YE自然公園
アイビーが残していったタブレットにはいくつかのWebページが表示されていた。ミランダは上司に写真の花の正体がワイイヒノデスミレであったことと、YE自然公園でしか撮影できない可能性が高いこと、ワイイヒノデスミレが光に弱く朝方の現場検証となることを伝え、戻りが遅くなる許可をもらった。ミランダはアイビーの帰りを待つ間、タブレットに表示されたものを見ることにした。
1つ目はYE自然公園の公式ホームページだった。ミランダはトップページからYE自然公園の紹介文を読んでいく。
YE自然公園とはYE市の半分を占めるYE山、およびYE山を流れるJE川の流域周辺であり、国が定める自然遺産に選ばれています。
YE山およびJE川には手つかずの自然が残っており、自然の原風景を後世に遺すべく管理しつつ、自然保護を学ぶ場としても自然公園の運営を行っております。
YE自然公園は在来種のオアシスとも呼ばれているほど未だに固有種をはじめとした在来種が数多く生息しています。ワイイヒノデスミレをはじめとした他では見ることのできない固有種や国の絶滅危惧種も生息しているとされ、研究チームと共同での保護活動を行っております。
最後の方に小さくワイイヒノデスミレが自生する区域は管理者や研究者などごく一部の人間を除いて立ち入りさえできないと書かれている。YE自然公園に自生する植物の紹介ページの一番上に、ワイイヒノデスミレの写真と解説文が載っていた。文章の終わりにはワイイヒノデスミレの保護区には立ち入らないでください、という文言がつけられていた。つまりはそれだけ貴重な種だということであろう。さらに、もしこういった保護区に無断で立ち入ったら罰金刑もあり得る。関係者もさすがに人間の監視をつけたり、警備ロボットを配備したりしてはいるだろう。だが如何せん現行犯で捕まえられない限りは警察も何も対処できない。
現場には必ず行くことになるのでミランダは住所から地図アプリで住所と経路を調べる。YE自然公園はXの自宅からは行くとなるとYE市を横断して行くことになる。事故があった交差点も経路の1つでは通ることになるので、Xの自宅からこの交差点を通ってYE自然公園まで行く道の監視カメラを中心にもう一度確認するよう連絡を入れた。
また、ミランダは自分の部下にXがYE自然公園の関係者であるかと、ワイイヒノデスミレの研究に携わっているかを調べておくよう命じた。もしもどちらでもない場合は、Xは不法侵入してワイイヒノデスミレの写真を撮っていた可能性もある。そちらからの捜査も必要になりそうだ。
2つ目はYE自然公園からのお願い、来園者に対する注意喚起のページのようだ。念のためミランダは目を通しておくことにした。当たり前だが自然遺産に登録されている以上、来園者を楽しませることよりも自然保護を優先することになるだろう。
最初にでかでかとスリや痴漢などの不審者にご注意ください、お子様やご自身の荷物から目を離さないでください、怪しい行動をしている人を見かけたらすぐに職員か防犯ロボットに知らせてください、の3行が記されている。
それを過ぎるとゴミは指定の場所に捨てる、食べ物の持ち込みはできない、といったどの施設でもある基本的なルールから写真はフラッシュを焚かない、立ち入りには事前検査や制限がある区域があるといった内容まで書かれていた。
事前検査の内容を見てみる。靴の汚れを落とし除菌する。手荷物のうち不要なものはコインロッカーまたは受付に預け、持ち込む必要最低限の荷物も出入り時にX線検査に通し、身体検査を実施するとされていた。植物や岩石等を採取できるツアーも時々行われているようだが、それ以外では基本的に自然のものに触れてはいけないとされている。
そういえばXの自宅には薬物そのものだけでなく容器や吸引器、怪しい葉っぱどころか植物の痕跡さえなかった。常用していたとしたなら、Xはどこで薬物を摂取し、どうやって出たゴミを処理していたのだろう。街中のゴミ箱に捨てればすぐに監視カメラやゴミ箱についたセンサーに引っかかるはずだ。
ミランダが頭をひねっていると、カツカツと小気味いい靴音が聞こえてきた。
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