エンドロール

 腕時計型端末に連絡が入る。力と覚悟を振り絞って連絡に応じる。

「すみません、ウィリズさんのご家族の方ですよね」

 相手の言葉を無理やりにでも飲み込むように、頭に情報をたたき込んだ。感情は相手との通話が切れるまでふたをしていた。話が終わると、指定された場所に駆け込んだ。

 父と対面したとき、リーナは現実を受け入れざるをえなかった。

 父は戦争で、才能と努力で培ってきた仕事と、支え励まし合ったかけがえのない仲間を失った。

 父は震災で、町おこしにも寄与してきた故郷と、新しい仕事で芽生えた誇り、そして命までもを失った。

 どうして、どうして父はこんなにも奪われなくてはならないの?

 どうして父1人、こんなつらい思いをしなきゃならなかったの?

 私が撮りたかったのは、見たかったのは、地元に愛され誰よりも地元のことを考えていたたった一人の男が作り上げる、どこよりも素晴らしい街だった。地道に広告業で築き上げてきた実績が、よりよい未来のためのイベントのフィナーレが、少しずつ明るくなってきたこの街が、全部地震と津波で崩れ去ってしまった。こんな結末があっていいわけがない、こんな最期であってたまるか、ともがく。

 今も安否のわからない大切な人を探し続ける人がいる。わが家や職場の惨状を目の当たりにする人がいる。避難所では生きるだけで精一杯の人々が、明日を憂い、将来の不安に駆られている。こんなはずじゃなかったのに、と。

 IA電子資料館に行き着くところでエンドロールが流れ出す。最後監督であるリーナの名が出るまで眺め終わると、アイビーが音も立てずに立ち上がり、照明をつけた。

 アイビーはリーナの元へ戻ってきた。

「ご愁傷様でした」

 一言目、アイビーは深々と頭を下げた。

「やはりあなたの映画を見てよかった。と同時に、やはりあなたはこの大震災の様子をカメラに残していらっしゃった」

 リーナは沈黙を貫いた。

「私はあなたが撮ったすべての映像がほしい。地震直後からここにたどり着くまでの記録だけでなく、この映画そのもの、ビーチフェスタ、人々の笑顔、そして穏やかだったふるさとの景色、そしてあなたが感じたことすべて。平穏だった日常も、楽しかった思い出も、つらい出来事も、全部後世に残すべき記憶です。世界が変わっていくからこそ、引き継いでいくことが必要なのです。

 あなたの映像を、作品を、あなたの想いごと、すべて提供してください。今すぐでなくてもかまいません。でも、あなたが伝えてくれるそのときを、私はずっと待ち続けます」

 アイビーはリーナから離れてスクリーンをしまう。

 アイビーはリーナに、一日だけ猶予をくれた。自分の映画を見つめ直す時間を。自分が撮った映像に向き合う時間を。スクリーン上だけれど、父にもう一度会う時間を。そしてたくさんのものを奪った地震や津波から立ち上がるための時間を。

 終われない。こんなかたちでは絶対に終われない。こんな最後なんてあってたまるか。

「アイビーさん」

 リーナは立ち上がる。

「私の記憶、預かっててください」

 アイビーはそれを聞いて、少しだけ微笑んだように思えた。

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