第13話

 カシスオレンジ風味のノンアルコールを口に含んだ頃には、風呂も入ってリラックスタイム。

 結局、から揚げをつまみに、ノンアルコールを飲んでる。テレビからは、お笑い芸人が何かやってうけてるようだけど、ただのBGMになってしまってる。

 こういう時は、スマホのゲームに没頭すべし!


 スマホを鞄から取り出すと、L〇NEのメッセージが五つもあることに驚く。


「げっ」


 それも久しぶりの遼ちゃんのメッセージ。


『美輪さん、今日、暇?』  19:00


『お仕事忙しいのかなぁ』  19:08


『僕、近くまで来てるんだけど』 20:20


『美輪さーん』 21:10


 号泣してる顔のアイコン 21:40


 うわぁぁぁぁ……なんというタイミングの悪さ。とりあえず、謝らなきゃ、と慌ててメッセージを打つ。


『ごめん、今、見た』


 送信した直後に『既読』がつく。

 は、早いっ!?


 ピンポーン


 スマホに集中してただけに、いきなり玄関のチャイムが鳴って、ドキッとする。

 な、なに、こんな時間に。それも、この音は玄関のところにあるチャイムの音。普通なら、まずはエントランスの別の音のチャイムが鳴るのに。


 恐る恐る近寄って、ドアスコープから覗いてみると……さっきのグレーのパーカーの男が立っている!?


 なんで? なんで? なんで?


 怖くなって、部屋の奥まで逃げ込んだ。


 ピンポーン、ピンポーン

 

 なんで? なんで? なんで?

 頭の上にはいくつものクエスチョンマークが浮かんでるに違いない。


 ヴルルルル ヴルルルル


 無意識に掴んでいたスマホが揺れた。

 L〇NEの無料通話がかかってきたみたいで、画面には『RYOTYAN』の文字。

 正直、天の助け!! と思った。


「も、もしもしっ?」

「『あ、美輪さーん? 開けて~?』」


 ……

 ……ん?

 なぜか、玄関先の声と重なってる気がするのは、気のせいだろうか?


「はい?」

「『はい? じゃなくてー、開けて~?』」


 遼ちゃんの甘えた声に脱力とともに、怒りがふつふつとわき上がってきた。

 あんなに恐かったのに。マジで怖かったのに。


「『ねっ?』」

「……やだ」

「『えぇぇぇぇぇっ』」

「うるさいっ」


 私は怒ってるんです! 終了。ぽち。


 ピンポーン、ピンポーン

 ピンポーン、ピンポーン

 ピンポーン、ピンポーン

 ピンポーン、ピンポーン

 ピンポーン、ピンポーン


 う、うるさいっ!!!!

 うるさい!!!

 うるさい!!!


 耐えられなかった私は、玄関まで行くとドアのチェーンをはずし、鍵をあけ、勢いよくドアを開くと、目の前にいるグレーのパーカー男を部屋に引きずり込んだ。


「う、うわあぁっ」


 ドテッと床に倒れ込んだのは、相模遼。

 ドアの鍵をかけて、見下ろす私は、たぶん、般若の面をかぶっていたに違いない。


「ひいっ」


 美しい遼ちゃんの顔が恐怖でひきつる。


「あんたねぇ……今、何時だと思ってんの……それも一人暮らしの女の部屋に」

「……ご、ごめん」


 私の涙は引っ込み、逆に遼ちゃんが涙目になる。


「だ、だって」

「だってじゃない」

「だって! 久しぶりのオフだったんだもん……み、美輪さんと、あ、会えないかなって思って……」


 かわいこぶってもダメです。


「で、ストーカーですか?」

「ス、ストーカーって」


 私の冷たい視線に、ぷるぷると顔をふる遼ちゃん。


「そ、そんなつもりは全然なくて……ただ……」


 その間は何。


「美輪さんを驚かせたかったんだもの」


 ……でた。妖艶王子の天使ヴァージョン。そんなかわいい顔で、上目遣いで目にお星さま入れ込んで、見つめないで。


「うっ」


 思わず尻込みしてしまう私。

 すーっと立ち上がる遼ちゃん。


「でね、仕事のスーツ姿もかっこいいなぁって思って、見てたら、声かけられなくて」


 ち、近寄るな。


「エレベーターでも、なんか小さくてかわいいし」


 な、なんだ、その獲物を狙うような目はっ!!!

 ジリジリ後退していくと、玄関のドアが背に当たってる。

 に、逃げられんっ。


「怖がってるのわかって」


 手、伸ばすな、手!!!


「かわいいなぁって思ったんだ」


 ふぎゅっ。

 簡単に抱え込まれる……むーん。子豚、捕獲されました。

 うにゅにゅにゅにゅ……。

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