わかったよ…… もうあきらめるよ……

「あ、杏樹!?」


 俺たちの前には笑顔で腕を組んで立っている杏樹がいた。


「うちの蘭を何勝手に二人の子にしてるのかな?」


「え、えっと」


 絶対変な勘違いしてるだろ……

 一刻も早く誤解を解かなくては。


「そう見えるでしょー?」


「おい、未来」


 やってくれたな、もういいわけできないじゃん。


「へえー、まあ見えなくもないわね」


「あれ? 怒ってないの?」


 じゃあなんで笑顔で腕組んでたんだ?


「ずっと隣にいたのに誰も気づかないからよ、誰でも怒るでしょ?」


「あ、はい……」


 ずっと隣にいたんですか……

 言ってくださいよ……


「で、もうそろそろ帰ってもいい?」


「なんかごめんな、余計な時間取らせちゃって」


「こっちこそ蘭のお守りありがとね」


「蘭ちゃんならいつでも歓迎だけどな」


「通報するわよ?」


「すみません……」


 だって蘭ちゃんは癒しになるんだもん……

 って俺は雄二かよ! あんなロリコンになった覚えはないぞ!?


「まあ、今度にでもうちでゆっくりしていきなさいね」


「ああ、カレーの日に頼むな」


「はいはい、その時に連絡するわ」


 杏樹の家のカレーは美味しいからな、結構楽しみにしてるぞ。


「おう、それじゃあな」


「ばいばい紗月にいー」


 杏樹と蘭ちゃんは出口に向かって行ってしまった。

 それにしても今日はよく知り合いに会うな…… 知り合いフルコースじゃねえか。


「なあ、未来。 今日ってここのモールでセールかなんかやってたか?」


「たしか、レディースデーだった気がするよー」


「だからか……」


「それより何食べていくー?」


「あ、そうだったな」


 杏樹の登場ですっかり忘れていた。


「俺はドーナツでいいかな」


「え、つっくん意外と乙女?」


「んなわけあるか、ただ美味しそうだなって思っただけだ」


「じゃあ、私もドーナツにするー」


「一緒なら俺が買ってくるけどなんか食べたいのあるか?」


 適当に選んであとで文句言われるのは嫌だからな。

 できる紳士は確認もするんだぞ。


「んー、特にないからつっくんのおすすめで!」


「りょーかい……」


 結局俺が選ぶのかよ……

 まあ、いいか。



「さてと、何にしようかな」


 某人気ドーナツ屋に入ってトレイとトングを取りショーウィンドウに並んでいるドーナツを選ぶ。

 種類が多くて結構悩むなあ。


「あ、それ美味しいよ!」


「じゃあ、これにしようかな」


 ってうん? 今のって……


「もしかしなくても六実か?」


「そだよー」


 まじでオールスターじゃねえか……

 逆にもう会う人がいないくらいじゃん……


「六実は何をしにここにいるんだ?」


「なんか急にドーナツが食べたくなってね」


「絶対会う運命だったのか……」


 もういいや、あきらめよう。

 もう誰とも会うことがないんだし。


「紗月は一人? それともみーちゃんと?」


「二人だな」


「やっぱりかー、二人とも仲いいねー」


「まあ、そりゃな」


 幼馴染で同居もしてたら仲良くなるだろう。

 しかも一応恋人なわけだしな。


「お腹もすいたしもう買って行っこか」


「六実も来る気なのか!?」


「もちのろん!」


「わかったよ…… もうあきらめるよ……」


 あとで未来にちゃんと謝罪しよう。

 何をしたら許してくれるだろうか……

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