凄腕の魔弓士になる──
──ベイン
エイヴァントのコルグ王国ソアン村出身の拳闘士。短気で喧嘩っ早く、チーム内の問題児。妙な所で冷静で1番頭が良い。貯蓄家の節約家で、無駄なことには絶対にお金を使わない。
──魔拳闘士になる──
──アナ
エイヴァントのコルグ王国パトラ村出身の回復術師。動物に好かれるため、常に近くに動物がいる。回復術に長けており、喰われた腕さえも復元させることが出来る。口調が悪く、アルス以外には効果は無いが睨みつけると相手が怯むほど顔が怖くなる。
──聖女に……なれるか?──
「ふむ、4人ですか。来る情報はステータスではなく人となりなんですね」
ステータスは鑑定してしまえば見られますしね。
と言いますか、最後の1文が気になります。アナという方の最後のは酷くないですか?
情報が来るのは転生者転移者が来る約1時間前です。ですが、いつ来ても大丈夫なように万全の状態でいましょうか。
準備することは特に無いので、転移してくる国、転移する国の扉の確認を済ませ、別室から部屋に合う真っ白なミニテーブルと椅子を運び込み、棚にあった茶葉を使って紅茶を入れた。
何の種類の紅茶かは不明だが、果物の香りが鼻をくすぐる良い匂いの紅茶だった。
「香りは強めの柑橘系といったところでしょうか。美味しいですね」
もう二口ほど飲むと、遂に転移者がやって来た。
入り口となる扉が開いて件の4人が中に入ってくる。
何を言っているかは聞こえないが、周りをキョロキョロと見回していた。
これが、私の初仕事ですか。少し緊張は…しませんね。
4人はユージンに気が付くと、警戒しながら──1人明るい顔で──ユージンに近づいていった。
ユージンはカップを置いてゆっくりと前に歩き、その少し前で止まった。
「ようこそ、ワールドゲートへ。アルスさん、エルナさん、ベインさん、アナさん、お待ちしておりました。私はユージンと申します。短い間ですが、どうぞお見知りおきを」
「はい! 初めまして! アルスです! どうもよろしく!!」
「「アルス!?」」
返されたのは元気な返事だった。
しかし、残りの3人はエルナは顔には出さないものの、アルスが突然返したことにかなり慌てているようだ。
そしてユージン自身も少し驚いていた。
もう少し警戒心というものがないんでしょうか。確か、あの情報には……
── そそっかしい面もあり、周囲を困らせることもしばしば。警戒心が無い。皆無。──
……これはこれは、相当な問題児が来たものですね。大丈夫ですか。
危険な生物がいるような所へ行くのに、警戒心の一つもないというのは非常にまずいですよ。今までどうやって生きてこれたんですか。
「アルスのバカ! 何やってるのよ!」
「警戒心が無いにもほどがあるってもんだぜ」
「もう少し慎重に行動が出来ないの?」
「えー、だって危険そうな感じしなかったんだよ? なら大丈夫じゃん?」
「「「んなわけないでしょ(だろ)!!」」」
「まぁまぁ。そのくらいに。紅茶でもどうです?」
「俺たちは水で…いや、やっぱいらねーや」
おや、ベインさん、良い判断です。
この世界では知らない人から出されたものは、飲食店でもない限り飲むものでは無いですからね。
「はい! 俺は紅茶欲しいです!」
……アルスさん、大きな声で手を挙げて元気がいいのはよろしいですが、少しはベインさんを見習ってください。
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