02 準備 (1)
「ではユージン、頼みますね」
「変なやつ通したら許さんからな」
「お任せ下さい」
ユージンが微笑むと、フェレイルとカルギエドの身体が光って消えた。
そこにはもう2人の姿は無く、ユージン1人が残っていた。
ちなみに、フェレイルさんが言ってたユージンと言うのは、私のここでの名前らしいです。
そう言えば、ここでは沢山貰いましたね。
ユージンは腕輪と指輪、そして真っ白な卵を見ながら、ここ数日間の出来事を思い出した。
* * *
扉をくぐった先は、先程の何も無く扉だらけだった部屋とは真逆の、壁一面に本が敷き詰められた書庫のような部屋だった。
その奥には大きなテーブル──最後の晩餐のテーブルと同じくらい──があり、さらにその奥にデスクのような木の机が幾つかあった。
「ここは事務室になります。この部屋で事務作業を行ってください。こちらの大きなテーブルでは調べ作業を。あちらのデスクでは必ず報告書を書く時に使用してください」
「何故報告書はデスクで書かないといけないのですか?」
「デスクの後ろの壁に転移装置があるんです。報告書に書かれた世界の名を読み取り、その世界の神に届けられます。書いたらすぐに送るようにしないと、万が一忘れる場合もありますから」
「わかりました」
「ちなみにここにある本は全て暗記するように」
「……はい? 今、何と?」
「ですから、ここにある本は全て暗記するように、と。各世界の各国の歴史書から生物学、医学、植物学まで全てあります。魔導書もありますよ。本棚の横に表があるので、そこから何が読みたいのか探しやすいと思います。。ざっと20万冊はあると思いますから、1日100冊以上読んでください」
「最低2000日はかかりますよ? さらに言うなら、人間の頭で20万なんて数覚えられるはずがないんですが…」
フェレイルさん、それはかなりの無茶振りではありませんか?
神経が焼き切れる気がしますよ?
「ご心配無く。そこのところはカルギエド様の領域ですので、直接説明していただきましょう」
「ハーッハッハッハッ! 余を讃え跪くがいい!」
「さっさと始めてくださいじゃじゃ馬上司」
「ゴフッ!」
カルギエド様の心臓に矢が刺さってるのが見えますね。あれが心に刺さるということなのでしょうか?
物理的に刺さっているように見えますが、普通に抜いているので大丈夫でしょう。
──次は槍が降るんでしょうかね。
「……では貴様に、《記憶保持》という特殊能力と名を授けよう!」
「ありがとうございます?」
「何故疑問符が付くのだ! もっと喜べ!」
「では、わーい(棒)」
「っ! おちょくっているのか貴様は…!!」
「優二殿、さすがです」
特殊能力を貰いましたが、これは一体どういうものでしょうか? 名前からして記憶を保存するものでしょうが……まさか、これでここにある本を全て覚えろと言うのですか?
「《記憶保持》は、1度見たもの聞いたものを記憶に留めて保存する力があります。私も持っていますので、詳細はまた後程に。優二殿、RPGゲームはご存知でしょうか」
「ええ、やったことはありませんが、廃人ゲーマーが友人にいたものでどういうものかは知っているつもりですよ」
「では話が早いな! あの扉の向こうの幾つかの世界にはステータスというものがある。この空間でもそれを採用していて、余とフェレイルもステータスを持っているぞ。そして今、特殊能力を授けたことで貴様にもステータスが現れたはずだ! さあ、ステータスと叫」
「ステータス」
「貴様っ!!」
────────────────────
名前 ユージン 28歳 男 Lv─
体力 20
魔力 15
攻撃 10
防御 5
知力 8
敏捷 6
特殊能力
《記憶保持》Lv1
能力
《対応》Lv7《和》Lv3《整理整頓》Lv4《調理》Lv2《回し蹴り》Lv5《ビンタ》Lv3《怪力》Lv4《疾走》Lv3《体術》Lv5
────────────────────
「初めて見ましたが、こういうものですか」
「どれどれ見てやろう。……うわっ、何だこの後半の能力は…! 回し蹴りにビンタだと…!? 見た目糸目の優男のくせになんてものを持ってるんだ」
「失礼な。回し蹴りは馬鹿をやっている友人を矯正するためにやっていたことですし、ビンタは酔った人間を叩き起す時に使っていたことです。疾走は恐らく幼少時代から足が速かったことからでしょうし、体術は近所の人から習っていたストリートファイトのでしょうね」
「体育会系か!? ストリートファイトとは…確か喧嘩のことではなかったか? 人は見た目によらぬものとはこの事だな!」
「優二殿、さすがです。いえ、ユージンでしたか」
「すみませんが、そのユージンとは?」
ステータスにも名前がユージンとなっていましたし。私の名前は優二ですよ。
棒線とンはいりません! はい。
「先程名前を授けるとか言っていましたが、それがこのユージンですか?」
「そうだぞ! 良い名だろう?」
「いえ、安直だなと」
「なにぃっ!?」
「名前を変えた理由をお聞きしても?」
「はい。まず、優二という名はここではかなり目立つ名前ということ。そして、同じ地球からやってくる人間に、同郷の者であるということを悟らせないためです」
「わかりました。ちなみに改定は出来ますか?」
「残念ながら…」
「そうですか」
「そ、そんなに駄目か?」
「自分の胸に手を当てて考えてみては?」
「もう少し捻って欲しかったです」
「なっ!」
こうして不本意ながらもユージンの名前が決まりました。
そして同時に、カルギエドのネーミングセンスの無さも判明致した。
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