第3話 カオリーヌ《猫派なのかもしれない》


 何処にでもあるような半端な駅前で、何処にでもあるような半端なチェーン店。


 そんな何てことない店に天使以上の存在を連れてきたんだから、この店の人間は半端ない俺様達に平伏さなければならないと思った。


 しかし、それを口にすれば、愛する二人に愛の無い言葉を投げかけられるのは目に見えているから、普通に座って普通の客として存在する。


 百合は世界一可愛いから、イチゴパフェ。


 かおりちゃんは、その次くらいだからチョコパフェを注文。


 可愛くも何ともない俺様は、珈琲をかけるために普通のバニラアイスにした。


 運ばれてくるや否や、パフェを口一杯に詰め込む妹を見ると、俺様は生まれてきて良かったと心の底から感じる。ひまわりの種を貰ったハムスターのように、膨らませて頬張るもんだから半端なくて仕方ない。


 口周りにクリームやアイスやら、何やら色々付いていたから。お兄ちゃんが拭ってやろうと、紙ナプキンを用意する。しかし思わぬ伏兵の存在に、俺様は自分の鈍くささを思い知る羽目となる。


「百合ちゃん。頬……」と、かおりちゃんが既に我が愛しき妹を頬を拭っていたではないか。


「ありがとー、かおりちゃん」と百合の世界一の笑顔を独り占めしたもんだから、かおりちゃんが羨ましくて半端なかった。思わず嫉妬という感情を、向けてしまいそうになったのを半端なく堪えた。


 この俺様は半端なく完璧なお兄ちゃんじゃないといけないから、妹の大事な存在に妙な感情を向けてはならない。


 ふと視線が気になって、顔を上げてみる。他の客が俺様達のテーブルを横切る度に、ちらりとこっちを見ているように思えたのは気のせいだろうか。


 いや、気のせいじゃないな。なんせ、今の百合の色はオレンジと黄色のグラデーションという半端ない状態。


 オレンジは華麗で、黄色は陽気なんだが。実はこの二色が合わさった状態の百合は、スカシユリという名前の妹になる。


 注目を浴びる、飾らぬ美という花言葉の通りだ。今の妹はトップアイドル以上に、誰からも視線を集める半端ない存在なのだ。


 なんて思っていたが、ここに百合を見ていない子が一人居た。


 かおりちゃんはパフェを頬張る百合を横目に、スプーンを止めて何故か俺様の顔をまじまじと見ていた。


 この素晴らしい兄である俺様なんかに目をやるならば、隣の天使を凌駕する存在に目を向けるべきなのだが。それとも俺様の顔に、何か妙なものでも着いていたのかもしれない。これでは完璧な兄が台無しだから、ちょっと聞いてみてみるか。


「俺様の顔になにかついてるか?」


「い、いえ……」


 首を左右に振ったから一安心。かおりちゃんとしても、親友の兄に変な噂でも立てられたら半端なく困るに違いないのだ。


「……みんな、お兄さん見てると思って」


「……何言ってるザマスか、ミス・カオリーヌ」


 俺様の一言に、花びらみたく朗らかだったミス・カオリーヌの口がへの字に変化した。


「カオリーヌって、かおり犬に聞こえるから、やめてって言ってるじゃないですか」


 分かりづらいかもしれないが、ミス・カオリーヌとは目の前の少女のあだ名だ。


 いつだかゲームセンターで何かのゲームをしようとした時、かおりちゃんのキャラの名前を勝手にカオリーヌにした馬鹿が居る。


 それは完璧すぎる兄である俺様の仕業だった。予想通り百合が大爆笑してくれたもんだから、事在る毎に彼女をミス・カオリーヌと呼ぶことに決めた半端ない兄が俺様だ。


「かおり犬って可愛いと思うけど」


 パフェを頬張る手を止めて、真っ白な色で百合が微笑んだ。この状態が無垢だと知っているのは半端ない俺様だけだが、そもそも嘘をつけない妹が嫌味で言っているなんて有り得ない。


 それはミス・カオリーヌも重々承知している筈だから、怒るに怒れない様子だった。だから完璧な兄である半端ない俺様が、百合の言葉に後押しを入れてしんぜよう。


「かおりちゃんは犬みたいに可愛いしな」


 犬とか言われたのが恥ずかしくなったのか、真っ赤な顔になってしまった。それから店を出るまで、俺様と目を合わせ無くなってしまった。


 半端なく逆効果だったのかもしれないな。この完璧な兄と天使を凌駕する存在は犬派なんだが、かおりちゃんは猫派なのかもしれない。


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