第5話 失恋と口づけ
電車の窓で街並みが線を描いて去っていく。
頭の中で『灰色と青』ー米津玄師さんの歌が流れていた。
『…どれだけ背丈が変わろうとも
変わらない何かがありますように
くだらない面影に励まされ
今も歌う今も歌う今も歌う…』
『灰と青』米津玄師 + 菅田将暉
元彼と再会し失恋を知った後なのに、
幼なじみを思い出して目と目を合わせて会話している小学生までの日々を思っていた。
この歌を聴く度にいつも幼なじみを思い出しているのだから、特に特別に何かあったわけでもない…。
だけど、唐突に、本当は、この歌で思い描くのは幼なじみでなくても良かったのではないかと思った。
元彼は、容姿端麗で学歴もいいし社会的な地位もある。例え、付き合っていたとしても、たった一週間で、ほんの出来心だったみたい。わたしのスペックを聞いて少し眉をひそめた元彼の顔を思い出す。
一週間は、見た目を装ったわたしのまぐれな出来事だったみたい。
わたしが米津玄師さんの『灰色と青』を聴く度に、幼馴染を思い出すのは、
わたしがわたしのままでいいと思えた小学生の頃までのわたしの、飾っていないそのままの姿で隣り合っていられたから…、
だから、“幼なじみ”を何度も思い浮かべる、ただそれだけのことだったと…。
偶然やその時の運の運びの良さでしか
相手を思う強さを持てない。
悲しい
苦しい
心の痛みは
脳内のヘッドフォンを突き抜けて
無理やり
頭の像の中に浮かぶ少しうつむきがちな“歌い手”の顎先をとらえて
前置きもなく、
唇に唇を押し込んだ…。
忘れたいだけだという
ちょっと卑怯な逃げ方をしながら、
楽器やキーボード…ペンに触れる“誰か”の指先を
そーっと確かめるように目を
最寄り駅に着いた。
わたしは帰りを急いだ…。
明日も休日。
家族とは微妙だし、友達も少ない。
待つ人なんていない。
だけど、まっすぐー何かに待ちわびたように帰路に着いた。
そう、家では音楽が、待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます