第3話

 撮影は予定時間よりも少し早目に終わった。出演者たちは、スタッフや私たちエキストラに軽く挨拶をして、帰っていった。


「面白かった~! 一馬、ありがとうね」


 社会人になる前に貴重な経験をした、と、ほくほく。

 それに遼ちゃんにも会えたし。


「じゃあ、ケーキ食べ放題なし?」

「それは別~! 行くわよ!」

「ほどほどにしとけよ~。ただでさえ丸いのが、余計、丸くなる」


 ニヤニヤしながら言ってる一馬に、蹴りをいれ、学校を後にした。




 撮影して一か月後。

 再び、エキストラの話が来た。同じドラマの教室でのシーン。

 また女優さんが見られる! (ついでに遼ちゃんも)と思ったら、即参加の連絡をした。今回は一馬は都合がつかず、私だけ。

 一馬みたいに知り合いはいないので、待ち時間には自分の席で本を読んでいた。


「美輪さん、面白い?」


 本に集中してたせいで、周りの状況に気が付いてなかった。


「へ?」


 気の抜けた返事をしながら見上げると、遼ちゃん。


 ……へ?


 まわりの他のエキストラも、びっくり。


「あ、は、はい。面白いです。」


 ふふふ、と大人っぽく笑う遼ちゃんは、一馬がいたときのようなオカマではなく、ずっと王子様オーラをかもしだしていた。


「今日は一馬くんいないから、寂しいんじゃない?」

「え。えと、本があるから。」


 王子様オーラに押され気味の私は、顔をひきつらせながら笑顔。


「ふーん。僕のお芝居も、ちゃんと見ててね?」


 ……そっか、彼はあんなんでも俳優さん。きっと、今のこれも演技なんだ。


「は、はい。がんばってください」


 手をひらひらさせながら戻っていった。

 思わず、ふーーーーっと、息を吐き出すと同時に、周りにいた女子校生(風)たちにいっきに囲まれた。


『なんで、知り合い?』

『どういう関係?』

『紹介して!』


 だいたい、こんな風なことを言われたが、親しくもない相手に応えるわけもなく。ああ、こんな時に一馬がいてくれたら、と、無理な願いを考えてしまった。

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