第10話
二人が新創刊といってるのは、ブライダル雑誌。
散々、大手のところのCMを見てたりするから、私もどうなのかなぁ、と思うけど。所詮、私程度の新人には、予想もつかない世界。
だから、先輩方の話を、耳をダンボにしながら聞いてしまう。
……手元が疎かになってることも忘れて。
「神崎さ~ん、手が止まってるわよ~」
パソコンの画面から、相変わらず目を離さない本城さん。
「か、考え事してました! す、すみません!」
慌てて指が動き出すのを見て、吹き出す笠原さん。
「慌てないで。ミスするほうが困るから。」
ああ、優しいお兄ちゃん……って、違うからっ!
時計を見ると、すでに12時半近くになっていた。
「おっと、もうこんな時間かよ。飯行こうぜ」
集中すると時間を忘れるのが三人の共通項のようで、時間に気が付かないとお昼を食べそこねることがある。
「げ。私、午後一で本社経理と打ち合わせなのよね。」
時計を睨みつける本城さん。はっ! 凛々しい!
「あ、じゃあ、私コンビニでお弁当でも買ってきますよ?」
「あー、でも移動とか準備とかで、時間ないからいいや。打ち合わせやってから、なんか食べて戻ってくる……たぶん、夕方になるかなぁ……戻り時間」
「お~、じゃあ、神崎、食いにいくか。」
「は~い♪」
「いってらっしゃ~い」
まるで餌付けされる子豚……いやいや、子犬のようだ……と、本城さんは思っているに違いない……。
時間がないときは、てっとり早く済む牛丼屋さん。会社のそばには、いくつかのチェーン店の牛丼屋さんが競いあっている。学生時代には行ったことがなくて、仕事を始めてから、二人に連れて来てもらった。
「牛丼の大盛りと……健康セットで」
「……牛丼のミニと……サラダのセット」
「なんだ、神崎、ダイエットか?」
お茶を飲みながらニヤニヤする笠原さん。
「……いやぁ……ここ、意外に量が多いんで」
実際、並盛だと多いし。でもダイエットも、あながち……違ってはいない。
最近、不摂生がたたって、入社前に買ったスーツがキツイ。新しいスーツも欲しいけど、それはもう少し絞ってからのほうがいいかな?と、思ってる。
「ふふん、そんな気にするほど、太ってないぞ?」
「いやいや、私的には太ってるんですよ」
思わず、遠い目をしながら、壁に書いてあるメニューを見る。
「ぽっちゃりしてるとは思うけど、健康的なぽっちゃりならいいんじゃねぇ?」
「くっ、ぽっちゃりは禁句でお願いします。これでも女子です。気にしてます。」
「はっはっは。」
笠原さんは豪快に笑って……あっという間に食べ終えた。
私は、食べるのが遅い……ついつい味わって食べてしまう……たとえ、それが牛丼であっても。これでも社会人になってから、少しは早くなったはずなんだけど、当然、笠原さんのスピードについていけず。
「まぁ、営業とか外回りを経験してると、自然と外での飯は早くなるんだよ。」
そういうものなのでしょうか。
「気にせず、ゆっくり食え。まだ時間はある。」
いやいや、そんなに時間はないですよ。時計をちらっと見ると、昼休憩が終わる五分前。
「俺、先に戻ってるから、無理せず後からこい。」
じゃぁな、といって、さらっと私の伝票ごと持って行った笠原さん。か、かっこよすぎる。
「はぁ……」
とろくさい自分に嫌気を感じつつも、箸は進む。コンビニ弁当買って、席で食べたほうがよかったかなぁ、と俯きながら食べていると、どこからか視線を感じた。
ふっと、店の外に目をやるけど、私を見ている人など、誰もいない。
なんだったんだろ? と思いつつも、急いで食べ終えて会社に戻った。
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