不法侵入

 アイビーはYE自然公園の写真データや映像データを監視カメラや防犯ドローン、防犯ロボットのカメラ、公式、論文、その他に分けてまとめてくれたようだ。ミランダはまず、データを科捜研に送ることにした。

「公式は自然公園のホームページなどから、論文は研究者が撮ったワイイヒノデスミレね。その他って?」

「観光客などが撮った写真です」

 もしかしたらXも映り込んでいるかもしれない。ありがたく頂戴することにした。

「ところで調査対象はこちらの方ですか?」

 アイビーがXその人を指さしたのでミランダは思わず眼球を動かしてしまった。

「それが何か?」

「ただの観光客にしては動きが不自然です。おそらく監視カメラや防犯ドローン、防犯ロボットのカメラを避けるように行動していたからかと」

 ミランダは指さされた画像を食い入るように見つめる。確かに昔のスパイ映画にあるような、赤外線センサーを潜り抜けるような動きをしている。

「最初から不思議に思いました。あなたが持ってきたワイイヒノデスミレと全く同じ写真が電子資料データベースのものと完全一致するものがなかったのですから。こういった貴重な植物の写真はたとえ未公開とするものでも研究機関は電子資料データベースに登録を要請するはずです。

 それがなかったとするなら、個人で撮ったものの中でインターネット上にすら掲載されなかった写真ということ。保護区には関係者以外は入れないはずですから、Xは完全に不法侵入をしてワイイヒノデスミレの写真を撮ったことになります。証拠となる写真を誰にも見せていないとなれば、現行犯でなくては逮捕できないという警察の言い分もわかりますよ」

 アイビーは唇を尖らせた。残念ながらその通りである。インターネットに転がっていなければ、証拠を挙げることができない。Xはブログやホームページ、SNS等にも一切写真をアップロードすることはなかったらしい。

「ついでに言っておきますが、自然公園で防犯用のカメラの情報はあまりないと思ってください。自然保護のため設置型のものはほとんど配備できないのです。また、ドローンやロボットも保護区域に立ち入ることも稀です。監視ができないから出入りする際に持ち物検査や身体検査などを行っているのですから」

 ホームページにも保護区域に出入りする際にはX線検査をはじめとする持ち物検査や身体検査が書かれていた。裏を返せばそれしか植物や岩石、土壌等の不当な採取が行われていないか確認する方法がないと気づくべきだったのだ。

「また、論文数も最近のもので3年前。それ以降は研究が滞っているようです。研究者でも撮影回数が限られていますからね。

 さらに、電子データベースに登録されたワイイヒノデスミレおよび群生地の写真の中で気になることがあります」

 ミランダはアイビーが指さしたところを見る。黄色い花が咲いていた。道端でもよく見る花だ。そういえば人工知能検索にかけた際、この植物も検索に挙がることもあった。

「この花は本来ワイイヒノデスミレの群生地には生えておりませんでした」

 そう言ってアイビーはもう1枚の写真を見せる。確かにその黄色い花はなかった。自生区域に入るには本来靴の底の泥を落とすなどの環境保全に努めなければならない。Xはそんなことなどつゆ知らず、土足で入り込んでは写真を撮ったのだろう。

 ミランダはXのパソコンの画像データを思い出す。時系列順に並べていくと、ワイイヒノデスミレの群生地が狭くなっていったような覚えがある。さらに、写真の数も少なくなっていった。もしかしたらXのせいでワイイヒノデスミレの数が激減しているのかもしれない。

「つまりはXはワイイヒノデスミレの群生地に不法侵入している。そして群生地を破壊した。さらに、Xはワイイヒノデスミレによって中毒症状を起こした」

 アイビーがさらっとまとめる。

 ミランダはアイビーの言ったことを聞き返した。

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