04 準備 (3)

「では次に、《思考解析》は相手が考えていることを読み取ることが出来ます。危険な思想を持っている者や、ろくなことを考えていない者は即座に除外して頂いて結構です。《魂魄操作》はそういった人間の魂を元の世界の輪廻の輪に戻す力があります。それ以外に用途はありません。そして、1番重要なのが《異次元の扉》です」

「もしかして、フェレイルさんが出している扉を出すものですか?」

「はい。先程の書庫やこの祭壇、そして居住部屋への扉はこれで開けます。更に、転移、転生者の行く世界の扉を開ける能力でもあります。たとえ、もし、万が一、扉の向こうへ入ってしまっても、この能力でこの空間に戻ってくることが出来ます」

「そんなこと無いことを願いますよ。体験したくは無いですから」


 まぁ、私もそこまでおっちょこちょいではありませんし、そう簡単に後ろを取られるつもりもありませんが。

 先生はいつも「最も危険なのは前方では無く後方からの攻撃だ」と言ってましたので、背後はいつも確認しています。

 お陰様で背後から友人が驚かせてくることがありませんので日々平和でした。


「この特殊能力の全ては、同族には絶対に効果はありません。そんなことになれば大問題ですから」

「確かに、それは問題になりそうですね」


 仕事ミスした→上司に怒られる→記憶消しちゃえ! でしたら、かなりまずいです。


 ユージンは思わずカルギエドを見てしまった。そしてその視線に、カルギエド自身も気付いた。


「貴様、それ以上の事は考えるなよ?」

「……何のことでしょう?」


 フェレイルさん、笑っているの気付いていますからね。肩震わせていますから、カルギエド様も気付いていますよ。


「フフフッ……では、これで特殊能力の説明を終わります。あ、あとこれを…」


 フェレイルから渡されたのは、真っ白な卵だった。鶏の卵の大きさではなく、ダチョウの卵と言った方が納得出来るような大きさの卵だ。


「これ、食べるんですか?」

「いえ、食べません。食べれませんから」

「神獣を食べるなんて聞いたことないぞ?」

「神獣…」


 神の獣と書いて神獣ですよね。

 それって卵から生まれるんですか。


「卵から生まれてくる神獣はランダムです。その神獣は、あなたの身を守るとなります」

「武器? 武器がいるんですか?」

「たまに馬鹿がいるのだ。神である余やフェレイルに手を出してくる馬鹿が」

「そのための武器です」


 扉の方でも思いましたが、物騒過ぎませんか?

 身を守れる武器が手に入るのは構いませんが、それを使うことになる状況には遭遇したくはないです。

 何事も安全第一です!


「温めたり魔力を注いだりすればしっかりと孵りますよ」

「仕事をこなしていればレベルも上がるからな。魔力も増えてくるぞ」

「仕事をすると強くなれるんですか。日本の社畜はすぐに最強になりますね」

「……給料は出ますが、残業手当は出ませんよ」

「それは残念です」


 1人残念がっていると、フェレイルがジト目でユージンを見つめていた。

 彼女はふいっと視線を逸らすと、耳を澄まさないと分からないほど小さな溜め息が聞こえてきた。


「これで全ての説明が終わりました。質問はありますか?」

「先程給料が出るとおっしゃいましたが、具体的には何時、幾らほど貰えるのでしょうか」

「成果に応じて増減はしますが、普通ならば月に1度18,000ベル貰えます。相場にして銀貨18枚ですね。使う機会は限られていますが、1週間に1度神界と神界を行き来する行商がやって来ます。色々売っているので、そこでお買い物が出来ます。単位や貨幣についてはこちらの紙に書いてあるので後ほどご確認くださいますようお願いいたします」

「わかりました」

「給料日の前に、まずこの空間での時間について説明します。1年360日、1ヶ月30日で週6日の計12ヶ月、1日24時間で回っています。月は年初めから創壊の月、退魔の月などと呼びます。四季は春夏秋冬で変わりません。あ、年初めは冬にあります。曜日については、週初めから順に闇日、火日、水日、風日、土日、光日と呼びます。闇から始まり基本属性で光で終わりますので、こちらはかなり覚えやすいかと。そして、給料日ですが、その月の第2週間目の闇日に支給されます。詳しいことは、こちらの紙をご確認ください。カレンダーもございます」

「そ、そうですか……」


 今までで1番長い説明でした。一応全て記憶しましたが、しっかり覚えきれているかどうかを確認出来ないのが嫌ですね。

 さて、次は何をするんでしょうか?


「今日お伝えするのは以上となります。明日の昼頃発ちますので、午前の内に業務の引き継ぎをしましょう。制服もその時に支給します。残りの時間は自由時間です」


 * * *


 さすがの私も、部屋や能力の確認をした次の日に、まさか山のような数の書類を引き継ぐとは思っていませんでした。そのお陰か、レベルがちゃんと1と表示されたんですよ。

 そして聞いてください。フェレイルさんから貰った制服の性能が凄いんです。

 白基準のスーツでして清潔感があるんですが、何ですか、あれは。ステータスが3倍になりますし、体力と魔力の《自動回復》に、破れたり切れたりしても大丈夫な《自動修復》、汚れも一切付かない《汚染不可》、私以外着ることが出来ない《譲渡不可》。

 これを現代で私が着たら、三徹…いえ、多くて四徹くらいは軽くできます!

 社畜の力は無限です!


 とは思いながらも、自身の有能性を示す方法は至ってシンプルな事である。


「仕事は絶対に溜めず、ノルマはきちんとこなすのが私のモットー。これから再開です」



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