出資企業

 会長との通話を終えると、ゴーダソンはくっくっくと不吉な笑みを浮かべていた。何だ、俺が言った通りじゃないか、電子記録員の鼻を明かしてやる、と応接間に戻ってきた。

「フロート車やパレード、コンテストに関しては全額企業からの出資を受けているとのことだったよ。やはり俺の考えが正しかったわけだ!」

 ゴーダソンはアイビーの前で高笑いをした。一方のアイビーは表情を崩さない。

「どうした? 言うことがあるんじゃないか?」

「社名を教えていただけますか?」

 ちっ、とゴーダソンは舌打ちをした。どこまでも生意気な職員だ、と悪態をつきながらも、ほら吹きと勘繰られては元も子もない。仕方ない、教えてやる、とゴーダソンは聞いた企業名をすべて教えた。アイビーは手元のタブレット端末をいじり始めた。

「おい!」

 防犯システムか何かがピピピ、と鳴る。ゴーダソンはソファに再び腰を下ろした。

「企業名はこれで合っていますよね?」

 ゴーダソンはタブレット端末を覗き込む。その結果は、各企業のホームページだった。スナックやキャバクラを含む飲食店5つ、アパレル、介護福祉サービス、学習塾、農園、遊技場、3社の派遣会社、珍しいところでは芸能事務所、卵子・精子バンクなどを請け負う会社もあった。

「そうだが」

「BG市とは全く関係ない企業ばかりではありませんか」

 アイビーがタブレット端末を見せたので、ゴーダソンは覗き込む。事業所の住所も違うし、BG市に展開している事業者もなかった。事業主も全く聞いたことのない人間だ。

「実は何社か気になることがありまして」

「気になることだと?」

 ゴーダソンは顔を近づける。

「この中のここ、とそれからこの事業者ですが、きな臭い噂を聞いたことがあります」

 アイビーが指さしたのはアパレルと介護福祉サービスだった。

「まずこのアパレルメーカーですね。ここは商標権・意匠権侵害で何回か裁判になっています」

「何ケン?」

「商品のデザインが有名ブランドと酷似していて裁判になったようです。例えばBAYTAのように見えるBATTAののような偽ブランドの商品を売っていたように。

 もしかしたら模造品売買斡旋のために出資したのかもしれません。BRG祭はある意味で恰好のカモを釣る機会とも言えますから」

「で、でたらめをっ」

 言ってはみたものの、ゴーダソンは実際にBAYTAのコピー商品であるBATTAを着た参加者をついさっきこの目で見たのだ。金のない市民が祭に参加するために購入したというのか。いや、売り手が有名ブランドと詐称して売りつけた可能性も否定できない。

「そしてここの介護福祉サービスですが、児童相談所からの監査が入っています」

「児童相談所?」

 児童どころか利用者はゴーダソンよりも年を重ねた人しかいないだろう。

「以前は在宅で介護を受ける老人または障害を持つ人のためのサービスを指していたようですが、福祉サービスとして幼児から児童までの保育を行っている事業所もあります。ここは施設職員からの虐待に対して通報があったようです。また、一部の子どもたちは無戸籍なのではないか、と疑われています」

 ゴーダソンは考える。無戸籍の子どもすら預かるとしたら出資ができるほどの利益はあるだろうか? そもそもなぜ無戸籍児を預かる?

 ゴーダソンが考えている間にもアイビーはタブレット端末をいじっている。

「学習塾も芸能事務所も卵子・精子バンクも、ほとんど実績や利用者の声がないですね。こういった業種は実績重視だというのに」

 アイビーが懸命に検索している様を見て、ゴーダソンもさすがに雲行きが怪しくなってきたことを感じ取った。どれもこれも出資する企業がきな臭くなってきたのだ。やがてアイビーはタブレット端末を操作する手を止めた。

「ゴーダソンさん、やはり、動画を電子資料データベースに載せる前に我々にはやるべきことがありそうです」

 ゴーダソンはごくりと生唾を飲む。アイビーの次の一言はこうだった。

「これらの企業の株主はどれも1社のみ。マフィアのフロント企業と思しき会社です」

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